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ウェブ1丁目図書館

読書で得ること感じること。ここはウェブ1丁目にある小さな図書館です。本の魅力をブログ形式でお伝えしています。

基幹技術の外注は将来の不確実性への対応を困難にする

我が国の重要産業の一つに位置づけられる自動車産業

その基礎を築いたのは、トヨタの元社長の豊田英二さんでしょう。2015年3月期のトヨタの連結売上高は27兆円、当期純利益は実に2兆円を超えています。

このような超大企業にトヨタが成長したのには、様々な理由があります。その中でも、豊田英二さんの「すべての技術はなかでやれ」という言葉がトヨタの成長に最も影響を与えているのではないでしょうか?

自動車技術は乗用車から生まれる

昭和27年1月4日。

この日は、トヨタが初代クラウンの開発をスタートした日です。現在のトヨタは、この日から始まったと言えるでしょう。「豊田英二語録」によれば、「誰も乗用車をやるべきだ」とは言っておらず、「トラックをやっていれば会社は安泰」だと思っていたそうです。

ところが、当時の車体工場の次長であった中村さんはそう思っておらず、「今、乗用車をやらないと、この会社の先行きは危うい」と言って回ったとのこと。

「理由は明確でしてね、すべての自動車技術は乗用車から生まれるんですよ。トラックなんて壊れなければいい、耐久性が高ければいい。そんなものをいつまでつくっていたって、技術の進歩はない。僕としてはおもしろくもなんともなかった」
(165ページ)

大きなモノを造るよりも小さなモノを造る方が難しいです。だから、トラックのような大きなモノを造り続けても、技術革新は生まれないと中村さんは考えたのでしょう。

今よりも小さなモノを造ることは、より細かい作業をできなければならないということです。今やっている細かい作業よりも、さらに細かい作業ができるようにすることこそが技術革新につながっていくわけですね。

新技術の開発には時間がかかるもの

しかし、新しい乗用車を開発すると言っても、一朝一夕にできるものではありません。初めて乗用車を造るのですから、エンジニアが束になっても開発は遅々として進みません。

こういう場合、経営トップはエンジニアに発破をかけて、「いついつまでに形にして来い」と言ってしまいます。豊田さんも乗用車開発に焦りを見せていたようですが、「やっぱり、メシが煮えるには時間がいるわな」と口にしたそうです。

英二はロジックを重んじる技術者である。中村に対しても、ほかのエンジニアにも、咎め立てるようなものの言い方はしない。理由のひとつに、例えば、喜一郎の口癖でもあった言葉を思い出していたのかもしれない。「マシナビリティー(工作性)、ビリーバビリティー(信頼性)、ユニオリティー(均一性)が、もっとも大切なことだ」、と。
その英二の信条は、製品のクオリティーを重視することである。技術者たちを追い立てても、いい製品は生まれない。だから、英二も喜一郎も、自動車のクオリティーを重視した「モノづくり」をやっているのだ。自動車のクオリティーとは、つまり人間を安全に、快適に運ぶことである。
(169ページ)

豊田さんは、ロジックを重んじるエンジニアだったからこそ、技術ができあがるのを待つことができたのでしょう。エンジニアに発破をかけたところで、時が来なければ新技術は生まれないのかもしれません。

基幹技術の外注は責任転嫁につながる

乗用車が増えたことで、排出ガスを原因とする環境汚染が問題となりました。

そして、昭和45年にアメリカで排出ガス規制法案が成立し、日本でも昭和46年に環境庁が誕生しました。自動車メーカーであるトヨタは、当然、排出ガス規制の対象となります。

排出ガス規制に従うために触媒技術を使うことが社内で決まりました。しかし、トヨタは機械屋であり化学は専門ではありません。だから、触媒開発は専門の会社に依頼すべきだという意見が出ましたが、豊田さんは社内での開発を徹底します。

普通に考えれば、畑違いの仕事は外注した方が、高品質で安全性の高いものができるはずです。

「英二さんが偉いのは、そこなんだな。この触媒を開発する前に、専門の会社にやらせたらどうでしょうか、と提案したことがあったんだが、英二さんは相変わらず『なかでやれ』と言う。理由は基幹技術を外部に委託したら、いざ、という時に困る。社内であれば、どうにかこうにか対応することができるからね。
それから、ここがもっとも肝心だと思うんだが、どうなるか分からないものを外の会社に任せられない、そんなリスクをほかの会社に負わせることはできないと、英二さんは言う」
(185~186ページ)

経営環境は、いつ変わるかわかりません。新たな規制ができるかもしれませんし、他社が新技術を開発して自社の技術が時代遅れになるかもしれません。

もしも、経営環境の変化のたびに「それは専門外だ」と言って他社に仕事を依頼していたのでは、やがて、自社の技術力が低下して行き詰ってしまいます。

そうならないためには、できるだけ自前で技術開発を行うべきでしょうし、それが無理なら基幹技術だけでも常に自社開発を続けていくようにすべきではないでしょうか?

また、外注することは、その仕事の責任を外注先に転嫁することにもなります。現在、すでにある技術を外注するのであれば問題ないでしょうが、まだこの世に存在していない技術の開発を外注することは、自社が負うべきリスクを外注先に抱えさせることになります。

何度も何度も新技術の開発を外注していたら、やがてリスクを取らない企業になってしまいます。そして、新技術の開発を受託できる会社がなくなった時、自社の命運は尽きます。


外注が必要になることはあります。

でも、外注はリスクを転嫁するものではありません。無リスクの仕事を他社に依頼することなのです。ボールペンの組み立て、割り箸の袋詰めといった仕事ですね。

そして、自社が行うのはリスクを負担する仕事です。この世にまだない技術の開発こそが、やがて基幹技術となり、将来の不確実性に対応できる力を養うことになるのではないでしょうか?

豊田英二語録 (小学館文庫)

豊田英二語録 (小学館文庫)

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