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ウェブ1丁目図書館

読書で得ること感じること。ここはウェブ1丁目にある小さな図書館です。本の魅力をブログ形式でお伝えしています。

海が生物を育てたとしても生命を生み出したとは言えない

生物

我々人間は、その昔、海で生活していたとされています。そして、ある時、陸に上がって生活を始め現在に至っていると信じられています。

太古の昔から生きていませんので、事実かどうかはわかりません。でも、おそらくそうなのでしょう。人間に限らず多く陸棲の生物の祖先が海で生活していたとされています。そして、生命誕生は海の中だったに違いないと。

しかし、海での生活経験があるからと言っても、生命が海の中で誕生したとは必ずしも言い切れません。

生物有機分子の高分子化は海洋堆積物中で起こった?

生物はタンパク質の固まりです。タンパク質はアミノ酸をたくさん結合させたものなので、生命が誕生するときには、たくさんのアミノ酸をくっつけてタンパク質にする反応が起こっていたはずです。

無機材質研究所総合研究官や日本粘土学会会長などを歴任した中沢弘基さんは、著書の「生命誕生」の中で、40億~38億年前に生物有機分子は隕石の海洋衝突によって生成し、その後のプロセスでアミノ酸がタンパク質に進化する高分子化が起こったと考えています。そして、生命の起源は海の中、すなわち「太古の海は生命の母」とする考えに疑問を持っています。

タンパク質は20種類のアミノ酸のつながりによってできたものであり、アミノ酸はもっと小さな分子、分子はさらに小さな原子が組み合わさったものです。いったいどのようにして、原子や分子が集まってタンパク質となり生命が誕生したのか、中沢さんは、ジョン・D・バナールの1949年の著書「生命の起源―その物理学的基礎」に記載されている生命誕生のきっかけの2つの指摘を紹介しています。

1つは、アミノ酸や核酸塩基など有機分子が、反応に必要な濃度に濃集するのを海洋に浮遊する粘土鉱物がそれを吸着して沈殿することで果たしたことです。もう1つの指摘は、粘土鉱物が不十分であったとしても酵素と同じような触媒の役割を果たしただろうということです。ここで触媒を簡単に説明すると、化学反応を加速させるものとなります。

海洋中に漂う有機分子が粘土鉱物によって海底に押し下げられていき沈殿を繰り返していけば、原子が堆積して分子になり、分子がアミノ酸に、アミノ酸がタンパク質に高分子化していくだろうと想像できます。

バナールは光の届く浅い海底で光化学反応によって有機分子の高分子化が進むと想定していました。しかし、海底深くでは粘土鉱物が次々に堆積するので、光化学反応が起こることは考えられません。バナールの時代は、大陸が動くとは考えられていなかったので、彼の考え方には当時としては限界がありました。

チョモランマの山頂付近に、三葉虫の化石が見つかるように、海洋堆積物も未来永劫地下深くにとどまっているわけではなく、ダイナミックに流動しています。
したがって、粘土鉱物に吸着して沈殿すること自体が有機分子の濃縮だとするバナールの考え方は、当時としては独創的で先進的でしたが、時代的な限界もあったのです。
(206ページ)

海水中では加水分解が起こる

バナールは、「海水中では重合反応に必要な濃度に達しない」ことを述べ「太古の海が生命の母」ではないことを指摘していました。

有機分子を濃縮するためには、漬物を漬ける漬物石に相当するものが必要で、それが粘土鉱物だと。しかし、有機分子が海中に漂っていたのでは、有機分子同士をくっつける力が働かないので海水中で生命が誕生したとは考えにくいのです。

さらに中沢さんは、タンパク質の脱水重合と加水分解からも、海水中で生命誕生は起こらないと指摘しています。

アミノ酸同士がくっついてタンパク質となるためには、片方の分子の水素(H⁺)ともう片方の水酸基(OH⁻)が同時に除かれて水(H₂O)とならなければなりません。そして、2つのアミノ酸は水素と水酸基が取り除かれたことで手と手をつなぐことができます。これを脱水重合と言います。

反対にタンパク質に水を加えると結合がほどけてしまいます。これを加水分解と言います。

多量の水の中の平衡反応は、水がより増える脱水重合反応より、水を減らす加水分解が進む条件です。(中略)酸やアルカリ、あるいは熱や光があれば、加水分解反応はより容易に進みます。
(207ページ)

海水中ではタンパク質の加水分解が起こるので、どうしてもアミノ酸を結合してタンパク質を作り出せません。生物がタンパク質の固まりである以上、海の中は生命を誕生させる場としてふさわしくないのです。

熱水噴出孔が生命発生の場か?

海が生命の母であると考えていた人たちが、タンパク質の加水分解を無理なく説明するために思いついたのが、海底の熱水噴出孔です。熱水噴出孔から古細菌が見つかったため、ここが生命の母だと考えたのです。

そこで、海底熱水噴出孔を模擬した実験系をつくってアミノ酸の高分子化を試みる研究が行われたのですが、思うような成果を上げれませんでした。

それによると、高分子の生成量はアミノ酸の濃度および熱水の温度に大きく依存し、濃度が高いほど、温度が高いほど、相対的に多くの2量体および3量体が生成しました。しかし、それ以上に熱水の持続時間が大きく影響し、熱水処理15分で2量体および3量体の生成量が最大になるものの、20分では減衰し50分後にはほとんど消失してしまいました。
(209ページ)

結局、水の中ではどうしても加水分解の方が優越し、アミノ酸の重合反応は劣勢になってしまうのです。だから、海の中で生命が誕生したと考えるのは無理があります。


海の中には多くの生物が棲んでいますし、陸棲生物の多くは海から上がってきたので、海がたくさんの生物を育んできたことは事実でしょう。しかし、だからと言って、海が生命を誕生させたとは言えないわけです。

生みの親と育ての親が違っていても、子供は大人に成長します。それと同じで生命誕生と生物進化も、別々に考えなければならないのかもしれません。


中沢さんの「生命誕生」は講談社現代新書から出版されています。読み始める前は、新書だから簡単に読めるだろうと油断をしていたのですが、半分も読まないうちに僕には難しい内容だと気付きました。

ブルーバックスから出版されてもおかしくない難易度でしたから、読みごたえはありました。でも、もうちょっと易しい本から読むべきでしたね。

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