ウェブ1丁目図書館

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世界のものづくりを支える日本の工作機械産業

現代の世界経済は、米国で誕生したIT企業が先導しており、それら企業が拡大を続けています。

かつては、日本の製造業も世界経済に大きな影響を与えていましたが、その影響力は徐々に低下しています。それでも、日本の製造業の中には、世界トップクラスの品質とシェアを維持している産業があります。それは、工作機械産業です。

27年間世界一の生産高

工作機械は、マザーマシンとも呼ばれ、あらゆる機械や部品類を加工するものです。いまや工作機械がなければ、工業製品を作ることができないほどになっているので、工作機械産業は製造業を支える重要な産業です。

東北大学大学院経済学研究科教授の柴田友厚さんの著書『ファナックインテルの戦略』では、日本の工作機械産業が、1982年に米国とドイツを抜いて世界一の生産高となり、以後、2008年のリーマンショックまで、実に27年もの間、世界一の生産高を守り続けたことが述べられています。

本書のタイトルにあるように日本のものづくりを支えてきた工作機械産業では、ファナックインテルが重要な役割を果たしてきました。

インテルと言えば、パソコンに搭載されているマイクロプロセッサ(MPU)を作っている会社として有名です。MPUを作っているインテルと工作機械を作っているファナックは、一見、接点がなさそうなのですが、この2つの企業がなければ、日本の工作機械産業の発展もなかったかもしれません。

NC装置のモジュール化

現在の工作機械には、NC(数値制御)装置が搭載されています。NC装置の登場で、工作機械は、あらゆる形状に切削加工できるようになりました。

富士通のNC部門であったファナックは、1956年にNC開発に取り組みましたが、黒字化するまでに9年もかかっています。それだけ黒字化するのに苦労したNC開発でしたが、1969年にNC装置をモジュール化したことで、一気に出荷台数が増加していきました。

モジュール化とは、部品や機能を取り換えることを可能にすることです。モジュール化する前のNC装置は、単一の作業しかできませんでしたが、モジュール化することで、様々な加工が可能となりました。

柴田さんは、モジュール化のメリットを以下のように3つ挙げています。

  1. 様々な修正を当該モジュールだけに局所化でき、その結果、迅速でコストの安い対応が可能になる
  2. モジュールの多様な組み合わせの妙味によって、顧客の多様な要望に応えることができる
  3. モジュールごとの独立・並行した製品開発が可能になり、その結果、製品全体の技術革新が加速される


この中でも、特に多様な顧客の要望に応えられるようになったことが、NC装置の出荷台数の増加に大きく貢献したのではないでしょうか。様々な製造業に対応可能な工作機械を提供できるようになったのですから、日本の工業製品の開発も加速していったはずです。

工業製品の性能は、それを作る工作機械の性能を超えることができません。これを母性原理といいます。日本の工作機械産業が、製造業を支えることができたのは、高精度の工作機械を顧客である日本企業に提供してきたからなんですね。

MPUとNC装置の出会い

ハードワイヤードNC装置で成功を収めたファナックは、MPUなどの半導体技術を中心とするソフトワイヤードNC装置への転換を図ります。

ハードワイヤードNC装置の場合、加工情報を記述したプログラムをパンチした紙テープを使ってNC装置に読み込ませる必要がありました。しかし、紙テープは、何度も読み込ませると劣化する問題がありましたし、紛失の危険もありました。

このデメリットを克服するためには、加工プログラムをNC装置のメモリに記憶することで解決できます。そこで、ファナックは、MPUをNC装置に搭載することにし、パソコンより早くNC装置にそれを搭載しました。そのMPUを開発していたのがインテルだったのです。

日本と米国との違い

工作機械は、米国でも生産されていますが、今では、中国、日本、ドイツに生産高で大きな差をつけられています。

米国と日本との間に大きな差が生まれた理由として、柴田さんは、NC装置の開発の主体を挙げています。米国では、巨大企業を顧客に持つ工作機械メーカーがNC装置の開発を主導していました。MPUを採用すると、一時的に性能が下がってしまい、それにより顧客が離れてしまうとの懸念からMPUの採用に消極的にならざるを得なかったのだと。

一方、日本では、NC装置の開発は、NC専業メーカーが行っていました。しかも、工作機械に搭載するNC装置の多くはファナック製だったため、互換性の問題が顕在化しませんでした。米国では、各工作機械メーカーが独自のNC装置を開発していたので、工作機械ユーザーは、互換性の欠如という問題に直面しており、これも、米国の工作機械産業が衰退する一因だったと言えるでしょう。


日本の工業製品を作ってきたのは、日本製の高性能の工作機械でした。そして、現在も、世界中の工業製品を日本製の工作機械が作っています。

工作機械は、最終消費者になじみのないものですが、それなしには消費者が工業製品を使うことも買うこともできないのですから、我々の生活にとって欠かすことができない産業と言えますね。