ゴルフは娯楽でありながらも、ビジネスパーソンの仕事上のつきあいとしてプレイしなければならないことがあります。
最近は、景気が悪いので接待ゴルフという言葉を聞かなくなりましたが、一昔前には休日に取引先の方とゴルフに出かけるビジネスパーソンをよく見かけました。僕も以前はゴルフをしていたのですが、ここ数年は、ゴルフ場に出かけるのが面倒だったり、お金がかかったり、丸1日つぶれてしまったりということが嫌でプレイしていません。接待ゴルフには行ったことはないのですが、友人同士であっても、最近ではあまりゴルフをしようとは思わなくなっています。
自分の期待通りのショットが出なかった時のイライラ、そして、そこからハマり込むスランプが、少しずつゴルフから遠ざかって行った理由ですね。
ゴルフをするのは自身であって自分ではない
ゴルフのスランプの脱出法については、W.T.ガルウェイが、その著書「新インナーゴルフ」で興味深いことを述べています。
そもそもゴルフをするのは誰でしょうか?
そんな質問をされたら、誰もが当たり前のように「自分自身」だと答えるでしょう。しかし、この自分自身という言葉が、意外と厄介なのです。多くの人の場合、クラブを振ってボールを打つのは肉体ですが、その肉体に指令を出すのは意識です。
ショートホールのティーショット。
グリーンまでは130ヤードほどなので、ワンオンさせることができます。しかし、目の前には大きな池。こんな時、あなたの頭の中に「グリーンに乗せることは簡単だ。しかし、一歩間違うと池に入れてしまい次に3打目を打つことになってしまう。ショートホールでは命取りになるから、しっかりやれよ」という言葉が聞こえてきます。
この言葉、いったい誰のものでしょうか?
もちろん、あなたの心の声です。
そして、「しっかりやれよ」と命令していますが、これは誰に向かって言っているのでしょうか?
これも、あなた自身に対してですよね。
そう、ゴルフのプレイ中には、あなたの意識が、あなた自身に命令をしているのです。ガルウェイは、命令をしているあなたの意識のことをセルフ1(自分)と定義し、クラブをスイングする肉体のことをセルフ2(自身)と定義しています。
ゴルファーは、いかにもセルフ1がセルフ2に指導をして、正しいショットをさせようとしていると思い込んでいますが、実はそうではありません。ゴルフをするのはセルフ2であって、セルフ1はゴルフをしていないのです。むしろ、セルフ1がセルフ2に囁くことで、セルフ2は委縮して本来のスイングができなくなっているのです。
スランプは意識した時に始まる
ゴルフを長いこと続けていると、一度や二度はスランプに陥ることがあります。
スランプを引き起こしているのは、期待通りに動いてくれないセルフ2に問題があると思うでしょう。しかし、スランプの本当の原因は、セルフ1にあるのです。そして、ガルウェイは、そもそもスランプなんか存在しないんだと述べています。
「スランプというのは、我々の心が、心の中に創り出す実体のないものなんだ。ある人はたった2回のミス・ショットでスランプだと言うし、別の人は2ヶ月も不振が続いても、まだスランプだとは思わない。だから、スランプだと思ったときがスランプなんだ。深く考えれば考えるほど、スランプだと信じれば信じるほど、そこから抜け出すのが難しくなる。基本的には、スランプというのは過去のまずいプレー状態が今後も続くのだという確信から生まれてくる。そう考えなければいいだけの話だ。つまり、今をプレーすることだ。過去の一つ一つのショットは、よいものも悪いものも過去に任せておけばいい。『過去は、今や未来に対しての影響力は何もない』と考える人には、なんの力もない。もし自分はスランプに陥っていると感じているなら、今この瞬間にその考えを捨てることだ。スランプを創り出したのは、自分なのだ。」
(283ページ)
過去に2回、3回と連続でミス・ショットをしたからと言って、それが、次のショットもおかしくしてしまうことなんてないのです。過去は未来を左右しません。それなのに4回目もミス・ショットが生まれてしまうのは、セルフ2に介入してくるセルフ1に理由があるのです。
「過去3回のミス・ショットは、打つ瞬間に顎が上がっていたからだ。だから、次は顎が上がらないようにしろよ」
と、セルフ1がセルフ2に囁きかけてくるから、セルフ2は委縮してしまい、本来のショットをできなくなります。そして、ボールは、目の前の池に吸い込まれていきます。この時、セルフ1は、セルフ2に対してこう言います。
「だから、ショットの瞬間に顎を上げるなと言ったろ!お前は、どうして同じ過ちを何度も繰り返すんだ!」
なりたい自分を想像する
ミス・ショットをしたのはセルフ2です。しかし、その原因を作っているのはセルフ1なのですが、多くのゴルファーはそれに気づいていません。ミスをするたびにセルフ1がセルフ2を叱責し、ショットのたびに命令を下している限り、スランプから脱出することはできません。
それなら、セルフ1にネガティブなことばかりを発言させずにポジティブなことを言わせれば良いと思うかもしれませんが、そういったことではありません。
スライスする人が「このボールをストレートに打とう、打とう」と考え、そう予期したからといって、ボールが真っ直ぐに飛ぶわけではない。ポジティブ思考がネガティブ思考の対抗馬だと考えるのは、錯覚にすぎない。心の内側では「自分はスライスするに違いない」という考えをあくまでも保っているからだ。それと逆の考えをあえて見せかけようとするのは、ネガティブ思考を逆に強化することになる。
(299ページ)
マイナス思考をプラス思考に変えるというのも、これと同じことです。
ポジティブ思考もプラス思考も、スランプから脱出する手助けをしてくれません。
スランプから脱出する最も良い方法は、セルフ2を信頼することであり、なりたい自分を演じることなのです。
薪割りのようなスイングをするゴルファーが、もっとスムーズでリズミカルな、プロのようなスイングで打ちたいと思っているなら、その動作を口で説明するのではなく、実際にその動作をやってみることです。
テレビで見るプロゴルファーのようなスイングをしたいのであれば、そのプロゴルファーのスイングを演じてみればよいのです。そうすると、無意識のうちに理想とするスイングをセルフ2がするようになります。しかし、いったんセルフ1がセルフ2に介入してくると、再び薪割りのようなスイングに戻ってしまいます。
「両方とも君はやれる。一方はこの10年間、君が自分のスイングだと思ってきたゴチゴチの薪割り打法だ。もう一方も、実際には使われなかっただけで、実はずっと内側で待機していたスイングだ」。
(302ページ)
おかしなスイングは、これまでセルフ1がセルフ2に語りかけてきたことで出来上がったスイングです。本来、セルフ2はきれいなスイングをできるのです。しかし、セルフ2を信頼できずセルフ1をプレイの最中に登場させるから、セルフ2本来のスイングが表に現れないのです。
多くのゴルファーがスランプに陥ります。しかし、スランプを招いているのはセルフ2を信頼できないセルフ1、すなわち自分の意識なのです。
セルフ1を黙らせることができれば、スランプから脱出できます。いや、そもそもスランプという言葉は、セルフ1が勝手に作り上げた幻想であり、そようなものは存在しないのです。
- 作者:ティモシー ガルウェイ
- 発売日: 2002/04/15
- メディア: 単行本