ウェブ1丁目図書館

読書で得ること感じること。ここはウェブ1丁目にある小さな図書館です。本の魅力をブログ形式でお伝えしています。

コミュニケーションは送り手が得すること

現代社会は、様々な能力を持っていないと生きていくのが難しい社会となっています。20世紀ではパソコンを使えない人の方が多かったですが、21世紀に入るとパソコンを使えることが当たり前となり、それを使えないと仕事に就くのが不利となる場面もあります。

パソコンもそうですが、情報化社会の到来で今まで以上に現代人に要求されるようになった能力があります。現代では、携帯電話やインターネットの普及で多くの人とつながれるようになりました。そう、情報化社会の到来で、現代人に今まで以上に要求されるようになったのはコミュニケーション能力です。

言葉とコミュニケーション

人間がコミュニケーションをする道具として利用しているものは何でしょうか?

きっと、すぐに思い浮かぶのは言葉だと思います。道を尋ねたい時、知らない人に道を教えてもらおうとすると、まず最初に「すみません」とか「ちょっとよろしいですか」と声をかけるはずです。お店に入った時、店員さんが「いらっしゃいませ」と言うのも言葉ですし、それがお客さんとの最初のコミュニケーションになります。

人間は、他の動物にはない言葉を持つことで、よりコミュニケーションしやすくなっています。

ところで、コミュニケーションとはどういう意味でしょうか?

おそらく、多くの人が他人の話をちゃんと聞けることや自分の意見をうまく言えることと答えると思います。一言で言えば、他人と意思疎通を図れるのがコミュニケーションとなりそうです。

生物心理学、動物行動学、言語起源論を専門とする岡ノ谷一夫さんの著書「『つながり』の進化生物学」によると、進化生物学の世界ではコミュニケーションを以下のように定義しているとのこと。

送り手から受け手へ信号の伝達がなされ、受け手の反応によって、長期的には送り手が利益を得るような相互作用
(30ページ)

この定義の中で「送り手から受け手へ信号の伝達」がなされることは理解しやすいですが、最後の「送り手が利益を得る」という部分に違和感を持つ人が多いのではないでしょうか。

友人と会話を交わすことはコミュニケーションだと思ってるけど、何か見返りを求めて会話をしているわけではないと反論がありそうです。でも、送り手が利益を得られないとコミュニケーションとは言えない場面がいくつもあります。

例えば、人間は太陽の光を受けることで、温かいとか明るいといった利益を得ます。でも、光を発している太陽は何らの利益も人間から得られていません。この人間と太陽の関係をコミュニケーションと言えるでしょうか。虫が食虫植物に触れた途端、パクッと食べられたら、虫が食虫植物にコミュニケーションをとろうとしたと言えるでしょうか。普通に考えれば、コミュニケーションとは言えないとわかりますよね。

だから、コミュニケーションが成り立つためには、相互作用の中で必ず情報の送り手が利益を得られなければならないのです。

死の恐怖は言葉から

人間が他者とコミュニケーションしやすいのは言葉を持っていることだと容易に想像できます。言語が異なる者同士でのコミュニケーションが難しいことからも、同じ言葉を使っている者同士の方がコミュニケーションをとりやすいと言えます。

言葉は、なんてすばらしい道具なのでしょう。

言葉が人間の生活に役立っているのはコミュニケーションだけではありません。言葉を持つことで人間は頭の中で様々なことを考えられるようになりました。現実には起こっていないことを想像できるようになりました。そして、想像は将来の予想にも使えるようになりました。

明日のこと、1ヶ月後のこと、1年後のこと、10年後のこと、100年後のこと。

言葉を使えば、当たるか当たらないかは別にして、遠い未来のことまでも想像できるのです。

しかし、人は遠い未来を想像する時、絶望感も味わいます。100年後の世界で自分は生きていないとわかっているからです。数十年に一度、彗星が地球に接近するニュースが報じられると、「次に彗星が地球に接近するのは30年後です」と付け加えられます。現在、20歳であれば次に彗星を見れるのは50歳の時かと思うでしょう。40歳の人なら70歳にもう一度彗星を見れると予測するはずです。

では、60歳の人はどうでしょうか?

自分が90歳になった姿を想像できるかどうか。まだ元気に生きてるに違いないと思える人もいるでしょうが、平均寿命を超えているので、その頃には自分はこの世界にいないと考える人もいるはずです。そう、言葉を手に入れた人間は、未来を想像できる故に死の恐怖を感じるのです。

人間は、言葉があるから、死んだ先のことを考えられるのです。われわれと動物の大きな違いは、言葉を使って、自分の将来を考えられることにあります。
自分が存在しない将来まで考えるという能力は、数学の能力にも関係します。人間は、Nに1を足したものを、次のNとして捉える、つまりN+1を新しい単位とすることができます。1に1を足せば2に、2に1を足せば3に……と、ずっと数えられる。たとえば、1293+1=1294と、すぐに答えられますが、これはすごいことなんです。
(83~84ページ)

言葉という便利な道具が、時に人を不安にさせているんですね。

言葉で嘘をつける

人間が言葉を獲得したことで、様々なことを想像できるようになりました。将来の予測は人生設計に役立ちます。毎月銀行にお金を預けて行けば、10年後に預金がいくらになっているか、預け入れた金額に利息も加えて正確に計算できます。数学が苦手な方でも、言葉を使って銀行員に訊ねれば教えてもらえるでしょう。

人間は言葉を使って現実に起こっていないことを想像できるので、それを声に出して他人に伝えられます。つまり、人間は嘘を言えるのです。詐欺は言葉を持ったから起こる事件なのでしょう。そして、人間が言葉を使う限り嘘はなくならないのかもしれません。

現代人は、言葉を使って便利な生活をしています。だから、今後も人間世界から言葉はなくならないと思っていることでしょう。

しかし、言語という、それ自体では正直さが保証されない信号が、安定な信号であるとは、僕には思えません。人間が言語を獲得してから、まだ10万年くらいしか経っていないのです。地球の歴史46億年の0.002パーセントにすぎません。
生物は進化の途上にあり、言語という信号が、適応度という観点から失敗であったということがないとはいえない。言語は、絶妙なバランスの上に成り立っているのです。
(274~275ページ)

コミュニケーションは、情報の送り手が継続的に得しなければ成り立ちません。

ある人が一方的に得することばかりを考えて、言葉を使いコミュニケーションをする時、争いが起こるのかもしれませんね。

「つながり」の進化生物学

「つながり」の進化生物学