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ウェブ1丁目図書館

読書で得ること感じること。ここはウェブ1丁目にある小さな図書館です。本の魅力をブログ形式でお伝えしています。

自然淘汰だけで生物進化を説明できるか?

生物は長い年月を経て少しずつ進化しています。

現在よりも優れた機能を持つことを進化と考えれば、優れた機能を備えた個体が誕生すれば、やがて同一種内の全ての個体がその機能を有するにいたるはずです。例えば、鋭い爪を持ったヒトが生まれ、その爪が生存にとって有利に働くのであれば、やがて誰もが鋭い爪を持って生まれてくるでしょう。

しかし、進化は必ず生物にとって都合の良い方向に起こる現象なのでしょうか?

環境に適応するほど進化しなくなる?

生存にとって有利とは、生物が自らの置かれた環境に高度に適応することと考えられます。獲物を捕らえるためには、鋭い爪を持っていた方が有利ですから餓死する危険性は低くなるはずです。反対に鋭い爪を持っていなければ餓死する危険性が高まります。

したがって、もしも鋭い爪を持ったヒトが生まれたら、鋭い爪を持っていない現在のヒトは生存に不利になって減っていき、やがて鋭い爪を持ったヒトだけになるでしょう。このような自然淘汰の考え方を提唱したのがダーウィンでした。

進化を自然淘汰で説明されると納得することが多いです。しかし、生物進化を専門とする木村資生さんは著書の「生物進化を考える」の中で、自然淘汰だけでは進化を説明するのが困難だと述べています。

とくに一定な環境が長く続けば、その環境に対して有利な遺伝子構成が次第に実現されてゆくので(適応の度合が高まるので)新たな突然変異によって既存の対立遺伝子より自然淘汰にさらに有利な突然変異の生ずる可能性は、時間とともに次第に減少してゆくのが当然である。
(226ページ)

つまり、自然淘汰だけで生物が進化するのなら、生物が進化して抜群に環境に適応できるようになった時点で、その種の進化は止まるか進化の速度が遅くなると考えられるのです。

ところが見た目の変化が激しい生物群でも、生きた化石のように昔から見た目がほとんど変化していない生物でも、分子レベルでは進化の速度はほとんど同じです。生きた化石のような生物は、はるか昔に環境に適応し現在にいたっているのですから、もはや進化しなくても良いはずです。しかし、このような生物でも分子レベルで見れば今も進化しているし、その速度も見た目に激しい変化を起こしてきた生物群と同じだというのですから、自然淘汰だけでは生物進化を説明しきれません。

中立説

木村さんは、生物進化の中立説を提唱したことで知られています。

中立説は、分子レベルでの進化は自然淘汰に有利か不利かで決まるものではないとする考え方です。ただし、中立説は自然淘汰説を完全に否定するものではありません。ダーウィンが言う淘汰に有利な突然変異も否定はしていません。しかし、木村さんは、淘汰に有利な突然変異はごくまれにしか起こらないので、通常の分子進化速度を扱う際には無視してもさしつかえないと仮定しています。

生物進化を自然淘汰だけで見れば、環境に適応できなかった者がこの世から排除されていくように思えます。そこには、弱肉強食といったイメージが強く反映されているように感じます。

しかし、実際には強い者だけでなく弱い者も生き残っています。また、一見、不合理と思われるような事柄でも否定されず社会に残っているものがあります。例えば宗教です。「生物進化を考える」の中で木村さんは興味深いことを述べています。

人類進化の過程で知能の発達とともに重要な役割を果たしたのは集団化、すなわち、社会生活の発達であろう。猛獣などに対して、たった一人ではほとんど無力なヒトも、集団になり社会を作ったからこそ強い敵にも立ち向かうことができ、また大勢で力を合わせたからこそ大型の獲物を狩ることができたと思われる。
(中略)
筆者の考えでは、宗教を信じるという性質なども集団生活の産物である。いわゆる”愛国心”(自分が帰属する集団への忠誠心、といった方が適切かもしれない)というものも、部族間の淘汰を通して、そのような心理的な傾向が有利だったために集団間淘汰を通して発達したものと思われる。
(266~267ページ)

インターネットが普及したことで、どこにいても仕事ができるようになりました。それなのに東京や大阪などの都市部に人が集中するのは猛獣と戦っていた時代の名残が我々の遺伝子の中に残っているのでしょうか?多数決で物事を決めることに納得するのも、過去に集団生活こそが生存にとって有利だとプログラムされたからなのでしょうか?

人間は理性で行動しているように考えがちですが、実は、人間の行動は自分の意思とは関係なく分子レベルでの進化に操られているだけなのかもしれません。

生物進化を考える (岩波新書)

生物進化を考える (岩波新書)

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