ウェブ1丁目図書館

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エントロピー増大の法則に抗う生命の目的は何か

機械は、動いている時間と止まっている時間があります。洗濯機は、洗濯している間は動いていますが、洗濯が終わりコンセントからプラグを抜くと停止します。エアコンも、自動車も、工場の大型機械も、ほとんどの機械が動いたり停止したりを繰り返しています。

では、生物はどうでしょうか。寝ている間は、停止しているように見えますが、体内では様々な臓器が活動しているので、停止することはありません。もしも、生物がすべての機能を停止すると、それは、死を意味します。そう、生物とは動き続けることで死から逃れる存在であり、生命は動き続けることで維持できているのです。

身体の部品は目まぐるしく交換されている

機械は、使い続けていると必ず故障します。そして、故障すると機械は動かなくなります。しかし、故障した機械は、部品を取り換えることで再び動き出します。

このように機械は、故障、あるいは、電源を切ることで、動作を停止したとしても、修理したり、電源を入れたりすれば動かすことができます。

しかし、生命はそうはいきません。身体の一部が故障して機能が停止すると、二度と動き出すことはありません。

分子生物学者の福岡伸一さんの著書『新版 動的平衡2』は、生物は常に身体の一部を新しいものと取り換えながら全体を維持していることが解説されています。生物の身体の大部分はタンパク質でできています。タンパク質はアミノ酸の集合体です。

アミノ酸は、体内で合成できるものと外部から調達しなければならないものがあります。そして、タンパク質は、それらをうまくつなぎ合わせることで作られます。ここで、生命を維持するためには、タンパク質が故障してから取り換えるのではなく、故障する前にちょっとずつアミノ酸から新しいタンパク質を作り出し、古いタンパク質と取り換えなければなりません。

形あるものは、必ず壊れます。これをエントロピー増大の法則といいます。エントロピーとは乱雑さのことです。どんなに頑丈に作っても、必ず壊れる時が来ます。機械は、部品の交換で使い続けることができるといっても、そこには限界があります。エントロピー増大の法則には逆らえないのです。

ところが、生命は、エントロピー増大の法則に抗うようにして維持されています。エントロピー増大の法則が身体を破壊する前に自らをあえて壊し、そして作り直すのです。外から見れば、何も変わっていないように思えても、小さな破壊と再生が繰り返されながら全体が維持されています。これこそが、動的平衡です。

生命とは何か

生命とは何かという問いに対して、動物行動学者のリチャード・ドーキンスは、「自己複製するもの」と定義しました。そして、自己複製の単位は遺伝子そのものであり、自らを複製するため、遺伝子は生物の個体を乗り物にしているにすぎないと述べています。

そうすると、生物は、自らの複製を産み、そして殖やすことが、最大の使命であり、かつ、それを達成すれば事足りる存在だとなります。

このように考えると、生物は、誕生して間もない時期に自らの複製をより多く産める機能を磨く方向に進化しているはずです。ところが、ヒトは、それとは逆の方向に進化しているように見えます。人間の赤ちゃんは、他の哺乳類より成長が遅いです。ただ、産み、そして殖やすことが生命の目的であれば、ヒトがとった戦略はその目的に反することになります。

地球上には、様々な生物がいますが、すべての生物が早期にたくさんの子孫を残す能力を持っているわけではありません。この事実から考えると、生物は単に遺伝子を乗せた箱ではないように思います。

動的平衡を保つ必要性

早期に多くの子孫を残すことが生命の目的だとすると、生物にとって、分解と交換を繰り返す動的平衡は必要ないはずです。

エントロピーが増大し、朽ち果てる前に子孫を残せば良いのですから。

それでも、生物が、動的平衡を保とうとする能力を獲得したのは、単に子孫をより早くより多く残すことが生命にとっての主目的ではなかったからなのかもしれません。

福岡さんは、遺伝子の中には、「産めよ殖やせよ」という命令の他に「自由であれ」という命令が含まれているのではないかと述べています。人間は、結婚すること、家庭を持つこと、子供を作ることを選択できます。人間は、自らの意思で行動できる存在であり、生まれた時からプログラムされたようにしか生きられない存在ではありません。すなわち、子孫を残すかどうかを選択できる自由を持って生まれてきているのです。

これは、他の生物も同じではないでしょうか。

もしも、子孫を残すことが、生命の最大の目的であれば、子孫を残した後に動的平衡を保つ必要はありません。

それでも、エントロピー増大の法則に抗い、動的平衡を保ちながら生きているのは、生命に子孫を残す以外の目的があるからなのでしょう。