ウェブ1丁目図書館

読書で得ること感じること。ここはウェブ1丁目にある小さな図書館です。本の魅力をブログ形式でお伝えしています。

食うために働くのか、それとも、成長のために働くのか

なぜ、働くのか?

これは、人間が生きている間に必ず考えることではないでしょうか?

働かなければ食っていけない。だから、働くんだという人もいるでしょうし、仕事が楽しいから働くという人もいるでしょう。他人とのコミュニケーションのためという人もいるかもしれませんね。

いずれにしても、働くことに対して、人は何らかの見返りを求めていると思います。給料だけでなく、やりがいというのも見返りと捉えることができますよね。

田坂広志さんは、著書の「仕事の思想」で、「仕事の報酬は能力である」という言い方をしています。この言葉にもうなづけるところがあります。

食うためなら楽な仕事を選ぶのは当たり前

仕事の目的を食うためと考えるなら、できるだけ楽な仕事を選ぶことになるでしょう。

最終的に空腹が満たされることが大事なのですから、その過程はできるだけ省略された方が良いというのは、ごく当たり前のことです。今、お腹が空いているのなら、冷蔵庫のドアを開けて、すぐに食べれそうなものを見つけて、それをつかみ、口の中に放り込めばよいでしょう。これが最も手っ取り早く目的を果たせる方法なのですから。

しかし、材料しか入っていなければ調理しなければなりません。また、冷蔵庫に何もなければ買い物に行かなければなりません。これらの手間が発生する分だけ、空腹を満たすという目的を果たすのに時間がかかりますね。

さらにお金がなければ、買い物ができませんから、稼ぐ必要があります。そうすると、食物にありつけるのは、日雇いの仕事の場合でも、10時間後くらいになるのではないでしょうか。また、このような状況で月給の仕事を選ぶのは困難なので、手っ取り早く空腹を満たすために借金をするという人もいるでしょう。

いずれにしても、今現在の空腹を満たすことが最終目的なら、仕事は楽で、早く終わり、すぐに給料がもらえることが理想と言えます。

安定収入が得られている状況でも食うために働くのか?

では、すでに安定した収入を得ることができており、貯金もそれなりにあって、そうそう食うことに困らない状況でも、人は食うために働くのでしょうか?

言い方を変えれば、食うことに困らないだけの貯金があれば、人は働かなくなるのでしょうか?


中にはそういう人もいるでしょうが、仕事をし続けるという人の方が多いのではないかと思います。

ある程度の期間仕事をしていれば、1年や2年は無収入でも食っていけるだけの貯金はできているものです。それだけの貯金があれば、仕事を辞めて1年くらい遊んで、貯金がなくなった時に再就職するという選択をする人がたくさんいてもいいと思います。でも、そういったことをする人は稀ですよね。

ということは、人は、食うためだけに働いているのではないのでしょう。


もちろん生活がギリギリの人は、食うために働いているという感覚が強いと思いますが、生活にゆとりがある人は、食うために働いている感覚は、それほど強くなさそうです。このような状況では、「仕事の報酬は、給料である」という世界を超えて、その向こうにある何かが、仕事の目的となっているはずです。

それが、おそらく、「仕事の報酬は、能力である」という世界です。
そして、それは、仕事をおぼえることが面白くなってきたときに
見えてくる世界なのです。
仕事の能力を磨くことが楽しくなってきたときに見えてくる世界なのです。
(52ページ)

最初は、多くの人が食っていくために仕事をしますが、仕事に真剣に向き合い始めた時、その目的は、給料を得ることから能力を高めることへと変わっていくのです。

仕事を通して自己実現欲求が芽生え始める

マズローは、人間の欲求を下から「生存の欲求」、「安全の欲求」、「帰属の欲求」、「尊厳の欲求」、「自己実現の欲求」の5段階に分けています。

誰しも「生きたい」という欲求を持っています。だから、生命の危機から逃れるための欲求が最初に満たされる必要があります。そして、生存の欲求が満たされれば、今度は安全を確保したいという欲求が芽生えます。

日々、安全な生活ができるようになれば、さらに友人がほしいという欲求や社会の一員として受け入れてほしいという帰属の欲求が生まれ、さらにそれが満たされると、周囲から尊敬されたいという欲求が出てきます。

尊厳の欲求まで満たされると、最終的には、地位も名誉もいらないから、その代わり、自分がやりたいをやるという自己実現の欲求がわいてきます。


経営学では、社会が豊かになると、生存の欲求や安全欲求のような低次元の欲求は、すでに満たされているので、組織の構成員の動機づけには自己実現欲求を満たすことが重要だとしています。

田坂さんが言う「仕事の報酬は、能力である」というのも、自己実現欲求を満たすということなのでしょう。

ただ、経営学では、自己実現欲求を満たすように努力するのは経営者や管理職であるのに対して、田坂さんは、働いている本人が自ら自己実現欲求を満たす努力をすべきだと考えているようです。

仕事に一生懸命取り組んでいくと、
すこしずつ仕事のスキルやノウハウが身についていきます。
仕事の能力が磨かれていくのです。
そして、そのことがだんだんと面白くなってくるのです。(52~53ページ)

成長するためには夢を語り目標を定めること

では、能力の向上のために何をすべきなのでしょうか?

能力の向上、それは成長ということができます。成長の方法には、いくつかの基本的な原則がありますが、仕事の思想という観点からは、夢を語り目標を定めることだと田坂さんは述べています。そして、これが人間の成長にとって最も大切な方法だということです。


夢がなくても目標を設定し、それを達成すれば人は成長すると考えてしまいますが、人は夢がなければ目標を達成するのは難しいものです。

例えば、棒高跳びの場合、バーの置かれた高さが飛び越えなければならない目標となります。だから、棒高跳びの選手に「あのバーを超えろ」という目標を与え、選手がそれを飛び越えれば成長したことになります。


でも、他人がそのような目標を一方的に設定しただけで、選手がバーを飛び越えようとするでしょうか?

なぜ、高いバーを飛び越えなければならないのか?

それは、全国大会で優勝すること、オリンピックで金メダルをとることなど、こういった夢を選手が実現するためです。そして、その夢を達成しようという思いが強ければ強いほど、目標を達成するための努力を惜しまなくなり、目標を達成した時に大きな喜びを感じるようになるのです。


夢のない状況で目標を設定しても、おそらく、達成することはできないでしょう。

それは、食うことを目的に働いている場合も同じなのではないでしょうか?

仕事の思想―なぜ我々は働くのか (PHP文庫)

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