健康のためなら死んでもいい。
こんな冗談もあるくらい、世の中は健康志向になっています。テレビを見ていても、食品のCMは何かしらの健康効果をうたったキャッチコピーが目につきますし、チャンネルを切り替えていると、どこかのテレビ局では、ダイエットや病気に関する番組が放送されています。
健康に気を使って生活することは悪いことではないですから、健康に良いと言われていることは、いろいろ試してみるのもありです。
ゴムの板で肩こりが治る?
たけし軍団の水道橋博士さんは、自身のことを偏執なまでの健康オタクだと著書の「博士の異常な健康 文庫増毛版」で述べています。
芸人さんの中には、不健康な姿を露出して笑いを取りに行くのが仕事となっている方が少なからずおり、テレビ番組の視聴者の中にも「芸人=不健康」というレッテルを貼っている人もいることでしょう。
博士さんも、これまでに体を張った芸を披露してますが、その反面で人一倍健康に気を使っています。しかし、その健康に対する考え方が、一般人とはどこか異なっています。
例えば、肩こり。
博士さんは、ある夫婦からマウスパッドのようなゴムの板を見せられます。そして、これをお腹に当てて上から何度もさすっていたら、1週間で胃のポリープが消えたと言われました。
怪しい。なんとも怪しいです。博士さんも最初はそう思っていたのですが、笑いのネタになると思い、そのゴムの板を購入することにしました。ちなみにそのゴムの板はバイオラバーという製品で、価格は3万円もするのだとか。さらにシート・タイプのものだと12万円もするのですが、博士さんはなんとシート・タイプのバイオラバーを買ったそうです。
笑いのネタにしては値段が高すぎるように思います。これこそプロ根性なのか。仕事に投資する姿勢はビジネスマン並み、いやそれ以上かもしれません。
シート・タイプのバイオラバーを装着し、会う人に「これが効くんですよ!」なんて言って、効果を信じ込んでいるふりをしていた博士さん。ところが、その効果は本物で、これまで悩まされていた肩こりが消えてしまったそうです。
大金をはたいて購入したことによるプラシーボ効果なのか、あれやこれやと疑問がわいてきた博士さんは、製造元の山本化学工業に乗り込んで、バイオラバーの原理を教えてもらうことに。
バイオラバーはガンにも効く?
博士さんは、山本化学工業の山本富造社長に単刀直入にバイオラバーが何なのかを質問しました。
「一言で言えば、人間に最も良い”波長”を放射する装置なんです。たとえば、赤外線カメラで見れば分かるんですが、人間はある一定の波長を持った電磁波を常に帯びています。そして、バイオラバーは、その人間がもともと持っている波長と最も適した電磁波を発するんです」
(189ページ)
波長とか電磁波とか言われても、よくわかりません。血流が良くなるネックレスとか、その類の怪しい製品なのでしょうか。
さらに山本社長の説明は続き、「波長4~25ミクロンの赤外線」とか「あらゆる体内物質に”共振関係”を生む」とか言われるのですが、やはり、チンプンカンプン。そこで、山本社長は一般人にも分かりやすいように以下のように説明しました。
「そうですね。分かりやすく電子レンジにたとえてみましょう。電磁波のひとつであるマイクロ波を物質に当てて、物質の分子の振動を活発にして温度を上げるのが電子レンジの原理ですよね。そのマイクロ波を、最も人間の体に優しい電磁波に置き換えるんです。その振動によって分子間の結合状態が均一化され、それが人間の自然治癒力を呼び起こすわけです。今までのところ分かりますか、博士さん?」
(191ページ)
乱れた分子の並びを本来あるべき分子の並びに戻すということでしょうか。先ほどより何となくイメージしやすくなりました。
何やら怪しい物を作っている会社に思えますが、山本化学工業の歴史は長く、1948年には、誰もが一度は使ったことがある消しゴム付き鉛筆のゴム部分を開発し特許を取得しているのです。この話を聞くとバイオラバーが身近なもののように思えてきますね。
さらにこのバイオラバーは、2005年5月14日付の毎日新聞朝刊で、がん増殖抑制効果があると報じられました。どうやら、バイオラバーの健康効果は本物のような気がします。
競泳水着にも採用
2008年の北京オリンピックの直前にレーザーレーサーという水着が大注目を集めました。
競泳の有名選手の多くが、レーザーレーサーを着用して北京オリンピックに出場していたことを記憶している方も多いはずです。そのレーザーレーサーに対抗できる水着の素材としてバイオラバーも注目され、同素材を使った水着を着用した入江凌介選手が200mで日本新記録を出しました。
この話を聞くと、バイオラバーは霊感商法のような胡散臭いものではなく、化学と技術によって開発された優れた素材だということがわかります。
健康オタクの博士さんが、笑いのネタに試してみたバイオラバー。実は、恐るべき潜在能力を持っていたのです。
水道橋博士さんの健康に対する飽くなき探究心は、通常の健康志向ではなくチャレンジャー精神と言った方がしっくりきます。
ファスティング(断食)が健康に良いと聞けば試し、芸能人の若々しさの秘密は胎盤エキスにあると聞けばその第一人者に話を聞きに行く。理屈をこねて何もやらない人は多いですが、やってみて効果を実感した後にその理屈を知るために行動する人は滅多にいません。
腕と足にチューブを巻いた状態で低負荷の筋トレをし、苦悶の表情を浮かべている博士さんは、いったい何のプレイをしているのか。これは、加圧トレーニングという成長ホルモンを大量に分泌させる筋トレのメソッドです。今では有名になっていますが、博士さんが加圧トレーニングを始めた頃は、知っている人がほとんどいませんでした。
薄毛や近視の改善のため、人体実験のような施術を受けたり、薬を服用したりと、健康に良いと言われていることは何でも試す博士さん。
本来、健康論は「生」を目的に語るものではなく、「死」を踏まえたものでしかあり得ない。つまり、健康本とは、死をゴールと見据えた「遺書」であり、生への執着を後世に残す「医書」でもあるだろう。
そして、その執着ぶりは、俺の場合、自ら「異常」というほどに、なりふりかまっていない。
(6~7ページ)
健康の追究とは、死から逃れようともがき続けること。そのもがき続ける姿を世間の目に晒し笑いを取る水道橋博士さんは、芸人の中の芸人だと感心するのでした。

- 作者:水道橋博士
- 発売日: 2009/08/01
- メディア: 文庫