ウェブ1丁目図書館

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人間は知らない間に他の霊長類の助けを借りている

人間は霊長類です。それも頭脳がもっとも発達した霊長類です。

だから、チンパンジーニホンザルなど、他の霊長類よりも賢いわけですが、だからと言って彼らよりもすべての面で優れているわけではありません。運動に関しては、他の霊長類の方が優れている場合が多いですし、また、彼らは人間が思いもつかないようなことを毎日の生活の中で当たり前のように行っていたりします。

霊長類の種類は350種

霊長類に関しては、京都大学霊長類研究所編著の「新しい霊長類学」が、1問1答形式で100の質問に答えていて、彼らのことを簡単に知るにはちょうど良い本ですね。

世界中には、霊長類は350種もいるそうです。普段テレビや動物園で見る霊長類は、チンパンジーニホンザル、オランウータン、ゴリラ、マントヒヒ、テナガザル、リスザルといったところでしょうか。他にも名前を聞けば思い出す霊長類がいるでしょうが、すぐに思いつくのはこれくらいですね。

日本人は、霊長類のことを一般的に「サル」と言います。でも、一口にサルと言ってもこれだけ多くの種類が存在しているんですよね。


また、霊長類を英語で表記すると、日本語に相当するサルの他に様々な呼び方があります。

「サルと言えばモンキーでしょ」

と言う方もいるでしょうが、人間と同じように尻尾の生えていない霊長類、例えば、チンパンジーやゴリラなどの類人猿は、モンキーではなくape(エイプ)と表記されます。他にもキツネザルはlemur(リーマー、レムール)、メガネザルはtarsier(タルシア)といったように霊長類の種類を表す言葉はたくさんあり、それぞれ意味が異なっています。

日本語で海猿と言っても、それを英語に訳した場合、シーモンキーなのかオーシャンエイプスなのかによって、別の意味になってしまうんでしょうね。

サルも嘘をつく

他者を欺く行為は、人間特有の行為だと考えられていますが、他の霊長類も情報の隠ぺいや捏造をすることがあるそうです。これはなかなか興味深いですね。

人間の幼児は、嘘をつくことがありますが、他者を陥れる目的で嘘をつくことはできないそうです。子供たちが嘘をつくのは、大人に叱られるのを避けるためです。3歳児くらいだと、現実と違ったことを誤って信じ込んでしまうことがある、ということを理解できないのだとか。

だから、幼児は、事実ではないことを事実であるかのように他人に信じ込ませようとする行動をできないのです。


人間の幼児が他者を陥れる嘘をつけないのだから、他の類人猿には無理だろうと思ってしまいますが、実験したところ、一部のチンパンジーやサルは他者をだます行動をとったそうです。

実験の内容は、サルが指差しすると容器に入っているエサをくれる親切な人とエサを横取りする不親切な人が現れるというもの。最初は、どちらの人にも正しく指さしをしていたのですが、何度も不親切な人にエサを持って行かれることを学習した一部のサルは、空の容器を指さしたり、指さしをしなかったりしたそうです。

なんか、この実験を知ると他の類人猿に対して親近感がわいてきますね。

エイズはサル由来なのか?

現在、世界中で問題となっている病気にエイズがあります。HIVウィルスに感染し発症すると助からない病気なので不治の病です。

昔は、HIVに感染した人はいなかったのですが、1981年にアメリカで報告されてから、爆発的に感染者を増やしています。一体、感染源はどこなのか。当初は、様々な噂が流れ、中には類人猿との性交渉が人への感染の発端だというものもありました。

人間が発症するエイズのウィルスにはHIV-1と呼ばれるものがありますが、これはチンパンジーが持つHIV-1が起源であることがわかっています。すなわち、人間が発症するエイズの感染源はチンパンジーだと考えられているのです。


では、人間はなぜエイズウィルスに感染したのでしょうか?

それは、食用としてチンパンジーを捕獲していた時に血液を介して人間に感染したものと推測されています。今でも、アフリカでは野生動物を食用として売買する市場が存在しているので、こういったところからエイズウィルスに感染する危険があります。

ちなみにサルが感染するエイズウィルスにSIVというものがあるのですが、このウィルスに自然感染したサルはエイズを発症しないそうです。長い年月をかけて、エイズウィルスが宿主であるサルと共存するようになったんですね。

人でも、HIVウィルスに感染してエイズを発症しない場合があります。おそらく、人とHIVウィルスとの共生が図られているのでしょう。

自然を保護しているのは人間以外の霊長類たちだ

近年、すごい勢いで森林破壊が起こっています。木材として利用したり、植物油を製造するために伐採したりと、人間の経済活動によって自然林は失われつつあります。

そのため、自然を保護しようと活動している人々も最近では増えており、自然破壊を食い止めようとしていますね。また、伐採された森林を再生するために植林を行ったりもしています。

でも、人間が思いつくことなんて、大したものではありません。

伐った木の代わりに新しい苗を植えることで、森林が再生すると考えるのは浅はかな行為なのではないでしょうか。そういう植林をして引き起こされたのが花粉症です。

現実の生態系での、生物間の相互作用は非常に複雑で、どの部分が失われると自然が提供してくれる資源やサービスに影響が出るのか、事前に予測することは困難です。例えば、日本で広葉樹林をスギの人工林に大規模に変えてしまった結果、住み処を奪われた野生動物による農作物被害が起こり、スギという単一の種の花粉が大量に飛散する状況が生まれたため、スギ花粉症のような問題を引き起こしました。高度経済成長期に拡大造林を推し進めた人たちは、このようなことが起こるとは、とても予測がつかなかったのでしょう。(133~134ページ)

人間が伐採した森林を再生させようと植林することは、逆に環境破壊を加速させることにつながる場合があります。


人間が破壊してしまった自然環境は、人間以外の霊長類たちに再生してもらいましょう。彼らは、植物の果実を食べながら移動し、様々なところで排便をします。その中には種子も含まれており、彼らによって遠くまで運ばれ、立派な木に生長します。

彼らが様々な果実を食べて、それらをいろいろな場所に運べば生物多様性が維持されます。しかし、人間以外の霊長類が減れば植物の世代交代も行われにくくなります。彼らが絶滅した地域では、森林の更新が行われず、やがて崩壊していくのです。


人間が自然を維持するためにできることは、人間以外の霊長類が住みやすい環境を残しておくこと。

彼らと共生することこそが、自然を守ることになるはずです。