ウェブ1丁目図書館

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金融の発展が貧困を防ぐ。自由競争は格差拡大をもたらさない。

貨幣経済が発達した現代では、金融が重要になっています。

独立してレストランを開業する場合でも、工場が新製品の製造のために設備投資する場合でも、多額の資金が必要になります。その資金を融通する仕組みが金融です。銀行がお金を貸すのも金融ですし、企業が株式や社債を発行して証券市場から資金を得る手段も金融です。

資金提供を受ける側からすると、金融は将来の収入を担保に資金を集められるので、現在、無一文であっても新規事業を行える利点があります。そして、これは、経済全体の発展速度を加速させれるので、豊かな社会作りにも貢献します。

しかし、金融に対しては多くの偏見があります。それは自由競争に対する偏見も同じで、どちらも、格差の拡大や貧困家庭を増やすといった間違った考え方です。

わずかな借金で貧困から抜け出せる

金融でお金を稼ぐことは、「濡れ手で粟のぼろもうけ」という印象を持つ人が多いでしょう。もちろん、金融には、そういった側面もあります。

しかし、金融が高度に発達した社会では、わずかなお金を得られないことを理由に貧困から抜け出せないということを防げます。

銀行論や金融システム論を専門にするラグラム・ラジャンさんとコーポレートガバナンス論などを専門とするルイジ・ジンガレスさんの共著「セイヴィング・キャピタリズム」では、貧しい人々が金融を利用できなければ無力であり、そして、彼らが貧困から脱出するためには金融市場が発展し、より競争的でなければならないと指摘しています。

ある国に貧しい女性がいました。彼女は、スツール(背もたれのないイス)を作るために原材料を22セントで仕入れる必要がありました。しかし、彼女にはお金がなかったので仲買人から借金をするしかありません。そして、作り上げたスツールは借金の返済に充てられ、彼女には2セントの利益が残るだけでした。

仲買人は、彼女の一日の過酷な労働に対してわずか二セントのはした金を支払うだけで済ませることができた。金融が利用できれば、彼女は仲買人から解放されて、スツールを消費者へ直接売ることができる。しかし、仲買人は彼女に金融を利用させない。金融を利用させれば、彼らは彼女から搾り取れなくなるからである。
(5~6ページ)

この例は、金融と自由競争の重要性をわかりやすく教えてくれています。

女性は、わずかなお金を借りれないために仲買人から搾取され続けています。もしも、彼女が金融を利用できれば仲買人の搾取から逃れられます。そして、彼女が金融を利用してスツールの生産販売をできるようになれば、同じ条件で、市場で仲買人たちと競争できます。彼女に資金を融通した金融機関は利子を要求するでしょうが、仲買人の搾取と比較すれば微々たるものです。

彼女が金融を利用できれば、わずか22セントの借金とその利子だけで拡大再生産が行え、貧困から脱出できるのです。

既得権者は金融の発展も自由競争も望まない

上の例を仲買人の立場から見ると、どうなるでしょうか?

彼らは、自分たちだけが多くのお金を持っている方が有利ですし、金融業も自分たちの独占である方が儲かります。女性が生産したスツールを二束三文で買いたたき、多くの利益を上乗せして市場で消費者に販売できますからね。

金融を独占すれば、自分たちの意のままに生産者たちを働かすことが可能です。そして、生産者たちからスツールを全て買い上げてしまえば、市場でスツールを独占販売できます。消費者は売り手の言い値でスツールを買わされるのです。

そう、金融を独占すれば、商品を安く仕入れて高く売れるのです。当然、金融を独占した者は豊かになります。しかし、その反対に生産者はいつまでも貧困から抜け出せません。消費者も高い買い物を強制されます。独占こそが、貧困を生み出し、格差を拡大させるのです。

したがって、貧困や格差の拡大を防ぐためには、金融が発展して誰もが利用できるようになり、自由競争が行われる市場を整えなければならないのです。

しかし、そのようなことを既得権者は決して望みません。

既得権益が社会の発展を遅らせる

経済力を持つ少数の既得権者は、自由競争が行われると自らの立場が脅かされますから、その前に政治的影響力に頼って市場への新規参入を阻止しようとします。

その場合でも、少数の既得権者が有能な事業家であれば、社会は発展していくでしょう。しかし、困るのは既得権者が無能だった場合です。既得権者が無能であればあるほど、競争的市場を積極的に抑制しようとします。自分たちが競争に負けるとわかっていて、自由競争を促進しようとはしないでしょう。そうなると、ますます社会の発展が遅れてしまいます。

自由競争を否定することは、既得権益を守ることにつながります。そして、少数の既得権者が現在の地位を手放さなくなるので、貧しい人はいつまでも貧しいままでいなければなりません。

産業の衰退とセーフティネット

少数の既得権者が富を独占する社会よりも自由競争の方が、貧困も格差の拡大も防げます。

ただし、自由競争下では、どうしても敗者が現れます。特に一つの産業が衰退した時には、多くの企業が倒産するので、職を失う人が急増します。自由競争の社会では、このような失業者を保護するためのセーフティネットも構築されなければなりません。

これまでによく見られたのは、特定の産業に属する企業に補助金を支給するという保護政策です。しかし、特定の産業に属する企業を救済するやり方では、既得権益を温存することになります。自動車が走る現代では馬車は不要です。それなのに馬車業界を保護するために馬車事業を営む企業に補助金を与え、産業そのものを残したのでは社会の発展に何らの利点ももたらしません。

創造的破壊の犠牲者たちが特権を持つ者たちの「人間の盾」にならないようにするためには、他の方法で彼らを支援する必要がある。救済が政治化されることを防止する一つの原則は、人々の救済を、企業を通じてではなく、その人々に直接与えることである。
(421ページ)

自由競争の敗者への救済は、失業者の他の産業への転職支援、失業者への直接の補助金支給にする方が、既得権益の温存を防げます。

そして、セーフティネットは、特定の産業が衰退した時に構築していたのでは手遅れです。馬車産業が衰退した時に馬車産業の従事者を保護する施策を講じていたのでは、支援を受ける側と支援する側との間で対立が起こります。

救済策を事後的に整える場合には、誰が移転支出を受け取るか、またそれを支払うのは誰なのかが明白である。それゆえ、ロビー活動の見返りは非常に高い。事後的な基準(ad hoc basis)による救済は、事前にデザインされた保険システムよりも、はるかに既得権者のほしいままに使われてしまう可能性が高いのである。
(423ページ)

支援される側とする側との対立は、失業保険や生活保護などの制度をあらかじめ作っておき、規則にしたがって失業者の支援をすれば防ぐことが可能です。


貧困や格差の拡大を予防するためには、既得権益の再分配が必要です。しかし、既得権者は自らに有利なルールを作ることで、利益の再配分を拒もうとします。

自由競争下では、既得権益の温存は難しくなります。高い値段で商品を販売していても、それよりも安くで売る事業者が現れれば、消費者は安い方を買うでしょう。これこそが既得権益を強制的に再配分する仕組みなのです。

特定の事業者を保護すれば、事業者の好きな価格で商品を販売できます。あるべき値段よりも高い値で販売すれば、その差額が既得権益になります。しかし、自由競争が促進されれば、いずれ、あるべき値段で販売する事業者が出てきます。そうすれば、高い値段と本来の値段との差額、つまり既得権益が社会に再配分されるのです。


貧困や格差拡大を防がなければならないと主張する人たちの多くは、自由競争も批判します。でも、自由競争の批判は既得権益を生み出すだけだと理解していれば、このような矛盾した主張をしなくなると思うのですが。

セイヴィング キャピタリズム

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