ウェブ1丁目図書館

読書で得ること感じること。ここはウェブ1丁目にある小さな図書館です。本の魅力をブログ形式でお伝えしています。

家父長制と酒が結合すると理不尽が生まれる

酒を飲んでは怒り出し、もめ事を起こす人がいます。男性に多いのではないでしょうか。

ストレス解消のために酔っぱらっているのか、中毒で酒を飲まないとイライラするのかわかりません。毎日でも酒を飲まないと気が済まない時点で中毒のような気がします。自分一人で陽気になっているのなら別に構いませんが、他人に怒り出してもめ事を作るのは勘弁してほしいですね。

父親は絶対的存在

酒を飲んで暴れ出すのは男性の方が多いのではないかと述べましたが、男性でも若い人たちが酒乱になっているのを見たことはありません。どちらかと言えば、家庭を持っている男性が酔っぱらうと暴れ出す印象があります。

作家の吉川英治さんのお父さまも酒乱だったそうです。吉川さんやお母さま、そして兄弟姉妹が酔っぱらって暴れ出すお父さまに困り果てていたことが、四半自叙伝「忘れ残りの記」で述べられています。

吉川さんのお父さまは、典型的な日本男児というのか、家庭では父親が最も偉く家族は父親の言うことに従わなければならないと考えていたように思われます。吉川さんのお父さまは、横浜で様々な仕事をしていたのですが、どの仕事も途中でうまくいかなくなり、家の借金が膨らんでいきます。金策のためにお母さまが、質屋に家財を売りに行ったりして食いつないでいましたが、極貧状態は解消されません。

それでも、お父さまは働こうとせず酒浸りの毎日。酔っぱらっては、お母さまに当たり散らし、憂さ晴らしをするばかりです。明治時代のことなので、日本社会は家父長制が当たり前で、父親の言うことは絶対です。どんなに理不尽なことでも父親が言うことには従わなければなりません。

訴訟で負けて退学

ある時、お父さまがケンカをします。そのケンカは訴訟にまで発展しお父さまの敗訴が決まりました。

14歳の吉川さんは、吉川家の暮らしがこれ以上悪くならないように学校をやめさせられ印章店に奉公に出されます。しかし、奉公先でのちょっとしたトラブルで、吉川さんはすぐに実家に帰されることになりました。吉川さんが実家に戻ると、そこにお父さまはいませんでした。その時は本当の事情は分からなかったのですが、後日、お父さまが監獄に入れられたことを知らされます。

しばらく過ぎ、お父さまが家に帰ってきました。体は衰え、当分は動くこともできない状況で、酒を飲むのもやめていました。しかし、体が良くなって働き始めると、再び飲酒が始まります。そして、酔っぱらうと、以前のようにお母さまに当たり散らします。当然、父親が絶対の社会では、お母さまはただ罵倒に耐えるだけです。

吉川さんも他の仕事をしてお金を稼いでいましたが、極貧生活は続きます。お母さまも知人に借金を頼み、その日を食いつなぐために努力をしますが、お父さまは再び体調を崩し働けません。それでも、毎日、酒を飲んで暴れます。

酒を飲まなければ

吉川家は、よく引っ越しをしていました。家賃が払えなくなったり、その他の事情で住む家を変えなければならなかったりと、理由は様々だったようです。吉川さん自身も、仕事をよく替えていました。辛い仕事が多く、まだ現代の中学生や高校生くらいの年ごろではなかなか勤まらない労働だったようです。

お父さまは、どうしようもない父親のように思えますが、他人の力になってあげることがよくあったそうです。過去に助けられた人たちが、お父さまから借りていたお金を返済に来ることがあり、貧乏暮らしが楽になる場面も何度かありました。事業で成功したある人は、引退するときにお父さまの窮状を知って、多額の貸金を返してくれ、さらにお店まで譲ってくれます。これで、吉川家の暮らしは一気に良くなり、吉川さんも働きに出なくて済むようになりました。

しかし、その生活も長くは続きません。お父さまが生糸相場で一儲けしようとして失敗し、お店を手放さなければならなくなったのです。今だとFXで一発逆転を狙うものでしょうか。

再び、吉川家は貧乏暮らしに戻り、お父さまも体を壊して働けなくなります。しかし、酒だけは止めません。酔うとお母さまにも当たり散らします。


吉川さんは、お父さまのせいで、とても苦労したんだろうなと思うのですが、そうは感じていなかったそうです。

ぼくの青少年期は、何ともひどい辛酸をなめて来たかのようだし、読者もそう読まれたか知らないが、ぼく自身は、ちっともそんな気はしていないのである。社会も家も否みようのない時代のワクの中のものだったせいであろう。いわばぼくは封建の子の一型だったものに過ぎない。
(266ページ)

当時は、吉川家のような家庭がたくさんあり、それが当たり前だったのでしょうね。

現代では、吉川さんのお父さまのような行為は家庭内暴力になり、警察に逮捕されるに違いありません。しかし、明治から敗戦までの家父長制が強い日本社会では、ただ家族が耐えるしかなく、働き口のない女性は外に逃げることもできなかったのでしょう。

なので、女性の社会進出を後押しすることは、家庭内暴力からの逃げ道を用意することになるはずです。


家父長制とアルコールが結びついた時、理不尽という化学反応が起こり家族が苦労します。どちらか一方だけなら、家族が被害を受けることは少なそうです。また、外で酔っぱらった父親同士が出会うとケンカが起こることがあります。どちらも「自分は偉い」のだと思い込んでいれば、他人が酔っぱらってる姿を見ると腹立たしくなるのでしょう。

酒は、外食時にたまに飲めばよろしい。

忘れ残りの記 (吉川英治歴史時代文庫)

忘れ残りの記 (吉川英治歴史時代文庫)