ウェブ1丁目図書館

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土地所有者不明問題の解消に個人番号が効果を発揮するのではないか

土地には必ず所有者がいて、しかも、その所有者を確実に特定できる。

誰もが、当たり前に思っているこの概念が崩れ始めています。いや、正確に言うと、明治以降、土地所有者を確実に特定できる制度は存在しておらず、いつでも所有者不明の土地が出現する可能性がありました。

近年、老朽化した空き家が倒壊する危険が指摘されていますが、所有者がわからない場合には、問題を解決するのが難しいです。

人口が減少する中での土地の相続は難しくなる

東京財団研究員兼制作プロデューサーの吉原祥子さんは、現在の日本の土地制度は、明治に確立し戦後右肩上がりの経済成長時代に修正・補完されてきたもので、地価高騰や乱開発など過剰利用への対応が中心だったと著書の『人口減少時代の土地問題』で述べています。

そのため、現在の土地制度は、過疎化や人口減少に対応したものとなっておらず、土地の「所有者不明化」が起こっていると指摘しています。

ところで、なぜ、土地の所有者がわからないといった事態が起こるのでしょうか。土地を取得すれば、不動産登記簿の名義が書き換えられるので、取引の都度、最新の情報に更新されていくはずです。しかし、不動産登記は義務ではないので、例えば、親から相続した土地について相続登記をしなくても構いません。また、相続登記をしなかったからといって、通常、相続人が何らかの不利益を被ることもありません。

そのような理由から、相続された土地については、死亡者名義で登記が残っているといった事態が起こっているのです。親の土地に相続人である子が住んでいる状況なら、土地所有者は特定しやすいですが、遠く離れた土地に相続人が住んでいる場合には、自治体は連絡を取るのが困難になります。さらに子から孫に土地が相続され相続登記が行われなければ、誰が土地所有者であるか、すぐに特定するのは極めて難しくなります。

人口が減少していっている現代の日本だと、相続人がいなくなり、誰のものでもない土地がたくさん出現する可能性があります。

不動産登記は対抗要件

現在の日本での土地についての基本情報は、不動産登記簿のほか、固定資産課税台帳、国土利用計画法に基づく売買届出、農地台帳などが、目的別に作成・管理されています。

これら複数の種類の記録はあるものの、土地の所有・利用に関する情報を一元的に共通管理するシステムは整っていないとのこと。また、国土管理の土台となる地籍調査も、1951年の開始以来、本書が出版された2017年当時まで5割しか進んでいません。これでは、土地の所有者を特定できなくても仕方ないでしょう。

ところで、不動産登記はなぜ必要なのでしょうか。

土地を取得した時、不動産登記をしなくても、自分がその土地の所有者になることができます。海外では、不動産登記を済ませないと土地の所有者として認められないとする国もありますが、日本の場合は、不動産登記は対抗要件に過ぎません。

ここで対抗要件とは、この土地が自分のものであると他人に主張できることです。例えば、山田さんが自分が所有する土地を鈴木さんと佐藤さんに二重譲渡したとします。この場合、山田さんと先に土地の売買契約を結んだ方が土地の所有者であると主張できるのではなく、先に不動産登記を済ませた方が土地の所有者であると主張できます。鈴木さんが先に登記をしていれば、例え佐藤さんが先に売買契約を結んでいたとしても、その土地は鈴木さんのものとなります。

不動産登記が対抗要件とされているのは、取引の安全を重視したからです。だから、売買が行われない土地に関しては、わざわざ不動産登記をする動機が所有者にはありません。

土地の再利用や安定的な徴税を妨げる土地所有者不明問題

日本の制度では、土地の所有者には大きな権利が与えられています。そのため、土地所有者が不明だからといっても、すぐに国や自治体が、その土地をどうこうすることはできません。

これは、災害が起こった時に非常に困ります。

東日本大震災後、復興を行う時に所有者不明の土地があり、再開発が迅速に進まなかったという問題がありました。数十年前に死亡した人の名義が不動産登記されていると、その相続人を探すのに手間がかかります。子が法定相続人になるのだから、名義人の子を探せば良いだけだと思うでしょうが、子が複数いた場合には、法定相続人も複数になりますから、子全員を探す必要があります。さらに子が亡くなっていれば、孫が相続することになりますから、年月が経過するにつれて、法定相続人がねずみ算式に増加していきます。

このような状況では、大災害が起こった後に土地の再開発が難航するのは無理のないことです。

また、固定資産税の徴収も、相続登記が行われていない場合には困ります。

相続未登記のため、不動産登記簿上の土地所有者が死亡者名義のままとなっているものについては、本来は無効であるものの、やむをえず登記簿名義人に課税する死亡者課税や課税保留が行われているのが現状です。

死んだ人にどうやって課税するのか疑問に思うでしょう。この場合、相続人に相続登記を済ませてもらえば問題ないのですが、法定相続人を調査するのには多大な労力を要するので、次善の策として親族の誰かが固定資産税を納めていれば良しとしています。

しかし、親族が全く分からない場合には、死亡者課税もできません。この場合、法的根拠はないものの、課税保留としておきます。課税保留のまま、滞納状態が続くと、やがて、徴収不能として会計上消滅させる不能欠損処分が行われます。

固定資産税を安定的に徴収するためにも、土地所有者不明問題は、解決されなければなりません。

個人番号を活用できないか

土地の所有者を一元管理するシステムがないことが、土地所有者不明問題の原因の一つですが、これを解消する方法としては、個人番号の活用が考えられます。

日本国民には、全員に個人番号が振り当てられていますから、土地所有の情報を個人番号に紐づけできれば、土地所有者が死亡しても、法定相続人を特定しやすくなります。マイナンバーカードは必要なく、ただ、土地を取得した時に個人番号が記録されるような仕組みにしておけば良いだけです。

マイナポイントなどに予算を割くくらいなら、土地所有者不明問題の解消に予算を割くべきでしょう。

管理不能となった土地を自治体に寄付したいという所有者もいますが、自治体にとって利点のない土地については、寄付を受け付けないのが現状です。そのような土地に関しては、更地にするための費用を国が支援すれば、買い手が見つかるかもしれません。また、登記コストが資産価値を上回ってしまう土地についても、登記コストを国が補助すれば、死亡者名義のままずっと登記され続ける事態を予防できます。

日本の土地は外国人でも買えます。もしも、外国人の所有になった後、その土地が、誰のものかわからなくなってしまうと、ますます土地所有者不明問題の解消が困難になります。

国民全員に2万円のマイナポイントをばらまくと2兆4千億円になります。その4分の1が支給されたとしても6千億円です。これだけの予算があれば、少しは土地所有者不明問題の解消が進むのではないでしょうか。

追記

2024年(令和6年)4月1日から、相続登記が義務化されます。

不動産を取得した相続人は、その所有権の取得を知った日から3年以内に相続登記の申請をしなければなりません。正当な理由なく義務に違反した場合は、10万円以下の過料の適用の対象になります。詳細は、以下をご覧ください。

相続登記が義務化されます(令和6年4月1日制度開始)   ~なくそう 所有者不明土地 !~:東京法務局