日々の生活の中では、いろいろと迷うことがあります。特に仕事中は迷うことばかり。僕も、うまくいかなければ、何かまちがったことをしているのかなと迷ってしまい、仕事がはかどらないことがよくあります。
でも、そういった迷いがあるのは、自分自身に原理原則と呼べるものがないことが理由なのかもしれません。
京セラの創業者の稲盛和夫さんは、著書の「生き方」の中で原理原則の大切さについて述べています。
持ってるだけで価値が上がるなんてありえない
1980年代後半はバブル経済の真っただ中。
この時代は、多くの企業が不動産や株式に投資をして利益を上げていました。中には、絵画を高額なお金を出して買う企業もありましたね。他には、アメリカのビルを買ったり、映画会社を買ったりとか。
これらのお金の使い方に共通しているのは、自分は何もせずに利益を上げるという目的が背後にあることです。土地も株式も、買ってそのままにしておけば、数ヶ月後には買値の何割か値上がりしているなんてことは、バブルの時は当たり前。絵画なんて、どこかの古美術商で購入し、その足で、近くにある別の古美術商に持っていけば、買値よりも高い値段で売ることができたなんて話も聞きます。
もちろんバブルの時は、稲盛さんのもとにもそういった儲け話を持ち込む人がいたようです。でも、稲盛さんには、仕事に対する原理原則がすでに備わっていたので、そういった話には一切乗らなかったということです。
額に汗して自分で稼いだお金だけが、ほんとうの”利益”なのだ(90ページ)
これが稲盛さんの原理原則です。
土地を右から左に動かすだけで多大な利益が発生するなんておかしい。もしもそんなことがあるのなら、それは浮利にすぎません。簡単に入るお金は、すぐに逃げていくと思ったので、投資話は全て断ったということです。
そして、バブルが崩壊した後、投資に走っていた会社は利益を生み出すはずだった資産が、逆に負の遺産となり、今もその後遺症から抜け出せていません。
稲盛さんの原理原則は、人生の方程式で表すことができます。
人生・仕事の結果=考え方×熱意×能力(94ページ)
この式の中で、最も重要なのは「考え方」とのこと。どんなに優れた能力や熱意があっても、考え方が間違っていれば、その人の人生や仕事の結果はマイナスとなります。熱意も能力も60点だったとしても、考え方が-50点なら、その人は-18万点となります。
きっと、バブルの時に投資でうまくいった人たちは、能力も熱意も高かったのでしょうが、浮利を求めるという考え方がマイナスだったため、その後に多額の負債を背負うことになったのではないでしょうか?
現場主義でなければ何も身につかない
稲盛さんは、知識よりも体得することの方が大事とも述べています。「知っている」ことと「できる」ことは、まったく違うということです。
最近は、情報化社会と言われるように知識が重視されます。でも、どんなに知識があっても、できることとの間には大きな溝があります。それを埋めるのが、現場での体験だとのこと。
創業して間もない頃、稲盛さんは経営のセミナーに参加したそうです。参加の動機は、本田技研工業の創業者・本田宗一郎さんが講師として招かれていたからです。そのような有名な経営者の方の講義なら、誰だってセミナーに参加したいと思うのが当たり前。
セミナー会場は、温泉旅館で2泊3日の日程が組まれていました。参加費は数万円ということですから、当時の金額としては、かなり高額です。
参加者が浴衣に着替えて大広間で講義が始まるのを待っていると、作業着姿の本田さんが姿を現しました。浜松の工場から直行してきたということです。そして、開口一番に経営の勉強をしに来たのなら、今すぐに会社へ帰って仕事をしろと言ったそうです。
さらに続けて、自分は誰からも経営のことを教わってないけど、会社を経営できているんだから、やることは仕事のみ、さっさと会社に帰って仕事をしなさいとおっしゃったそうです。
そして、ダメ押しに「こんな高い参加費払ってくるバカがどこにいる」と毒づかれたということ。さすがに稲盛さんもグウの音も出なかったそうです。
上手に泳げるようになるためには、水の中に飛び込んで泳ぐしかありません。畳の上で泳ぎを習っても当然のことながら泳げるようにはならないのと同じように、経営というのも現場の仕事の中でしか身につかないということですね。
これは、経営に限らず、どのような仕事でも言えることではないでしょうか?仕事だけではありません。趣味だって上達するためには、何回も経験しなければならないでしょう。
迷った時には原理原則に基づく行動が大切。そして、その答えは現場に落ちているから、日々の仕事の中で経験を積むことが重要なわけですね。
とは言え、言葉で言われればわかりますが、楽できそうな誘惑が目の前に転がっていると、それに飛びついてしまいそうになります。誘惑をはねのけるためには、やはり、人生経験を積むことが必要なのでしょう。