これから景気が良くなるのか悪くなるのか。
資本主義社会に生きていれば、多くの人が気になる話題です。そして、景気を良くするためには何をすべきかも知りたいところ。反対に景気が悪くなるとすれば、今のうちに打つべき対策があるのかも知っておきたいですね。
貨幣はいきなり無価値になることも
最近、仮想通貨が話題となっています。仮想通貨の値動きは、需要と供給のみで決まるため、その価値を担保するものは何一つありません。仮想通貨は、いわば人の心理のみで価格の変動が起こっているわけですから、将来の値動きを予測するのが難しくリスクのある投資と言えます。
では、円や米ドルなど中央銀行が発行している通貨なら、値動きがなく安心なのでしょうか?
作家の五木寛之さんの著書「ハオハオ!」では、好好(ハオハオ)亭という定食屋の主人、そこで働くミドリちゃん、常連客の松五郎が、お金について興味深い会話をしています。
ある日、ミドリちゃんはBMWを購入します。なぜ、若い女性が高級車を買うのか不思議に思う松五郎。結婚を諦めたのかと失礼なことを口にするのですが、ミドリちゃんは、最近の銀行や企業の不良資産の底なし具合、国や自治体の借金の多さから将来を憂い、貯金をしていてもつまらないと考えBMWを購入したのだとか。また、ミドリちゃんの背中を押したのは、好好亭の主人の話でした。
松 マスターはどんな悪い話をしたのかね。
好 貯金なんてものはだな、国がその気になったら法令ひとつで払いもどしを止めることもできるんじゃ。一九四六年、つまり敗戦の翌年の昭和二一年には、<封鎖預貯金>の措置が実施された。知らんじゃろう。
松 だって生まれてないもの。
好 これは戦後インフレ収束の手段として行われた<金融緊急措置令>にもとづく法令での。国民の預貯金のすべてが一定の期日をもって凍結され、払いもどしを制限・禁止されたんじゃよ。新円封鎖という言葉を親父さんあたりから聞いたことがないかね。
(156ページ)
現代日本人は、当たり前のようにお金を銀行に預けていますが、ある時、国の強権発動で銀行からお金を引出せない事態が発生することもあるのです。使えなくなるかもしれないお金を大事に持っているくらいなら、今のうちにミドリちゃんのように高級車を買っておくのも、資産の目減りを防ぐのに有効かもしれませんね。
ディーリング・カフェは流行るか?
好好亭も景気が悪く、いよいよ閉店を考えないといけないか思っている頃、松五郎が来店しました。
そして、景気の悪そうな顔をしている主人とミドリちゃんに「おれなら喫茶店をやるね」と言います。それを聞いた主人は、自分が若かった頃は美人喫茶や名曲喫茶が定番だったと述懐します。
ただの喫茶店では、流行らないから何か特徴のある喫茶店にしないとダメ。だからと言って、インターネット・カフェを今から始めるのも古いので何か違ったことをする必要があります。
そこで、松五郎が思いついたのは、ディーリング・カフェ。
松 おいらの仕事場でも、近頃の若い職人たちのなかには、携帯電話でしょっちゅう外貨を売ったり買ったりしてるのがいる。なんでも、最近の銀行や証券会社では、素人が電話でどんどんディーラーまがいのことがやれるんだってね。OLなんかも昼休みに電話でいろいろやってるらしいよ。ビッグバンとか、そんなのが現実化すりゃ、国民が自国の通貨だけにすがって生きていく気持ちはなくなってくるでしょうが、そうなりゃ、国民総ディーラーだ。そこで、<ディーリング・カフェ>。店内に世界中の通貨の動きを刻々提示して、テーブルにみーんな電話をつけて、マネージャーが専門的な相談にものる。そんなカフェをやれば絶対に成功するね。どうだい、この案は。
(175~176ページ)
主人は、松五郎の話にあきれていますが、仮想通貨の人気が出てくれば、ディーリング・カフェが流行るかもしれません。すでにそのようなカフェがあるのかもしれませんが、「ハオハオ!」が出版されたのは1998年ですから、当時は現実味のない話だったのでしょう。
インターネットの発達で、海外の様々な通貨に投資しやすくなりました。日本円が預金封鎖されても、米ドルやユーロを持っていれば買い物ができそうです。国内で外貨が使えなくても、ネット通販を利用すれば、アメリカでもヨーロッパでも、どこでも買い物ができます。家庭の資産防衛に外貨を利用するのも一つの手でしょう。
でも、外貨や仮想通貨に投資する人が増えると、ますます国内の景気が悪くなりそうですけどね。
景気が良くなるのか悪くなるのかを予測するのは難しいです。それを予測できるのであれば株で損する人はいないでしょう。将来の不確実性に対応するためには、リスク分散となりそうです。
- 作者:五木 寛之
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