ウェブ1丁目図書館

読書で得ること感じること。ここはウェブ1丁目にある小さな図書館です。本の魅力をブログ形式でお伝えしています。

貯蓄率が高いほど長期的に消費が拡大する

90年代のバブル経済崩壊以降、日本経済は不景気となり、その状況は今も続いています。

景気が悪くなる要因は様々ありますが、メディアで頻繁に指摘されているのは消費の落ち込みです。家計消費が上向けば、世の中の金回りが良くなるので、それにしたがって景気も上向くと考えられています。反対に家計消費が控えられると、金回りが悪くなるので景気も下降していくと言われています。

景気が良い時ほど貯蓄率が高まる

戦後の復興を経て、1960年代から70年代にかけて日本は高度経済成長期に入ります。

この時代は、多くの企業が好業績で日本の経済成長率も高い位置で推移していました。ところが、この時代は国民の多くが貯蓄に励んでいました。景気を良くするためには、貯蓄するのではなく消費の拡大が必要だという主張と反しませんか?

景気が良かったから給料も多く、消費しきれなかったお金を貯蓄に回したから景気が良かったのだとも考えられます。しかし、高度成長期に日本人の貯蓄率が高ったことには、上記の他にも複数の理由があります。元経済企画庁長官の宮崎勇さんと大和総研理事をされていた本庄真さんの共著「日本経済図説第三版」では、高度成長期の高貯蓄率は以下の理由によると述べられています。

  1. 成長が速かったこと
  2. 特殊なボーナス制度(ボーナスの貯蓄率は五〇%)
  3. 日本の伝統的慣習
  4. 不時の事故や病気に対する用意
  5. 子供の教育費、結婚のための準備
  6. 住宅資金の積立て
  7. これまでの老齢者の少ない人口構成


これらの理由を見ていると、高度成長期にお金が余っていたから消費を拡大したとは考えられませんね。景気が良い時に貯蓄率が高かったのは事実ですが、それは、消費しきれなかったお金を貯蓄に回していたのではないのです。

高貯蓄率が経済を安定的に成長させた

60年代や70年代の好景気は、日本国民の高い貯蓄意識によってもたらされた一面があります。

貯蓄と消費は真逆の行動なので、貯蓄が増えれば消費が落ち込み不景気になるはずです。しかし、これは、景気が悪くなった時に個人が貯蓄に励むと不景気に拍車をかけるということであり、貯蓄そのものが不景気の原因とは言えません。貯蓄が増えて消費が減ることが景気に悪影響を与えるのは短期的事象で、長期的には高い貯蓄率が経済成長をもたらすと考えられます。

その理由は、貯蓄こそ投資の源泉となるからです。60年代の高度成長も国民の高い貯蓄率が理由の一つです。個人の持つお金は微々たるものですが、多くの国民が銀行にお金を預ければ、銀行にまとまった資金ができます。そして、企業は銀行からまとまった資金の借入ができるので、大きな設備投資が可能となります。

短期的にみれば、いつでも貯蓄率が高ければ高いほどよいわけではない。景気の悪いときに個人が貯蓄に走れば消費は伸びず、ますます景気の悪化に拍車をかけよう。逆に景気過熱気味のときには、むしろ貯蓄を促進すべきであろう。長期的にみれば、貯蓄率が高いほど成長率は高く、したがって消費も長期的にみれば大きくなる。
(124ページ)

直接金融による資金調達は限定的

銀行借入のように預金者と企業との間に金融機関が介在する資金調達方法を間接金融と言います。これに対して、資金需要者と資金提供者の間に金融機関が介在しない資金調達方法を直接金融と言います。株式発行や社債発行が直接金融の具体例です。

高度成長期以降、証券市場が発達してくると、企業は間接金融から直接金融による資金調達に移行し始めました。直接金融が盛んになった背景について、日本経済図説第三版では以下の理由を挙げています。

第一は、企業が自己資金を充実させてきたことで、日本の法人部門についていうと、資金不足から資金需給が均衡するような状態になってきたことである。第二は、それに対して、公共部門は石油危機以来の歳出の拡大と税収不足で資金不足状態になり、そのために国債発行が増加し、それが債券市場の発達を促したことがある。第三に、家計部門ではひきつづき貯蓄がふえ、国債などの公共債を購入(資産増加)するだけでなく、株式も積極的に購入するようになったことである。さらに、第四に金融の自由化と国際化が進んで日本企業が海外で直接有利な資金を調達できるようになるとともに、海外の投資家も日本企業が発行する株式や社債を購入できるようになったことをあげることができる。
(130ページ)

企業が直接金融を利用して資金調達が可能になったとは言え、直接金融を利用できる企業は限定的です。なぜなら、証券市場から資金調達できる公開会社は、ほんの一握りの優良企業だけであり、99%の中小規模の事業者は証券市場を利用した株式や社債の発行ができないからです。

株式取引で景気が良くなるのか?

一部の優良企業しか利用できない証券市場に多くの資金が集まったところで、大多数の事業者はなんらの恩恵も受けないでしょう。

しかも、証券市場で株式の売買が行われたところで、企業には資金提供されないのですから、株式取引で景気が良くなるとは考えられません。もちろん、企業が増資のために新株を発行したり起債をすれば資金が入ってきます。

株式取引が頻繁に行われたところで、企業に資金流入がないのですから株価を上げても景気が良くなるわけではありません。むしろ、株式取引にあてている資金を銀行預金に回した方が、多くの事業者が銀行借入を利用できるようになるとも考えられます。

消費の拡大を考える前に投資の拡大をしなければなりません。投資を拡大するには、多くの事業者がいつでも安定的に資金提供を受けれなければならないでしょう。中小事業者が銀行から資金を借りやすい状態が維持されることが必要です。そのためには、個人の貯蓄率が高まり、銀行にまとまった資金が用意されていた方が良いと考えることができます。

貯蓄を削って消費に回すよりも、高い貯蓄率が維持されている方が投資の拡大から消費が増え、その結果として景気が上向くのかもしれません。

日本経済図説 第四版 (岩波新書)

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