ウェブ1丁目図書館

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栄養素にばかり注目すると栄養の理解が難しい

食は、人間が生きていくために最も重要な活動です。

食品に含まれる栄養素を体内に吸収して活用しなければ、手足を動かせませんし、それどころか身体の形を保つことすらできません。そんな人間にとって重要な食事について、我々は料理の味に重点を置きすぎていないでしょうか。

口に入れた食べ物が、どのようにして体内に吸収されて使われ、そして、捨てられるのかについては、意外と知らないことが多いです。

栄養とは

食事の目的は何かと問われた時、多くの人が「栄養補給」と答えるでしょうが、この表現は正しくありません。

管理栄養士、栄養学博士の川島由起子さん監修の『カラー図解 栄養学の基本がわかる事典』は、その名の通り、図解を多く使っており、栄養学の初心者でも視覚的に内容を理解できるようになっています。管理栄養士や栄養士を目指す方だけでなく、多くの人にとって役立つ書籍です。特に妊娠を控えている方、妊婦の方、育児中の方には読んでいただきたいですね。

さて、栄養補給という言葉が正しくないのは、栄養の定義を見ればすぐに理解できます。

ヒトは、生きていくために必要な物質(栄養素)を食べ物として取り込み、消化し吸収します。吸収された栄養素は体の構成成分になるとともに、生きていくために必要なエネルギーにもなります。そして不要になった成分を体外に捨てています。この一連の流れである消化・吸収・代謝・排泄をくり返す営みを栄養(nutrition)といいます。(10ページ)

栄養とは、栄養素を消化、吸収、代謝し、排泄する一連の流れのことです。栄養補給は、正しくは栄養素補給と言わなければなりません。大したことではありませんが、昨今、食品に含まれる成分ばかりが注目されており、栄養の意義が忘れられがちなので、栄養と栄養素はしっかり区別して理解しておくべきでしょう。

栄養は遺伝子発現に関わる

栄養は、我々の身体を維持するために大切な働きをしています。

我々の身体は、たんぱく質でできていますが、その合成には、染色体に幾重にも折りたたまれたDNAに書かれている遺伝子が必要になります。遺伝子は、簡単にいうと、たんぱく質を作るための設計図です。そして、遺伝子をもとにたんぱく質を合成することを遺伝子発現といいます。

たんぱく質は、20種類のアミノ酸の集合体です。食品に含まれるたんぱく質は、胃腸で、ペプシン、トリプシン、キモトリプシン、カルボキシペプチダーゼ、アミノペプチダーゼ、ジペプチダーゼといった消化酵素によってアミノ酸まで分解され体内に吸収されます。

体内に吸収されたアミノ酸は、再びたんぱく質に合成されたり、エネルギーとして利用されたりします。身体を維持するためには、常にアミノ酸からたんぱく質を作り続けなければならないので、食事からたんぱく質を補給することは非常に大切なことです。

脂質も重要な栄養素

肥満の原因として忌み嫌われている脂質もまた、身体を構成するために必要な栄養素です。

脂質、中性脂肪脂肪酸と似たようなイメージの言葉があります。中性脂肪は、1つのグリセロールに3つの脂肪酸がくっついたものです。そして、食物中の脂質の90%以上は中性脂肪であり、その他にコレステロールやリン脂質などがあります。

脂肪酸には、体内で合成できない脂肪酸と合成できる脂肪酸があります。体内で合成できない脂肪酸を必須脂肪酸といい、α-リノレン酸DHAなどがその代表です。

一方、体内で合成できる脂肪酸の代表が、飽和脂肪酸です。飽和脂肪酸は、生活習慣病の原因物質であるかのように言われていますが、身体活動にとって必要なエネルギーとして最も重要な栄養素です。

脂質は、できるだけ控えた方が良いと考えている人が多いでしょうが、ビタミンA、D、E、Kといった脂溶性ビタミンは、脂質の吸収に依存しているので必ず摂取しなければなりません。また、水溶性ビタミンも、ナイアシンとビタミンB₆以外は、能動輸送によって小腸上皮細胞から体内に吸収されますが、そのためには、エネルギーを必要とするので、重要なエネルギー源である脂質の補給は欠かすことができません。

ミネラル補給と食物繊維

ナトリウム、カルシウム、鉄、亜鉛といったミネラルも、身体を維持したり活動するために必要な栄養素です。ミネラルの中には、不足すると遺伝子発現が行えなくなる栄養素もあるので、食事からしっかり摂取しておかなければなりません。

近年、食物繊維をたくさん食べることが推奨されていますが、ミネラルの吸収という点では、食べ方を工夫しなければなりません。

食物繊維は、ミネラルの吸収を阻害します。だから、ミネラル補給に重点を置くと、食物繊維と一緒に食べない方が望ましいです。また、穀物に多く含まれているフィチン酸も、カルシウムや鉄といったミネラルの吸収を邪魔します。

日本人の食事は、ご飯とおかずを交互に食べる三角食べが基本となっていますが、栄養素の補給という視点で見ると好ましいことではありません。ミネラル補給を優先したい時には、野菜や穀物は控えるべきです。野菜から先に食べると血糖値の上りが緩やかになりますが、これは、単純に野菜が栄養素の吸収を邪魔しているからでしょう。

なお、ミネラルは、ミネラル同士でも吸収を邪魔し合います。例えば、鉄とカルシウムを同時に摂取するとお互いの吸収が悪くなります。

妊婦や授乳婦は栄養素の上乗せが必要

栄養素の必要量は、ライフステージで変わってきます。

特に妊婦や授乳婦は、通常よりも多くのビタミンとミネラルの補給が必要になります。『カラー図解 栄養学の基本がわかる事典』には、妊婦や授乳婦が上乗せしなければならない栄養素の量も記されているので、出産や子育てをされている世代の方は手元に置いておきたいですね。

他にも、免疫と栄養の関係についても解説されており、体が異物とたたかうためにどの栄養素が必要かもすぐにわかります。

人間の身体は、様々な栄養素を必要とします。「この栄養素が必要だ、あの成分さえあれば健康になる」といったものではありません。個々の栄養素にばかり注目していると、栄養の枝葉末節にとらわれ全体が見えにくくなります。

テレビやネットで健康に良いと言わている食品を食べることばかりが、栄養ではないのです。