ウェブ1丁目図書館

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比較内分泌学から見る投資行動

生物は、どのような仕組みで生きているのか。それを一言で説明するのはとても難しいです。

生命維持のための体の働きは様々ありますが、血管の中に分泌されるホルモンも生命維持にとって重要な物質です。

唾液や膵液のように口腔内や十二指腸内に分泌される物質は体の外への分泌であることから外分泌と呼ばれています。それに対して、ホルモンは体の中に分泌される物資のため内分泌と呼ばれており、各生物の進化や生命現象にホルモンがどのような影響を与えているのか比較する学問を比較内分泌学といいます。

オキシトシンと信頼関係

日本比較内分泌学会編集委員会の「ホルモンから見た生命現象と進化シリーズⅠ 比較内分泌学入門-序-」では、生物進化との関係を比較しながらホルモンの働きが説明されています。その中でも、オキシトシンというホルモンについて詳しく述べられています。

オキシトシンは、出産のときに子宮平滑筋の収縮を促し、出産後に乳汁射出を促すホルモンです。この一文からでも、オキシトシンが哺乳類の出産や子育てに重要なホルモンであることがわかります。

そして、このオキシトシンは、信頼ホルモンではないかとも言われています。

同書では、スイスの研究チームが128人の男子学生を使って信頼ゲームを行った研究結果が紹介されています。その研究結果によると、どうもオキシトシンが他者を信頼するように被験者を行動させているようなのです。

各学生には、ゲームに使える通貨を12MUずつ渡します。そして、学生は預託者と受託者に分かれます。

預託者は、受託者に0、4、8、12MUのいずれかの額を受託者に投資します。受託者は、預託者から預かった投資額の3倍を受け取ることができ、その中から預託者にいくらかを戻します。受託者が預託者に戻す投資額はゼロでも構いません。したがって、預託者は、ずるがしこい受託者に投資すると全く投資額を返してもらえない場合があります。

例えば、預託者A君が、受託者B君に12MUを投資したとします。この時、受託者B君は3倍の投資額を受け取れますから36MUが、もともと持っていた12MUに加算され48MUを保有することになります。そして、受託者B君は、0MUから48MUの範囲で預託者A君に戻します。

もしも、あなたが預託者A君なら、0、4、8、12MUのいずれを受託者B君に投資しますか?

12MU投資すると、受託者B君が裏切れば全ての財産を失います。しかし、全く投資しなければ財産を増やすことはできません。両者を比較すると、4MUか8MUのどちらかを受託者B君に投資するのが無難だと考えるかもしれませんね。

オキシトシンは投資額を増やす

この信頼ゲームの50分前に預託者にオキシトシンが点鼻され、対照群には偽薬(プラセボ)が点鼻されました。誰にオキシトシンが投与されたかは、学生にも投与した方にもわかりません。

その結果、オキシトシンを投与された預託者は、プラセボとの比較で多くの額のMUを預託していました。しかも、半数近くの人が12MUを預託していたのです。

どうやら、オキシトシンには他者を信頼する働きがあるようです。詐欺師には、絶対にオキシトシンを渡してはいけませんね。

ただ、信頼ゲームとは異なり、リスクゲームの場合は、オキシトシンを投与された預託者とプラセボで大きな差が出ませんでした。リスクゲームは、信頼ゲームと同じようなルールで行われましたが、受託者はコンピューターで、預かったMUを戻す額はランダムで決定されます。

これらの結果は,オキシトシンが脳に作用して,ヒトの社会的な行動である「相手を信頼する」という行動が増強されたことを示唆している.ちなみにこのオキシトシン点鼻薬は,アメリカでは市販されている.(35ページ)

アメリカで、投資話を持ちかけられた時は警戒しましょう。


信頼ゲームの結果を見ると、ホルモンを人為的に調節することで、人の行動を操作することが可能だとわかります。すべてのホルモンが人の行動に影響を与えるかどうか知りませんが、人為的なホルモンの操作は心身に何かしらの影響を与える可能性があります。

治療で使われる薬には、ホルモンを操作するものがありますが、そのような薬を何種類か飲んでいると心身に不具合が出ないかと不安になります。