ウェブ1丁目図書館

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戦後の日本経済の成長に人口はどう関係したか

少子高齢化

現代日本が抱える深刻な問題とされているのがこれです。少子高齢化がこのまま進めば、22世紀には日本の人口は5千万人を割り込むと言われています。そして、現在の日本の人口が半分以下となることから、経済にも大きな打撃を与えるに違いないと考えられています。

経済成長にとって人口増加は必要条件である。

この考え方が前提としてある限り、日本経済の持続的成長には人口増加策を採らざるを得ません。

所得が増えると人口も増える?

人口が経済にどのような影響を与えるのか、そして、日本経済の発展と人口がどのような関係にあったのか。

マクロ経済学を専門とする吉川洋さんの著書「人口と日本経済」では、これについて一般向けに分かりやすく解説されています。

かつて、マルサスは、食料が十分にある状況では、人口が増え続けると述べました。しかし、人口は掛け算式に増えるのに対して、食料は足し算式にしか増えないことから、人口増加は、必然的に食料の制約を受けると指摘しました。

これに対して、リカードは、工業製品を輸出し農産物を輸入すれば人口問題を解決できると反論します。しかし、マルサスは、農産物を輸入し続ければ、貿易相手国での農産物価格が上昇し、工業製品の相対的価値が下がるため、農産物の輸入は人口問題の根本的解決にならないと再反論しています。

一体どちらの言い分が現実に即しているのでしょうか。

ケインズは、ドイツの人口が、1870年に4000万人だったのが、1914年に6800万人に急増したことを半自給自足の農業国から強大な工業国にドイツが脱皮したことを理由として挙げています。工業製品は農産物よりも、高い価格で取引されますから、農業国から工業国への転身はGDPを引き上げると考えられます。そして、国民の所得が上がれば生活に余裕ができて、出生数も増えると想像できます。

ところが、現実はそうなっていません。1920年代から30年代のイギリスでは、人口減少が問題となり、現代の日本でも同じように人口減少が問題となっています。しかも、高所得世帯ほど出生数が少なくなっているのです。

  • 1人の子供に多くの教育費を使いたいから
  • 高所得者は贅沢な生活をすることに時間とお金を使おうとするから


このような指摘もありますが、実際のところはどうなのでしょうか。

人口は経済成長を決めない

国民の所得が増えているのに少子化で人口が減っていくと、日本の経済はどうなっていくのでしょうか。

戦後の高度成長は人口の増加に支えられて成し得たものだとすれば、人口減少は日本経済の衰退につながりそうです。

しかし、明治以降の日本経済の成長と人口増加とは、ほとんど関係がありません。1950年代から60年代の高度成長期には、実質GDPが飛躍的に伸びました。ところが、実質GDPの飛躍的な伸び率と比較して、人口はほぼ横ばいと言える程度の伸び率でしかありません。2度のベビーブームがありましたが、実質GDPの伸び率と比較すれば、足元で低空飛行しているようなものです。

高度成長は、輸出によって支えられたとの見解もありますが、こちらも誤解です。高度成長期の純輸出の経済への貢献は、ほぼゼロです。

では、いったい何が年平均10%の高度成長を実現させたのでしょうか。

それは、旺盛な国内需要です。親、子、孫が同じ家で暮らす生活スタイルは、地方から都市への集団就職もあり、核家族へと変わり始めました。

これにより、地方では過疎化が始まり人口は減少しましたが、どの都市でも世帯数は増加しました。

世帯数が増えればどうなるでしょうか。それは1つの家で暮らしていた家族が、2つの家に分かれて生活するようになったことを考えればわかります。冷蔵庫も洗濯機も掃除機も、1台あれば十分だったのが、それぞれ2台必要になります。日本全国で核家族化が進めば、世帯数が増え、これら家電製品の売れ行きは増加します。もちろん、マンションやアパートも建設されますし、自動車も売れます。

しかし、世帯数を増やして経済を成長させる方法は基本的に1回だけしか使えません。日本は、1950年代から60年代がこのボーナスタイムの期間でした。同じ方法での経済成長は難しいでしょう。晩婚化や熟年離婚を促進し、おひとり様世帯を増加させれば、再びボーナスタイムに入るかもしれませんが。

イノベーション労働生産性を高める

人口増加は経済成長に大きな影響を与えません。

吉川さんは、経済成長に大切なのは、技術進歩、すなわちイノベーションだと述べています。

人口増加を経済成長に結びつけて考えようとする人は、シャベルやツルハシを持って道路工事をしている姿をイメージしています。なるほど、全てが人力なら、人口増加は経済成長と結びつきます。しかし、高度成長期のような飛躍的な経済成長は、そのような方法で成し遂げられるものではありません。

ブルドーザーを開発して、数十人でやっていた工事を1人でできるようになるから、経済は飛躍的に成長するのです。

そして、この場合、ブルドーザーを開発することがイノベーションです。イノベーションは、人口を増やさなくても労働生産性を高めます。

どんなモノやサービスでも、需要は飽和します。新たな需要を生み出すためにはイノベーションが起こらなければなりません。そして、イノベーションを起こすためには、投資が必要です。投資によってイノベーションが起こり、世の中に便利なモノやサービスが誕生することで需要が生まれます。

人口が増えれば需要は増えますが、イノベーションなくして新しい需要は生まれません。

経済を成長させるのはイノベーションであり、人口増加は経済成長に必要条件ではないのです。