ウェブ1丁目図書館

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京都での出会いからイラン旅行へと発展する大人の恋愛小説

祇園祭宵山を一人で観覧する桐生亜希。

彼女は27歳のグラフィックデザイナーです。3日間の小旅行で京都にやって来た亜希は、祇園祭の鉾や山を見学している時、一人の青年を見かけます。青年は、鉾や山に掛けられたペルシャ絨毯を真剣に眺めています。

五木寛之さんの小説「燃える秋」は、このような形で始まります。

京都旅行の目的は初老の男性を忘れるため

亜希が京都に旅行に来た目的は、影山良造という初老の男性との関係を断ち切るため。

亜希と影山との間には、何の約束もなかったのですが、2年間、関係が続いていました。いつも、別れたいという気持ちが亜希の中にはあったのですが、それができずに2年の月日が経っていたのです。

そんなある日、京都のマンションに住む友人の夏沢揺子から、夏の間、信州へ避暑に出かけるから自分の部屋を自由に使っていいと、亜希に申し出てくれます。それが、今回の小旅行の始まりでした。

青年との再会

宵山で見かけた青年とは、翌日、偶然再会します。

彼の名は、岸田守。商社で働いている岸田は、亜希と同年代。

宵山ペルシャ絨毯を真剣に見る岸田に亜希は、心惹かれていました。そして、今回の再会。二人はペルシャ絨毯の話で盛り上がり、翌日、大阪のデパートへペルシャ美術絨毯展へ行くことに。

そこで見たペルシャ絨毯は、彼女の記憶に深く刻まれることになります。もちろん、岸田守との出会いも。

東京と名古屋の長距離恋愛

東京に帰った亜希は、普段通り、仕事をこなす毎日。そんな毎日でも、大阪で見たペルシャ絨毯のことは忘れられません。


ある晩、亜希は、名古屋の岸田守に電話をします。その内容は、今すぐに東京に来てほしいというもの。ただならぬ気配を感じた岸田は、夜中に車で東名を走り、4時間がかりで亜希の住むアパートへ。

真夜中に亜希の部屋に到着した岸田守。

すると、深夜にもかかわらず亜希の電話の呼び出し音が部屋に鳴り響きます。亜希は、岸田に出てくれるように頼みます。それに応えて岸田は受話器の向こうの相手と話をします。電話の主は影山良造です。

影山は岸田に亜希に代わるように言います。

「いま出たのが新しい恋人かね」
「はい」
「一緒に寝てるのか」
「そうです」
「若い男にきみの体は扱えないよ。それはもうわかってるだろうが」
「もう二度と電話しないでください。私ひとりじゃありませんし、迷惑ですから」
「わかった。きみがその青年の体に飽きそうな頃合いを見はからって、また電話しよう。そっちから電話をくれてもいい」
(74ページ)

この電話の後、早朝まで眠った岸田は、新幹線で名古屋の職場へと向かい、夜に再び東京の亜希の部屋に戻ってきました。

冷めていく亜希の心

亜希は、岸田に魅かれていました。岸田も同じく亜希に魅かれていました。

でも、時が経つにつれて、亜希の気持ちは少しずつ岸田から離れていきます。岸田とは、どこか考え方が合わない部分があるような気がしていたのです。それが、わかったのはある事件が起こってからでした。


テレビのニュースで、海外で飛行機が墜落した時、「乗員乗客に日本人は含まれていませんでした」とニュースキャスターが伝えることがあります。これに違和感を覚える人は多いのではないでしょうか?僕も、なんかおかしいなと思うんですよね。なぜなら、日本人でなければ、誰が事故に遭っても関係ないといった意味が含まれているような気がするからです。

亜希の岸田に対する気持ちが冷め始めたのも、これと似たような出来事があったことが理由です。

ペルシャ絨毯を見にイランへ

翌年の5月。

亜希は、ペルシャ絨毯を見るためにイランへ旅行に出かけます。その費用を出してくれたのは、初老の男性の影山良造でした。その頃になると、亜希は、岸田守とはあわなくなっていましたが、ペルシャ絨毯に対する思いは、以前よりも強くなっていました。

現地では、揺子の知り合いの家に泊まることに。


9月のある日、亜希は発熱します。

高熱と嘔吐で1週間近くも寝込んでいる彼女の枕元にいつもとは違う人の気配。

「よう」
そこにいるのは、岸田守だった。かれは白いサファリスーツを着て、日灼けした顔で笑っていた。亜希は夢を見ているような気がした。驚きでしばらく声が出なかった。
「どうしたの?いったい」
「東京からきみの看病にきた。ジェット機のなかで十何時間か眠ってりゃ黙っててもここへ着くんだ。いつか雨のなかを深夜に東名高速を走って駈けつけたときのほうが、よほどきつかったぜ」
(191~192ページ)

思いがけない岸田守との再会。

病気から回復した後、亜希と岸田は、日本へ帰るために空港へと向かいます。

帰国したら結婚する気でいる岸田守。しかし、空港で飛行機を待つ間、二人は、あることが理由で言い争いとなりました。

ようやくわたしが自分を取りもどしはじめた頃に、わたしは病気で倒れました。そんなわたしの所へ、あなたはまっすぐに飛んできてくれました。あの嵐の晩と、こんどとで二度目です。この短い旅の間じゅう、わたしは生まれてはじめて幸せでした。女に生まれてよかったと思いました。からだも、こころもあなたへの気持ちで燃えているようでした。(214ページ)

この後、帰国した二人はどうなったのでしょうか?