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ウェブ1丁目図書館

読書で得ること感じること。ここはウェブ1丁目にある小さな図書館です。本の魅力をブログ形式でお伝えしています。

成功することがわかっている状況でないとWin-Winの関係は築けない

「Win-Winの関係」という言葉があります。

これは、自分も儲かる、お客さんも得する、取引先も儲かるなど、その仕事に関わったすべての人が得をする関係ということです。でも、仕組みは確かに「Win-Win」なのですが、実際には誰も得しないといったことがあるのではないでしょうか?

本当の「Win-Winの関係」とは、格安航空券で有名なHISを創業した澤田秀雄さんが、ドイツ留学をされた時に現地でしたアルバイトではないかと思うんですよね。

できるだけ安い旅費でドイツへ

澤田さんは、著書の「HIS 机二つ、電話一本からの冒険」で、若き日のドイツ留学の体験を語っています。

澤田さんが、ドイツ留学をしたのは1973年のこと。当時は、学生運動が活発な時代で、普通に学生生活を送れるような状態ではありませんでした。

両親から反対されたものの、最終的にはマインツ大学経済学部に留学することが決定します。どうせ経済学を勉強するのなら、本物の生きた経済学を学びたいという思いがあり、それなら、ヨーロッパ経済で重きをなし、大陸の交通の中心的存在であるドイツがいいという理由から、マインツ大学を選んだそうです。


しかし、アルバイトで旅費と学費を稼いだとはいえ、手持ち資金には余裕がありません。そこで、できるだけ旅費を安く抑えるために次の経路でドイツに向かうことにしました。

検討の結果、まず横浜港から船でナホトカに渡り、そこでシベリア鉄道に乗り換え、旧ソ連を横断する形で陸路ヨーロッパに入るというコースが、ベストだという結論に達した。(22ページ)

もしかしたら、この時の経験が、後のHISの格安ツアーへとつながったのかもしれませんね。

ナイトツアーがヒット

ドイツ生活に慣れた澤田さんは、アルバイトを始めます。

日本人旅行者を相手にした通訳は、マインツ大学から電車で30分もあればフランクフルトに行ける絶好の地理的条件だったので、良いアルバイトだったそうです。

やがて、アルバイトをしていると、「夜、遊びに行くのに、どこかいい店はないか?」と問われる機会が増えてきます。当時の日本の海外旅行者は、資金に余裕があり、せっかくの機会だからどこかに行って思い出をつくりたいと希望する人がたくさんいました。

でも、今のように旅行雑誌やガイド本が充実していなかったので、どこに行けば良いのかわからない状況。だから、現地で通訳をしている澤田さんにどこか良いところはないかと尋ねたんですね。

しかし、澤田さんのアルバイトは昼間の通訳だけ。夜のサービスまで付き合わされるのは面倒と思い、仕方なく簡単に店の名前だけを教えて逃げていたそうです。

すると今度は「言葉が通じないから一緒に来てくれないか」と頼まれ、その時に自分でナイトツアーを企画、主催することを思いつきました。


すぐに行動に移した澤田さんは、料金を100~150マルクに設定したナイトツアーを始めます。当時の日本円に換算すると、1万円前後の料金です。

ツアーコースを作ったら、次はお店との交渉です。

店に行って、「こういう企画でこういうお客さんを毎日連れてくるから、飲食料金を二割、三割引いてくれ」と、直接交渉するのが手っとり早い。初めは彼らも、突然やってきた若者の要求にとまどっていたが、本当に毎日お客さんが団体で押しかけるようになると、考えを改めて、こちらの条件を受け入れてくれるようになった。(26ページ)

ホテルマンを営業マン代わりに

企画したツアーにお客さんをどうやって集めるかが、澤田さんの次なる課題でした。

当初は、自分で集めることも考えたそうですが、しかし、日本人の若者では信用がありませんし、何より自分が集客までするのは、非常に効率が悪いです。そこで、目を付けたのがホテルのフロントマネジャー。

当時、日本人が泊まるホテルは有名ホテルに限られていたので、澤田さんはそのホテルに行って、彼らに手作りのツアーパンフレットを渡し、日本人観光客が来たらこれを渡して欲しいと頼みます。そして、ツアーの申し込みがあれば電話で自分に知らせてもらうようにしました。

もちろん、タダで頼んだわけではありません。ホテルマンとは、ツアー代金の10%をバックする契約をしました。


日本人旅行者は、決まって10人、20人というグループで来ていたので、ナイトツアーの予約が1件でも入れば、ホテルマンにとって、かなりの収入になります。だからフロントマネジャーは、1ヶ月もこのアルバイトをやれば、自分の給料以上の収入を得ることができました。

日本人旅行者にしても、まさか一流ホテルのフロントマネジャーが素人学生の作ったナイトツアー案内をしているとは思わないので、その信用力のおかげで、どんどんとツアーは申し込まれました。


こうして1ヶ月もナイトツアーをしていると、手伝ってくれた友人にアルバイト代を払っても、100万円から200万円は手元に残ったそうです。

澤田さんが、次の旅に出るためにナイトツアーを終了すると、ホテルのフロントマネジャーはがっかりしたとのこと。

成功することがわかっていた企画だからこそ誰もがハッピーに

澤田さんのこの学生時代の体験は、自分も儲かる、お客さんも喜ぶ、お店も儲かる、ホテルのフロントマネジャーも儲かるというように、その仕事に関わったすべての人が幸せになるものでした。

今でいう「Win-Winの関係」の典型例ですね。

こうして今思うと、私が若いときにドイツで得たものは、みんながハッピーになれることは必ず成功する、という確信だった。(中略)
つまり、ナイトツアーの企画、実行ということを中心にして、それにかかわった人がみんなハッピーになれた。だからこそ大成功したのである。(32~33ページ)

これだけを読むと、とにかく仕事に関わる人がみんなハッピーになれるのなら「Win-Winの関係」を築けると思うでしょうが、僕は、そうは思いません。


澤田さんがナイトツアーの企画で成功したのは、通訳のアルバイトをしているときにお客さんから夜に遊びに行けるお店を教えて欲しいという要望が先にあったからです。

すなわち、お客さんが何を望んでいるのかが事前に分かっていて、それを叶えてあげれば喜ばれるし、報酬も受け取れることが確実な状況だったから、お店やホテルマンとの交渉もうまくいったのです。そして、澤田さんが言ったようにたくさんのお客さんが押し寄せる状況になったからこそ、「Win-Winの関係」ができあがったんですね。

もしも、売れるかどうかわからないものを造って、営業マンにこれを売ったら、売上の10%を報酬で支払うと言っても、「Win-Winの関係」を築けるかどうかわかりません。営業マンがあちこち駆け回っても、売れなければ、無駄な労力を費やした営業マンはタダ働きになってしまいます。

売れれば、「あなたも自分も得をするのですよ」ということと「Win-Winの関係」は違うと思うのですが、世の中には、これを「Win-Win」の関係だという人がたくさんいます。

結果が出れば、そうなのでしょうが、結果が出なければ「Win-Win」ではないですよね。


今ある自分の利益を他者に分け与えて、さらに利益を得ることが「Win-Winの関係」ではないでしょうか。

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