ウェブ1丁目図書館

ここはウェブ1丁目にある小さな図書館です。本の魅力をブログ形式でお伝えしています。なお、当ブログはアフィリエイト広告を利用しています。

酵素ドリンクを飲んでもアミノ酸プールの一員になるだけ

人間の体は様々な物質でできていますが、その中でも重要な働きをしているのが「たんぱく質」です。

筋肉も皮膚も髪も、全てたんぱく質でできています。これら体のパーツを見ただけでも、たんぱく質がなければ人間は生きていけないことがわかるでしょう。

たんぱく質は、20種類のアミノ酸の組み合わせでできています。だから、たんぱく質を食べる行為は、アミノ酸を食べる行為に他なりません。ビーフステーキも、ベーコンエッグも、魚の切り身も、たんぱく質でできていますが、口から入ったこれら食べ物は小腸から吸収されるときには、アミノ酸に分解されています。

消化酵素の洗礼を受けるたんぱく質

たんぱく質は、アミノ酸が意味のある並び方をしているから何らかの働きができます。しかし、たんぱく質は、その立体構造が壊れてしまうと働きを失ってしまいます。これをたんぱく質の変性といいます。

具体的には、たんぱく質は加熱すると変性します。卵の白身に火を通すと、透明だったのが白く固まりますが、これも変性の一つです。また、たんぱく質は酸によっても変性します。口から入ったたんぱく質が、胃の中で胃酸にさらされれば加熱したのと同じように変性します。

医学博士の武村正春さんは、我々が食べたたんぱく質が、体内でどうなるのかを著書の「たんぱく質入門」でわかりやすく解説してくれています。

食べたたんぱく質が胃の中に入ると、塩酸にさらされます。そして、消化酵素ペプシンが分泌されると、たんぱく質はぶつ切りにされ、それまで持っていた機能を失います。

ペプシンにぶつ切りにされたたんぱく質は、十二指腸に移送され胆汁と膵液がかけられます。膵液には、トリプシンやキモトリプシンといった消化酵素が含まれており、たんぱく質は、これら消化酵素によってアミノ酸まで分解され、小腸の吸収上皮細胞から体内に入ります。この時、アミノ酸が2個か3個つながった状態になっているものもありますが、これらも吸収上皮細胞内でペプチターゼによって1個1個のアミノ酸まで分解されます。

したがって、我々の口に運ばれたビーフステーキやベーコンエッグは、体内に吸収されるときには消化酵素の洗礼を受けてアミノ酸にまで細かく分解されるので、元の姿を保っていませんし、たんぱく質としての機能も失っているのです。

アミノ酸プールに貯蔵

体内に吸収されたアミノ酸は、いったんアミノ酸プールに貯蔵されます。例えるなら、工場の部品倉庫にいったん保管される感じですね。

アミノ酸プールには食事から摂取したアミノ酸の他にも、体の中で使われていたたんぱく質も貯蔵されています。簡単に言うと、建物の廃材の中から再利用できそうなものを集めて倉庫に保管しておくようなものです。つまり、アミノ酸プールには、食事由来のアミノ酸とリサイクルされるアミノ酸が保管されているのです。

そして、体の中でたんぱく質を生産しなければならない状況になったら、アミノ酸プールに保管しておいた20種類のアミノ酸から必要なものを選び出し、たんぱく質を組み立てます。激しい運動で筋肉が損傷した場合には、アミノ酸プールから筋肉の修復に必要なアミノ酸を取り出して加工します。運動中にこけて膝をすりむいたら、その傷を治すためにもアミノ酸プールから必要なアミノ酸を取り出して治療に使います。

私たちの体内では、常にたんぱく質が合成され続けている。そのため、もし外部からたんぱく質を摂取しなければ、たとえ他の供給源があっても、そのままではアミノ酸プールのアミノ酸はやがて減る運命に直面するだろう。
私たちがたんぱく質を栄養素として摂取するのは、アミノ酸プールのアミノ酸の種類と量を一定に保ち、充実させるためでもある。
(65~66ページ)

