会話をしている時、伝えたい事柄を適切な言葉で表現できないことはないでしょうか。ど忘れして言葉が出ないこともあれば、自分が伝えたい事柄に対応する言葉があるのにそれを知らないために表現できないなど、色々と経験していると思います。
同じことは、文章を書くときにも起こります。熟語を1つ書けば伝わるのにその熟語が思い出せなかったり知らなかったりするせいで、長ったらしい文章になることはよくあります。
会話でも文章でも、伝えたいことを思うように表現できない原因として挙げられるのが語彙の少なさです。語彙が豊富であれば、ある言葉をど忘れしても、別の言葉に置き換えて伝えることができます。
言葉を省エネすると語彙力が育たない
語彙(ごい)とは、語句(言葉)の集まりのことです。語彙力とは、簡単にいうと、多くの語句を知っていることです。
教育学、身体論、コミュニケーション論を専門とする齋藤孝さんは、「語彙が豊かになれば、見える世界が変わる」と著書の『語彙力こそが教養である』で述べています。人間は、言葉を持ったことで、言葉がなければ思考できない生き物となっています。だから、一つの事柄について幅広く思考するためには、より多くの語句を知っていた方が有利です。
しかし、昨今、言葉が省エネ化される傾向が強くなってきています。危ないことも、おいしいことも、あり得ないことも、どれも「ヤバい」で表現するのは言葉の省エネ化の代表です。確かに少ない語句で会話が成立する方が、コミュニケーションが楽になります。細かいところまで伝わらなくても、要旨を伝えられれば、それで良いとも言えます。
でも、お店で新メニューのハンバーガーを食べて、これまで食べたことがない味だったことを表現するのも「ヤバい」であれば、低価格なのに具沢山であることを表現するのも「ヤバい」では、いったい何がどう「ヤバい」のか相手に伝わりません。言葉を省エネ化すると、細部を相手に伝えるのが難しくなります。
語彙力を鍛えることは、細かいところまで相手に伝えられるようになることでもあり、コミュニケーションをより円滑にする助けとなるはずです。
インプットしなければ語彙力は鍛えられない
では、語彙力はどうすれば鍛えられるのでしょうか。
それは、より多くの言葉をインプットすることです。インプットする方法はいくらでもあります。テレビ、インターネット、ラジオといったメディアでも可能です。音楽から言葉をインプットすることもできます。
ただ、知識としての語彙を得るだけでなく、書き手の思考や教養を反映する質の高い文章、リズムや言い回しまで含めたハイレベルな文章を求めるのであれば、本に勝るメディアはないと齋藤さんは述べています。そして、名作を声に出して読む素読が、語彙力を高めるのに効果的だとすすめています。
本じゃなくてもインターネットでブログなどを読んでも語彙力が鍛えられるだろうと思う人もいるかもしれません。でも、インターネット上の文章は、平易な語句で書かれたものが多く、自分が知らない言葉に出会う機会が少なめです。より多くのアクセス数を集めるためには、初心者のためにわかりやすい言葉を選んで文章を書くのが、ブログ運営の基本だとされており、ほとんどのブログの文章がそれにしたがって書かれているからです。
語彙力を鍛えるために本を選択するなら、エッセイを読むのが良いとのこと。エッセイは、著者によって表現が変わりますから、確かに多くの言葉をインプットするのに適していますね。同じように音楽も、作詞家によって表現の仕方が変わるので、語彙力を鍛えるのに向いています。
よく使う言葉を封印する
語彙力を鍛えるためには、自分がよく使う言葉を封印することも効果的とのこと。
例えば、「良い」という言葉には、同じ意味として「すばらしい」や「すてき」といった言葉があり、よく使われます。これらを日常会話や文章で使うのをやめるのです。そして、それに代わる新たな言葉を見つけ、言い換えることで語彙力が鍛えられます。
テレビ番組でも、手軽にある程度の知識が得られますから、普段何気なく見ている番組で出演者がおもしろい言葉を使っていたら、自分がよく使う言葉と置き換えられないかを考える癖をつけておくと言葉のセンスが磨かれるでしょう。また、気になった言葉は、すぐ検索しインプットすることも効果的です。電子辞書を持っている人は、テレビを見ている時も、本を読んでいる時も、気になる言葉があったら調べると良いでしょう。
インプットした言葉は、復習して実際のコミュニケーションで使うことも大切です。ただ言葉を知っているだけでは、何の役にも立たないですからね。実践してこそ、言葉は身になるものです。
また、漢熟語は書き言葉であることから、話し言葉で習得するのが困難です。そのため、何気なくテレビを見ていたらいつの間にか身についていたということは、そうそうないので、意識的にインプットとアウトプットを行う必要があります。例えば、「義」という漢字が入った熟語を思いつくだけ紙に書きだし、後から辞書で調べて合っているかどうかを確かめ、さらに書き出せなかった熟語もインプットすることを齋藤さんは提案しています。なかなか手間のかかる作業ですが、漢熟語は、頭の中に定着しにくいので、これくらいのことはする必要がありそうです。
他に語彙力を鍛える方法として、普段から比喩を使うことも有効です。比喩には正解がない代わりにその人の興味関心や語彙のストック、ものの見方が映し出されますから、言葉に独自性を持たせることができます。
何年もブログを書いていても、同じような文章になるのは、語彙力が弱いからなのでしょうね。これから、コツコツと鍛えていきましょう。