ウェブ1丁目図書館

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4億年以上続く植物と動物の相互依存関係

今から約5億年前のオルドビス紀の終わり頃に地球は寒冷化しました。

氷床は四方に広がり、海の水位は下がり、やがて大地は分厚い氷で覆われたと想像できます。そして、まだ海で暮らしていた生物たちも、多くの種が寒冷化で死に絶えたことでしょう。しかし、この氷河期を乗り越えた生物の中には、海から上陸を果たした者たちがいました。

その先駆者となったのは植物です。

30億年間に築き上げられた下地

古生物学者のリチャード・フォーティさんの著書「生命40億年全史 上巻」では、植物の上陸戦略が興味深く紹介されています。

植物の上陸は地球を緑化し、その後、地上を様々な生物の進化の舞台としました。植物のおかげで、我々人間の他、様々な動物が現在も生存できていると言っても過言ではないでしょう。

リチャードさんは、「緑を愛する心は、子供時代に野山や原っぱでで遊んだ思い出と結びついた感傷などではなく、もっと深いところに根ざす感情」だと述べています。緑色に安らぎを感じるのは、植物によって生かされているという潜在意識が働くからなのかもしれません。

海に棲んでいた植物にとって紫外線が降り注ぐ陸上への進出は、溶岩に身を投げるほど危険な行為だったでしょう。それにも関わらず、植物が上陸できたのは、酸素分子で形成されるオゾン層が紫外線の有害な部分を取り除いてくれたからだと考えられます。

オゾン層の形成は、30億年の長きに渡り、藻類と藍藻が酸素を放出し続けてくれたおかげです。何とも気の遠くなりそうな話ですね。

乾燥から身を守る

これまで水の中で暮らしていた植物が陸上で生活し始めると、乾燥という問題が発生します。乾燥は、植物に大きなダメージを与えるので、乾燥から身を守るための工夫が、まず必要になります。

そこで植物は、緑色をした葉状体の外側に薄い蝋質の被覆を発達させる必要があった。それによって水分の蒸発が、完全にとまではいかなくてもかなりの程度は抑えられた。それでも初期の植物は、ぐずぐずと水際にとどまっていたにちがいない。太陽光線を過度に浴びるという、ただそれだけのことでもひどい損傷を負いかねず、乾燥するとパリパリに乾き、雨や露で生気をとりもどしていたにちがいないからだ。
(272ページ)

乾燥の問題をとりあえず解決できても、蝋質の被覆のせいで呼吸が難しくなりました。そこで植物は、表面に気功を作って空気を取り込み、水分が減少すると孔を閉じる仕組みを作ります。さらにシュート(葉を含めた茎)を泥の上に這わせたり、空気中に持ち上げたりすることで、根を伸ばして栄養吸収する工夫もし始めました。同時に光合成も行うようになります。

植物が上向きに光に向かって伸びていく特性は、世界中の生息環境を変化させました。茎や葉が、日陰や隠れ場所を提供したのです。植物が上向きに成長するためには、強度のある茎が必要です。なよなよとした茎では、ある程度まで伸びると曲がってしまいますからね。

植物の茎は、たくさんの長い管が束ねられた状態になっています。さらにリグニンが組織を補強し強度を保っています。植物は、自らの土台や壁を設計する名建築家でもあるのです。

不安定な居住環境からの引っ越し

植物は、海から上陸しましたが、当初は水際にとどまり乾燥から身を守っていました。水際から離れてしまえば、強い日差しで乾燥してしまいますから、これ以上内陸へ進出するのは厳しいです。

しかし、現在、多くの植物が大陸の内陸部で繁茂していますから、ある時、水際を離れたのはまちがいありません。それにしても、なぜ植物は水際から移動を開始したのでしょうか。

池や湖は、干上がることもあればあふれだすこともあるというように、生きもののすみかとしてはきわめて不安定である。そこで、そんな不規則きわまりない状況に対処する一法として、機構上の決定的な設計変更が起こったのだろう。全滅するより、水の干上がる時期をなんとか切り抜ける方法があればどんなによいだろう。
(277ページ)

そこで、植物は新たな増殖方法を編み出しました。

それは、空気中に散布できる胞子を使うことです。胞子が風に揺られて飛び、陸地に落ちると、そこで成長を開始します。もちろん、胞子は小さくても固い皮膜で覆われているので、中身は傷つきにくいという工夫も凝らされています。こうして植物たちは不安定な水際を去り、安住の地を求めて旅することができるようになったのです。

動物の上陸

植物が上陸を始めた頃、動物も陸上へと進出し始めていました。ただ、動物の上陸は不明点が多いです。

水中から陸上へ移行を始めた時期の節足動物は、食物連鎖の頂点にいました。中でも、ウミサソリは約2メートルもある大型の節足動物で、最強の捕食者だったと想像できます。

さて、動物の上陸ですが、これは植物の上陸があったからこそ実現できたのでしょう。現代でも、動物と植物は相互依存関係にありますが、植物や動物が上陸し始めた約4億3千万年前のシルル紀も、同じ依存関係があったとされています。

微小な節足動物が形成していた初期の土壌動物群集を見てすごいと思うのは、現在の土壌動物群集とのちがいではなく、驚くほどの類似度である。水中から上陸を果たした動物と植物は、相互依存の関係をつくりあげ、以来今日にいたるまでその関係を維持してきたと結論してもよいだろう。それは、土中の有機物をこまかく砕き、食べて分解し、糞にして再び土に返すというリサイクル活動に従事している土壌分解動物群集である。派手なところはなく、目新しいことも起きず、退屈とさえいえる独自の生物群集だが、地球生理系を健全に保つうえで欠かせない存在である。
(292ページ)

数億年前から植物と動物は相互依存関係を築き、それは現在まで続いています。もしも、ダニや菌類が何らかの理由で死に絶えることがあれば、土壌のリサイクルはストップし痩せ衰えるだろうとリチャードさんは述べています。土壌のリサイクルがストップすれば、やがて植物も枯死し、最終的に動物も同じ道をたどると考えられます。

植物と動物の相互依存関係を無視して、ある種だけが繁栄することは地球上では難しいでしょう。

文庫 生命40億年全史 上 (草思社文庫)

文庫 生命40億年全史 上 (草思社文庫)