ウェブ1丁目図書館

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コスト削減は投資のために行うものだと語るカルロス・ゴーン

1992年に赤字に転落した会社が、さらに、その後7年間で6回も赤字を出したら倒産でしょう。でも、そうならなかった会社があります。それは日産です。

99年3月。日産は、フランスのルノー資本提携をし、その副社長だったカルロス・ゴーンさんをCEO(最高経営責任者)として迎えました。ゴーンさんは、コストカットを実施し、見事、日産の経営を建て直すことに成功しました。

テレビ東京系列で放送されているカンブリア宮殿という番組にゴーンさんが出演された時、日産の建て直しのエピソードを語っていました。

どのような状況でも回復は可能

カンブリア宮殿は、作家の村上龍さんと経営者の方が対談する番組です。

ゴーンさんが出演されたのは2009年の1月のことでした。前年にリーマンショックが起こり、ものすごい勢いで円高になっていった頃ですね。ゴーンさんが出演された時の内容は、「カンブリア宮殿3巻」に収録されています。

ゴーンさんは、日産にやって来たとき、3年で目標を達成できなかったら辞めると述べていました。

日産では、多くの経営計画が試されてきていましたが、成功した計画というものがひとつもありませんでした。だから、従業員たちに「また別の計画か」と思われては困ると考えていたそうです。そこで、コミットメント、つまり必達目標を掲げました。

ゴーンさんは、この計画が失敗に終われば、もう後はないということを従業員にわからせるためにチャンスは一度だけだということを示したのです。これが、日産の回復につながっていったんですね。

龍さんが、「この会社は再建可能であるとか、不可能かもしれないと判断する基準はあるのでしょうか」と訊ねた時、ゴーンさんはこう語っています。

どのような状況でも回復は可能です。ミスマネジメントの問題というのは必ず是正できるんですよ。私は自信を持って申し上げるのですが、どのような会社であれ、どのような状況であれ、適切な計画と適切な人材がいれば解決できます。(16ページ)

適切な計画と適切な人材という条件はありますが、どんな会社でも経営改善は可能だということですね。

努力で改善できない外的要因

先ほども述べましたが、ゴーンさんが番組に出演された時は、急激に円高となっていた頃でした。

日産のような輸出中心の企業の場合、円高は雇用に圧力をかけます。急激な円高は市場での競争力を失わせます。だから、円高と雇用は直接の関係があるとのこと。

毎年一円上がるのであれば、生産性の向上などで適応していけばいいんですが、問題はたった一年でドルに対して百十五円だったのがいきなり八十八円になることです。これに対応するのは不可能です。そして犠牲になるのが雇用なんです。(19ページ)

急激な円高に一企業が対応することは無理なんですね。だから、こういった事態にならないよう、国の努力が必要になってくるわけです。しかし、国の努力でも、急激な円高を食い止めることができなかった時、輸出企業は人員削減をするという選択を採ります。日産も2008年に人員削減に踏み切りました。

人を採用したら、教育研修をして、ファミリーの一員になってもらいます。工場であれ本社であれ、そこに絆ができるんです。人員削減をすると、そういったすべてが無駄になるんです。ですから人員削減というのは他に選択の余地がない時だけにやるものです。(中略)ただ、今の危機は長きにわたりそうなのです。そうなると日産も他のメーカーも対策を講じなければなりません。本当にもったいないことだと思います。(20ページ)

利益を出すためのコストカットに将来はない

ゴーンさんが行った人員削減は、決して短期的な利益を追い求めてのことではありません。批判はあるでしょうが、日産が生き残るためにやむを得ず行ったことなのでしょう。それをあらわしているのが以下の言葉です。

コスト削減は利益を出すためにやるわけではないのです。投資のために節約をするんです。例えば無駄を省いて、そのお金を使って技術や新製品への投資に回すのであり、原価低減というのは目標がなければうまくいきません。目的があればみんな納得します。(22ページ)

一時的な利益のためにコストカットをしても、誰も納得しません。経営者が自分たちの保身のためにやっているようにしか思われないでしょう。それは、その会社で働いている人たちだけでなく、外から見ている投資家や銀行、さらには消費者にも良い印象を与えないでしょう。そうすると、企業ブランドの毀損にもつながり、ジワジワと業績が悪化してくことになるはずです。

では、日産の人員削減やコストカットは何のために行ったのでしょうか?

それは、電気自動車への投資のためです。将来的にはガソリンで走る自動車から電気で走る自動車へと変わって行くに違いありません。だから、日産はバッテリーに対して大規模な投資を行っているとのこと。これは、見方を変えれば、将来の投資に必要な資金を銀行などの金融機関からの借入に依存するのではなく、自前で確保することを意味しているように思います。

特にできるかどうかわからない、成功してもいつになるのか予測するのが難しい投資に対して、資金を提供してくれる投資家がすぐに見つかるとは限りません。だから、会社が成長するためには、そのための資金を自前で準備する必要があるのではないでしょうか。


カンブリア宮殿に出演して話をしているゴーンさんは、本当に自動車が好きなんだなと感じました。車ほど愛着を感じるものは他にないし、自分自身を変えれると述べています。GT-Rに乗って、5分、10分運転したら笑顔になってしまうというのですから、日産の再建に情熱を注いでいることがよくわかりますね。