ウェブ1丁目図書館

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中途半端に結果を残して早世すると後世に高く評価される

偉大な業績を残した歴史上の人物を挙げていくと不思議なことに気付きます。

それは、何かを完結させた人よりも志半ばで世を去った人の方が高評価を受けるということです。明治維新を実現した木戸孝允大久保利通よりも、日本の夜明け前に暗殺された坂本龍馬のほうが偉大な人物だったと評価されるのがその例です。同じく戦国時代を終わらせ260年の泰平の世を築いた徳川家康よりも、その礎となった織田信長の方が高評価になっているのではないでしょうか。

そして、坂本龍馬にしても織田信長にしても、もっと長く生きることができたはずなのに非業の死を遂げたから、さらに評価が上がっているような気がします。

中小企業の社長向きだった織田信長

織田信長は、日本社会を中世から近世に移行させた重要人物なので、歴史上、高い評価を受けるに値する人物なのかもしれません。しかし、織田信長は、天下を統一する前に明智光秀に討ち取られたので、その生涯の中で目標を達成することはできませんでした。一方の徳川家康は、豊臣家を滅ぼして泰平の世の到来を見届けてから亡くなっています。

2人の一生の業績を並べると、織田信長よりも徳川家康の方が大きな仕事を成し遂げて人生を完結させたように思います。ところが、徳川家康の評価はあまり好ましいものではありません。狸親父と呼ばれているように腹黒さを持った人物という見方が強く、毛嫌いする人も多いです。

一方の織田信長は、強力なリーダーシップを発揮して部下を引っ張っていった理想の指導者のように評価されることが多いです。

作家の遠藤周作さんは、様々な分野で活躍する人たちと対談や鼎談を行った内容を収録している「たかが信長 されど信長」で、織田信長を個人企業の社長と評しています。

信長は大企業の社長になってからも、尾張の個人企業の社長のまんまのような統治体制をとるんです。ブレーンとか重役を置くんではなくて、すべて独裁社長の意志ひとつで決断した。これにたいして、秀吉や家康は重役やブレーンを積極的に活用します。その点どうも信長と言う人は、本人がかくれもなき天才だったことは間違いないが、組織をきちんと固めるという点については劣っていたんじゃないか。だから、内部においても、隙あらば謀反を起こしてやろうという人たちに取り囲まれていて、ついには明智光秀の裏切りによって倒れてしまった。
(26ページ)

リーダーシップが強烈であればあるほど、その人に魅力を感じるものです。しかし、組織が大きくなればなるほど、個人の影響力は小さくなっていきます。いつまでも一個人の影響力が強力な組織は、ある程度まで大きくなると限界が来るのでしょう。

現代企業が大きくなるにつれて、事業部制組織を採用したり分社化するのは、個人のリーダーシップだけでは組織を回せないからです。

織田信長が強力なリーダーシップを発揮したことは確かですが、本能寺の変で倒れる頃には、彼のリーダーシップのみでは組織を統括できない状況になっていたのかもしれません。

偉くなると老醜をさらしやすい

織田信長が高く評価される理由には、強力なリーダーシップの他に鮮やかすぎるほどのひらめきのようなものもあるでしょう。誰も思いつかなかったことをやってのける天才的な頭脳を織田信長は持っていましたから、49歳で亡くならず、あと10年から20年くらい生きていれば、もっと素晴らしいことをやってくれたはずだと期待してしまいます。

豊臣秀吉も若い時の姿は多くの人を魅了しますが、晩年は明国に宣戦布告したり、身内を次々と処刑したりと悪い印象を残しました。出世するとわがままになってしまう人がいますが、秀吉も、そのタイプだったのでしょう。また、誰もが、秀吉と同じ性格を持っているように思います。

織田信長が、長生きしていれば、豊臣秀吉と同じ過ちをしたかもしれません。信長も、国内を平定した後は海外に進出しようと考えていたようですからね。明国との戦争に勝っても侵略者と言われるでしょうし、負ければ身の程知らずと罵られるはずです。しかし、信長は、早世したので老醜をさらすことはありませんでした。これについての遠藤さんと尾崎秀樹さんとの対談も興味深いです。

遠藤 あと、信長の場合の思考の柔軟さ、ね。外から来た者を比較的抵抗なく受け入れるでしょ。そしてハイカラでしょう。もう一つ、カッコいいのは、自分の人生も一つの「美学」にしてしまって、日本人好みの四十九で死ぬというようなことね。あれ、もしダラダラ。ダラダラ生きていたら……。
尾崎 老醜をさらすことになりかねない。
遠藤 ね。やはり、天下人とはいえ、全国制覇まではいってないでしょう。だから、あれでずいぶんイメージよかったんじゃないんですか。
尾崎 やぱり、大成しちゃうと徳川家康になっちゃうからね。
(136~137ページ)

後世の人々に高評価を受けたいなら、一生のうちに自分の目標を達成してはダメです。昼間はバリバリ働いて仕事ができそうな雰囲気を漂わせ、夜は「天下とるぞ」と大法螺吹いて酒場で大騒ぎする。こういう人が、ある日、バタっと倒れると「惜しい人を亡くした」と周囲が持ち上げ、やがて伝説のように語り継がれます。

過去に成し遂げたことの延長線上で、その人の将来は期待されやすいです。中途半端に結果を残して早死にすれば、実力以上の評価を得られるかもしれませんね。