たんぱく質の設計図

アミノ酸プールに貯蔵されたアミノ酸を正しく組み立てるためには設計図が必要です。その設計図は遺伝子と呼ばれ、DNAに記憶されてます。

アミノ酸からたんぱく質を作るためには、この設計図を参照しなければなりません。DNAの遺伝情報はmRNAにコピーされます。体内のたんぱく質製造工場であるリボソームは、このmRNAにコピーされた設計図を基にアミノ酸を組み合わせていき、最終的に体の一部として機能するたんぱく質を完成させます。

mRNAにコピーされた遺伝暗号は、A、U、G、Cのたった4文字で構成された文章でできています。例えば、「AUGCGUGCU」といった具合に。

これら4文字で構成された文章は、3文字ごとに区切ると、20種類のアミノ酸と対応するようになっています。上の例だと対応するアミノ酸の配列は以下のようになります。


4文字を3つ一塊にする組み合わせは64通り。そのため、20種類のアミノ酸と対応させると、一つのアミノ酸が複数の3文字の組み合わせと対応することになります。ちなみに3文字の組み合わせのことをコドンといいます。上の例では「CGU」も「GCU」もその暗号が意味するのは「アラニンを並べよ」ということです。

こうやって、4文字の遺伝暗号に対応するアミノ酸を並べていき、全てつなぎ合わせると、体のどこかで機能するたんぱく質ができあがります。

酵素ドリンクの価値はいかほどか?

さて、最近では健康に良い効果をもたらすと喧伝して酵素ドリンクが売られています。

酵素とはいったい何なのでしょうか?

色々な機能を持っているそうですが、どの酵素たんぱく質でできています。したがって、酵素ドリンクを飲めば、その中に入っている酵素は胃酸で編成し、消化酵素の洗礼にあって1粒1粒のアミノ酸まで分解されます。そのため、小腸から体内に吸収された時には、酵素の働きを完全に失っています。

飲む前の酵素ドリンクに含まれている酵素は、何らかの働きをするのでしょうが、体内に入った時にはビーフステーキやベーコンエッグと同じようにアミノ酸プールの一員になります。そして、筋肉痛が起きた時は、酵素ドリンクを構成していたアミノ酸も、それを治すために利用されます。

そう、アミノ酸が体内で使われるとき、食べる前のたんぱく質の形は全く意味をなさないのです。運が良ければ、酵素ドリンクに含まれていたのと同じ酵素が、体内で作られる可能性はあるでしょう。しかし、酵素ドリンクに含まれているすべての酵素が体内で作られる保証はありません。

このような体の仕組みから考えると、果たして酵素ドリンクを飲む意味があるでしょうか?

たんぱく質の良質度を表す指標にはアミノ酸価とプロテインスコアがあります。アミノ酸価はたんぱく質を含む食品の多くが100点満点になりますが、プロテインスコアで見た場合には100点満点を取れるのは鶏卵とシジミくらいのものです。

鶏卵1個には約7グラムのたんぱく質が含まれています。しかも100点満点です。小売価格は1個あたり15円前後ですね。

1本の酵素ドリンクに含まれているたんぱく質が7グラム以上あり、かつプロテインスコアが100点満点、小売価格が15円前後であれば酵素ドリンクは優れたたんぱく源と言えます。でも、1本の酵素ドリンクにたんぱく質が7グラムも含まれておらず、プロテインスコアも低ければ、値段に見合うたんぱく源とは言えませんね。それなら、ゆで卵を食べた方が良いでしょう。

ちなみに女性が大好きなコラーゲンもたんぱく質ですから、食べれば胃酸で変性し消化酵素の洗礼を受け、アミノ酸まで分解されて体内に吸収されます。

食べたたんぱく質が消化されてできたアミノ酸が、そのまますぐにでも、たんぱく質合成に使われるわけではない。コラーゲンを食べると、そのまま体内で自分のコラーゲンになると誤解している人がいるが、そうではない。コラーゲンだってたんぱく質だ。胃や腸でアミノ酸にまで分解され、吸収され、かつてコラーゲンだったアミノ酸もやはり、いったんアミノ酸プールの一員となる。
(66ページ)

コラーゲンには、ヒドロキシプロリンという特殊なアミノ酸が含まれているので、それを摂取する意味はあるのかもしれません。でも、コラーゲンだって分解されてしまえば、再度コラーゲンとして使われるかはわからないので、鶏卵と値段を比較して摂取するかどうかを決めた方が良いでしょうね。