ウェブ1丁目図書館

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人口が減少する都市ではスポンジ化への対応が必要

これからの日本は人口減少社会になることが様々な資料から明らかになっています。人口が減ると経済が衰退し、日本の国力も弱まっていくと考えられていることから、人口を増やす方向での議論が活発です。

しかし、人口を増やせば経済が活性化し、国民の暮らしが良くなると考えるのは、あまりにも短絡的ではないでしょうか。これまで、人口が増加し続けていた都市では、多くの問題が起こっていましたが、まるで、そんなことはなかったかのように人口が増え続ける社会こそが良い社会だと言わんばかりです。

人口増加による弊害を無視し、少子化対策に力を入れることは、果たして日本に明るい未来をもたらすのでしょうか。

あらゆるものが不足してきた人口増加社会

環境経済学、財政学、地方財政論を専門とする諸富徹さんの著書『人口減少時代の都市』は、これまでの人口増加社会における負の側面を考察し、これから人口減少社会に起こるであろう様々な問題をどう乗り切るか、その施策を考えるヒントが紹介されています。

明治以降20世紀まで、日本は人口増加社会であり、日本の都市は戦後数十年、ずっと経済成長、人口増加、地価上昇という三条件の揃った右肩上がりの状況で成長してきました。こう聞くと戦後数十年は都市にとってすばらしい時代だったと思いがちですが、その時代は、社会資本が追いつかない、公共施設は不足する、道路は渋滞、住宅は狭小、「痛勤」と言われるほどの遠距離通勤、廃棄物問題、大気汚染など、都市公害問題に悩まされてきました。

人口増加社会における都市では、あらゆるものが不足し、それが住民に様々なストレスを与えていたのですが、そんなことはすっかり忘れられているのが21世紀の日本なのです。

社会資本の更新が重荷になる人口減少時代

それなら、人口が減少すれば、都市は快適になるかというとそうとも言えません。

これからの日本は、低成長、人口減少、地価下落という新たな三条件下で生きていかなければならず、これまでの発想では失われていくことに対するストレスを抱え続けることになります。特に厳しくなるのは、道路橋、トンネル、河川管理施設、港湾岸壁などの社会資本の維持更新です。これらの維持管理・更新費だけで国や自治体の多くの予算を使わなければならず、その他の事業への予算配分が難しくなっていきます。

そのため、これからの人口減少時代では、あれもこれも追求するのではなく、あれかこれかを選択しなければなりません。少子化対策は、人口を増やし、あれもこれも追求する考え方が根底にあると言えます。人口増加にこだわるのではなく、人口が減少してもやっていける都市を目指す方が現実的な対策と言えるでしょう。

20世紀の都市開発の成功例

人口増加時代の20世紀の都市でも、財政には悩まされていました。そんな中でも知恵を出して住みやすい都市を開発してきた自治体はありました。

例えば、神戸市は歳入を超える予算をあえて組み、歳入が足りない分については、神戸市が事業を行い、その収益を充てていました。ビジネスチャンスがあれば借金をして資金を調達し投資するというのが神戸市の戦略で、それが功を奏し、税収以外に多くの財源を持っていました。そして、開発利益は、住民の福祉水準の向上に投じていたのです。

このような神戸市のやり方は、戦前からも提唱されていました。都市事業を市営事業として営めば、その収益は自治体のものとなり、それを市民に還流すれば、生活水準の引き上げや公益的なインフラの充実が図れます。しかし、私企業に都市事業を任せると、利益の一部が税収として入ってくるだけで、市民の生活水準はそれほど上がりません。

また、大阪市も水道や電気を市の事業として行い、一般財源の赤字を公営企業会計の黒字で相殺し、都市を順調に開発していきました。

一方、東京都は、法人事業税と法人住民税の増税により財源を確保し、こちらもうまくいっていました。

しかし、神戸市や東京都のやり方は、人口増加や経済成長がなければ実現するのが難しく、これからの人口減少時代には都市経営モデルたりえないとのこと。

21世紀の都市経営

それなら、21世紀の都市経営はどうすべきなのでしょうか。

人口減少時代では、土地と不動産が過剰になり、大都市圏以外は、資産価値の下落が常態化します。このような時代には、郊外における新規立地の抑制や都市中心部への住民移転を誘導するなどのコンパクトシティの考え方を取り入れる必要があります。しかし、コンパクトシティは、これまで形成してきたコミュニティを解体し再構築する手間がかかり、かえって高い費用負担となることが懸念されています。

また、現実の都市で進行する可能性が高いのは、都市の大きさはそのままで都市内部でランダムに居住区域の縮小が進むスポンジ化とのこと。このスポンジ化に対しては、富山市の縮退都市政策が参考になりそうです。

富山市では、公共交通機関の沿線に沿って居住を誘導する政策をとっています。これは、コンパクトシティのような一極集中ではなく、多極をつくってそれらを公共交通機関のネットワークで結ぶといったものです。富山ライトレールの開業により、自動車からの転換で二酸化炭素の排出量が削減でき、高齢者も各種活動に参加するようになったそうです。富山市の政策は、これからの人口減少時代の都市運営のヒントになるのではないでしょうか。


また、富山市の例以外にも、これからは社会資本への投資一辺倒ではなく、自然資本への投資も重要となってきます。海外では、都市の価値は、自然資本の豊かさによって維持されるようになっており、日本もこれからはそうなっていく可能性があります。他にも、人や文化への投資も必要であり、エネルギー資源の輸入で住民の所得が外に逃げないよう再生可能エネルギーの開発にも力を入れていくことが必要になります。

大は小を兼ねるという発想は人口増加時代にしか当てはまりません。人口減少時代には、小さくなっていくことへの対応が必要です。人口減少に対応できた都市は、人口増加に転じた場合にも、20世紀のような弊害を生み出さなくなるでしょう。