ウェブ1丁目図書館

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環境に配慮した「風で織るタオル」で苦境を脱出した今治のタオルメーカー

普段、顔を洗った後に使うフェイスタオルや入浴後に体を拭くバスタオルを自分で購入したことがありますか?

僕は、過去の記憶を思い起こしても、自分で買ったことがないように思いますね。持っているタオルは、全部、誰かからいただいたものです。お中元やお歳暮でいただいたもの、買物した時にもらった粗品ですね。

僕のようにタオルを自分で買わないという人、買ったことがあっても、もらったタオルの方が多いという人は、かなり多いのではないでしょうか?

このようにもらい物を使うのが習慣となっているタオルですが、自分で購入したくなるタオルを生産しているのが、愛媛県今治市にある池内タオルです。

売上の7割が消滅し民事再生法の適用を申請

池内タオルの「風で織るタオル」や「IKT」というブランドをご存知の方は少なくないでしょう。

特に風で織るタオルは、100%風力発電で織った環境に配慮したタオルとして知られています。なので、池内タオルは、自社ブランドを構築して、製造販売を行っている優秀な企業と思うでしょうが、以前は、売上の大部分をOEM生産で稼ぎ出していました。OEM生産とは、相手先ブランドによる製造のことで、大手企業の依頼を受けて製造を受託します。簡単にいうと下請けということですね。


池内タオルの代表取締役の池内計司さんの著書「『つらぬく』経営」によると、同社はジャカート織りという技術を持っており、その技術は高いものだったそうです。この技術を使うと、タオルハンカチにブランドのデザインを忠実に表現できるので、OEM生産には重宝していました。

そんな高い技術を持っていたのですから、製造を委託する側も多くの注文を出しており、1社だけで池内タオルの年商の7割にも達していました。

池内タオルのような中小企業には、このような顧客はありがたいことですが、依存度があまりにも高いのは、リスクがあります。そのリスクが顕在化したのが2003年のことでした。なんと、得意先の倒産で、年商の7割に相当する2億4千万円の売掛金、つまり、売上代金の未回収分が焦げ付いてしまったのです。


この経営危機により、池内タオルは民事再生法の適用を申請しました。

OEM生産との決別と自社ブランド中心の商品構成へ

主要取引先が倒産する少し前、池内タオルのIKTブランドが、ニューヨークの著名なトレード・ショーで最優秀賞を受賞しました。

オーガニックコットンを100%使用したタオルは、多くのメディアに採り上げられ、アメリカでも新規顧客を5社開拓するほどの人気でした。そして、2003年8月から5ヶ年計画で、OEM売上の比率を減らし、IKTブランドを中心にした経営計画をスタートさせました。

その直後の8月27日に主要取引先が倒産したのですから、池内さんは、まさに天国から地獄に突き落とされた気持だったでしょう。

当時の負債総額は、焦げついた2億4000万円を合わせて、約10億円。追加融資を受け、もう一度OEM生産に本腰を入れれば、企業として延命することは可能でしょう。ですが、これ以上に従来と同じ路線で経営を続けることのリスクは、非常に大きく感じられました。次にまた何かあったときには、もう打つ手はありません。OEMという名での下請け生産を続ける以上、同じ状況に陥る可能性を否定することはできません。(42ページ)

そこで、池内さんは、自社ブランドのIKTで経営再建することを決めます。しかし、ニューヨークで賞を受賞したとはいえ、直近の売上実績は700万円しかありませんでしたから、普通に考えると無謀と言えるでしょう。

でも、池内さんの熱意が債権者に通じ、債権カットは92%という通常では考えられない大幅なカット率が了承されました。

また、池内タオルには、IKTマニアと呼ばれる熱烈なファンがおり、中には、「タオルを何枚買えば、池内タオルは存続できますか?」といったメールを送って来る方もいたそうです。このメールには、池内さんも大変勇気づけられたそうです。

枯葉剤を使った綿で織られたタオル

綿100%のタオルと聞くと、健康的な印象があるでしょうが、実は、全世界で使用される農薬の40%から60%が綿に関して使われていると言われています。また、綿花の収穫にあたっては、枯葉剤を散布して葉を落とすのが一般的です。

僕たちが綿に持っているイメージとは、全然違いますね。枯葉剤なんてベトナム戦争で使われた化学兵器のイメージが強いので、そんなものを使って収穫された綿が健康的だとは思えません。

しかも枯葉剤を使った土地は土壌汚染が進み、農業従事者や地域住民の方が体を壊しているというのが現状です。


だから、環境や健康のことを考えると、オーガニックコットンを使用してタオルを織るのが良いのです。しかし、収穫に枯葉剤の使用ができないため、人の手でひとつひとつ綿花を摘んでいく必要があり、その分人件費がかかってしまいます。だから、オーガニックコットンを買うときは、普通の綿を買う場合よりも高くなります。

池内さんは、農薬や枯葉剤を使った綿栽培の実情に胸を痛め、そこから、環境に配慮したIKTブランドのタオルの生産を志したそうです。

環境への負荷を少なくしたタオル

風で織るタオルは、風力発電でまかなった電力で生産しているので、環境への負荷が少ないと言えます。

また、ユーザーが安心して使えるように安全性テストを実施しているスイスの国際機関であるエコテックスで、商品の生産工程に使われる原材料だけでなく、すべての化学薬品の安全性がテストされています。このテストでの評価は、最も厳しいクラス1というもので、「乳幼児が口に入れても問題がない」という安全性の証明を受けています。

他にも環境分野で初めてノーベル賞を受賞したワンガリ・マータイさんが提唱する「MOTTAINAI」に協賛し、タオルハンカチをコラボレーションでつくり、彼女が進めている「グリーンベルト運動」という植林活動とも連動しています。売上の一部がグリーンベルトに寄付される仕組みとなっているそうです。

頻繁なモデルチェンジを行わない理由

一般的なタオルは、半年に1回程度のモデルチェンジが行われます。

でも、風で織るタオルは基本的にモデルチェンジは行いません。これは、環境目標として、「買ったタオルを極力長く使っていただく」ということにこだわっていることが理由なのですが、他にもコンセプトを変えられないという理由もあります。

EUで指定されたオーガニック・コットンを使って、指定工場で糸にして、染める-当社では、これらの工程のすべてでエコテックスの認証を受けていますが、これも頻繁なモデルチェンジをおこなわないからこそ、可能になっているといえます。というのも、エコテックスの認証は非常に厳格で、タオルに使われているネームタグやミシン糸にいたるまで、すべてにかかわる化学薬品について報告しなくてはならないのです。半年に1度モデルチェンジをするような状況だと、とても間に合いません。(167ページ)

また、最初の費用だけでも100万円ほどかかるので、中小企業にとっては検査を受けるだけでも大きな費用負担となります。


池内タオルでは、全製品の80%強がオーガニック製品とのこと。これだけ、環境に配慮した企業でも100%とはならないのですから、他のタオルメーカーだと、オーガニック・コットンを使ったタオルは、ほとんどないでしょうね。オーガニックと謳っているタオルでも、頻繁にモデルチェンジをしている場合には、その言葉に偽りがあるかもしれません。


風で織るタオルは、上記のような理由もあるので、流行に合わせたデザインではなく、シンプルなものとなっています。池内タオルは、そのコンセプトに共感したユーザーに支えられ、少しずつ経営を再建しています。

「つらぬく」経営-世界で評価・池内タオル

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