ウェブ1丁目図書館

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性分化の過程で身体の性別と心の性別に異なりが生じる場合がある

ヒトは生まれた時に女性か男性かが決まっています。ヒト以外の哺乳類、例えばイヌやネコも、生まれた時に雌雄の区別があります。

これは、当たり前のように思えますが、女性なのか男性なのか区別がつかない場合もあります。多くの人は、身体を見れば、どちらかわかるじゃないかと思うでしょう。しかし、外見で男女を判断する考え方は少しずつ失われてきており、内面で判断するようになってきていますから、必ずしも見た目で性別を判断できるとは言えません。

ヒトの性分化の仕組み

ヒトは、母親の胎内で女性か男性かが決定されます。

厳密には、受精の際に遺伝的性の決定がなされており、妻が夫からX染色体を受け取れば誕生する子供は女の子、Y染色体を受け取れば誕生する子供は男の子となります。

日本比較内分泌学会の「ホルモンから見た生命現象と進化シリーズⅣ 求愛・性行動と脳の性分化-愛-」では、ヒトの性分化がどのように行われるのかが解説されています。

ヒトは、女性型が基本型ですが、胎内での性分化により男性となる場合があります。胎児の未分化の生殖腺は、XX染色体を持つ女性の胎児の場合は特別の刺激を受けず、生殖腺は基本形の卵巣へと分化し女性型となります。一方、XY染色体を持つ男性の胎児は、Y染色体上の精巣決定遺伝子(SRY)の働きにより、生殖腺は精巣へと分化します。

また、生殖腺の性が決定される時期には、脳の性分化も起こります。女性の胎児では、性ホルモンのない環境で脳の性は基本型の女性型となります。対して、男性の胎児では、アンドロゲン(男性ホルモン)の作用により、脳は男性型になります。さらに思春期を迎える頃に女性は卵巣でエストロゲン(女性ホルモン)が作られ、男性では精巣でアンドロゲンが作られ、これらのホルモンの働きにより男女とも二次性徴が発達します。

性自認性的指向

多くの場合、身体が女性であれば自分は女性だと認識します。また、身体が男性の場合は、自分は男性だと認識します。これを性自認といいます。そして、性自認が女性なら男性に惹かれますし、性自認が男性なら女性に惹かれる性的指向を持っています。

ほとんどの人が、自認している性別とは別の性別に惹かれる性的指向を当たり前だと捉えています。

そして、同性に魅かれる同性愛者や身体とは異なる性を自認しているトランスジェンダーの方は、変わった性癖を持っている人だと思っているのではないでしょうか。

しかし、同性愛やトランスジェンダーは、性分化の問題なので、性癖、つまり、その人の趣味趣向とは別にして論じなければなりません。

同性愛やトランスジェンダーは、性周期、性自認性的指向の働きを司る脳の性分化の結果で決まります。多くの場合では、身体の性が女性と決まれば脳の性も女性になりやすいのですが、身体の姓が女性であっても脳の性が男性となる場合もあるのです。すなわち、同性愛やトランスジェンダーは、性分化の際に身体と脳の組み合わせが異性となっただけであり、それは生まれつきの個性と考えられます。

前掲書の101ページでは、身体の性と脳の性のパーツの組み合わせにより、性自認性的指向に複数のパターンがあることが示されています。

例えば、身体が男性の場合だと、

  1. 男であると自覚し,女に惹かれる=異性愛
  2. 男であると自覚し,男に惹かれる=男性同性愛
  3. 女であると自覚し,男に惹かれる=トランスジェンダー異性愛
  4. 女であると自覚し,女に惹かれる=トランスジェンダー・女性同性愛

の4つの組み合わせがあります。

ここで注意しなければならないのは、3番目の「女であると自覚し,男に惹かれる」人は、身体が男性で性的指向が男性だから男性同性愛になるのではないということです。この場合、自分は女性だと認識し男性に惹かれているので異性愛です。ただ、身体が男性で性自認が女性だから、トランスジェンダーとなります。

冒頭で述べた「外見で男女を判断する考え方」が失われてきているというのは、こういうことです。現在、世界保健機関(WHO)、アメリカ精神医学会、日本精神神経医学界は同性愛を精神障害とみなさないことにしています。

トランスジェンダーの方が、自分の身体の性に違和感を持っていて苦痛を感じ、医師が治療が必要だと判断した場合、その診断名は性別違和となります。トランスジェンダーも個性なのですが、性別違和という診断名がつくことで、ホルモン療法や外科的治療を行うことが可能になります。

生物学はマイノリティーが存在することを前提としている

同種の生物には、多くの「そうである個体(マジョリティー)」と少しの「そうでない個体(マイノリティー)」が存在しています。そして、このような傾向は、ほとんどの生物種で見られます。

いろいろな性質について見てみると,ほとんどの場合で,マイノリティーの区分に入るものが見られる.このように動物の集団にはほとんどと言ってよいほどマイノリティーが見られるが,このマイノリティーが見られるということ,マジョリティーとは異なる性質をもつ個体が集団の中にいるということは動物の基本的性質と言っても過言ではない.このマイノリティーが,ある環境下での適応力を高め,そして集団の中でのマジョリティーとなった場合に,新しい種の分化につながる.すなわち進化である.(94~95ページ)

現在の人間社会では、同性愛やトランスジェンダーはマイノリティーです。しかし、同性愛やトランスジェンダーが、その人の性癖や趣味趣向と関係なく、性分化の問題であることから、やがて、同性愛やトランスジェンダーがマジョリティーとなることも考えられます。


身体が女性だからと言って、その人を女性と決めつけることはできません。

脳が女性と認識していれば、その人は女性なのです。