ウェブ1丁目図書館

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新選組始末記を読んでおけば新選組の時代小説が一層楽しめる

新選組を題材とした時代小説はたくさんあります。

ちょっと思い出してみたところ、司馬遼太郎池波正太郎津本陽、広瀬仁紀などの作家の名があがりました。どの作家の新選組の小説も、それぞれの個性があっておもしろいですね。でも、新選組の時代小説を読むなら、子母澤寛の「新選組始末記」も読んでおいた方がいいです。

これを読むか読まないかで、それぞれの作家の新選組を題材とした作品の味わいが違ってくるんですよね。

新選組関係者の証言

新選組始末記が発表されたのは、戊辰戦争からちょうど60年後の昭和3年(1928年)です。この年も、戊申の年にあたります。

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新選組始末記は、新選組隊士の生き残り、新選組隊士の親類や知人の証言をもとに書かれたものです。なので、新選組を研究する上での重要な史料とも言える作品なんですよね。

新選組隊士の遺談や親族の話しがまとめられているわけですから、比較的信憑性が高い内容といえます。新選組を題材とした小説も、新選組始末記を参考にして書かれているものが多いので、これを読んでおけば、作家が新選組をどのように捉えているのかがわかりやすくなります。

フィクションを楽しめる

時代小説は、完全な創作というものもありますが、史実に沿って書かれているものが多いです。でも、史実に沿って書かれた作品でも、必ずしも事実だけを描写しているわけではありません。史実の中にフィクションを盛り込むことで、物語が盛り上がるようにしていることがよくあります。

僕は、史実に沿った時代小説にフィクションを盛り込むことを否定しません。むしろ、その部分にこそ、作家の腕が見られるので、フィクションを盛り込んでいない作品よりも味わい深いと思っています。でも、作家がフィクションを盛り込んでいても、それが分からなければ、その作品を十分に楽しめないように思います。

時代小説を読んでいる時、フィクションを楽しむためには、どこまでが史実なのかを判断する知識が要求されます。史料だけでは、史実なんてわからないという反論があると思いますが、僕が述べているのはそういうことではありません。

史実とされていることを知ったうえで、時代小説を読めば、作家が史実とされていること以外の内容を盛り込んでいた場合、それに気づくことができるのです。そして、その部分から、作家の登場人物に対する思い入れなんかが垣間見えたりするんですよね。

新選組作品のフィクションいろいろ

先ほども述べましたが、新選組始末記を読んでおけば、どこにフィクションが盛り込まれているかがわかります。

新選組の羽織

新選組隊士は、水色に染められた羽織を着て、京都市中を見廻りしていたイメージがありますよね。あの羽織は、結成当時の局長だった芹沢鴨が隊士らを連れて、大坂の商人から無理にお金を借りて作ったものです。

でも、作品によっては、隊士の羽織を考えたのは、副長の土方歳三だったりします。土方歳三が、新選組内の規律に厳しいイメージを読者に与えようとするなら、彼が、隊士の羽織を考案したということにした方が、物語上、都合が良かったのでしょう。

池田屋事件での吉田稔麿の死

新選組を語るうえで、忘れてはいけないのが池田屋事件ですね。

長州系の浪士たちが京都の池田屋に潜んでいるところを新選組が見つけ、バッタバッタと斬り捨てていく場面は、物語の中で、最も盛り上がります。この時、沖田総司が血を吐きながらも見事な働きをするのですが、ここでも作家の思い入れをうかがうことができます。

長州藩士の吉田稔麿もこの時、池田屋にいました。吉田稔麿は、いったん長州藩邸に戻り、槍を持って池田屋に返ってきたところを沖田総司にあっけなく斬られたとされています。加賀藩邸の前で見張りの者と戦って死んだという説もあります。

長州贔屓の作家の場合、吉田稔麿沖田総司と果敢に戦って討ち死にしたように描きます。逆に沖田総司に肩入れする作家なら、血を吐きながらも見事な太刀さばきで吉田稔麿を切り捨てたように描きます。

内山彦次郎暗殺事件

新選組が暗殺した人物の中には、大坂町奉行の与力内山彦次郎もいました。

内山彦次郎は、新選組隊士が大坂で力士たちと乱闘騒ぎをした時に取り調べをした人物です。この時の取り調べが気に入らなかったという理由から、約1年後に近藤勇たちが内山彦次郎を暗殺しています。新選組が、内山彦次郎が長州藩の手先となって米価のつり上げなどを行っていたことを探知したから、殺害したともされています。

新選組に肩入れする作家は後者の説を採用しますし、内山彦次郎の暗殺は新選組とは関係がないと書いたりします。そもそも、この暗殺事件がなかったかのように一切触れない作品もありますね。

長州贔屓の作家の場合は、前者の説を採用することが多いです。

近藤勇の首

近藤勇は、戊辰戦争で新政府に捕えられ、板橋で斬首されました。

胴体は、近藤勇の親族が新政府の番人に3両ほどの金を渡して受け取り、菩提寺の竜源寺に埋葬しています。

首は、京都の三条河原にさらされた後、大阪千日前にもさらされ、最終的に京都の粟田口の刑場に埋められました。

この場面でも、よくフィクションが盛り込まれます。三条河原にされされた近藤勇の首が、ある日、消えてなくなるといったものです。その首は、新選組隊士のひとりが持ち去り、会津若松愛宕山の中腹に埋めたと描くことが多いですね。

実際に会津若松愛宕山には近藤勇の墓があります。彼と縁故のある土地ではないので、会津若松に墓があることは不思議です。だから、何者かが近藤勇の首を盗み、会津若松で埋葬したという創作ができるんですね。


他にも新選組を題材とした時代小説を読んでいると、その作家が盛り込んだフィクションに気付くことがあります。中には、作家の創作で登場していると思っていた人物が、実在していたということもありますね。

でも、新選組始末記を読んでいなければ、こういったところに気付くのは難しいでしょう。

新選組を描いた時代小説をより楽しむためにも、新選組始末記を一読しておくことをおすすめします。

新選組始末記―新選組三部作 (中公文庫)

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