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ウェブ1丁目図書館

読書で得ること感じること。ここはウェブ1丁目にある小さな図書館です。本の魅力をブログ形式でお伝えしています。

統計を使えば科学らしさを作り出せるのでご用心

「科学的」という言葉をよく聞きます。

誰かが不思議なことを言いだした時に科学的に説明しろとか、辻褄が合わないことを言うと科学的ではないとか、日常的によく耳にします。僕自身も「科学的」という言葉をついつい使ってしまいますね。

でも、「科学的」という言葉を使っている本人が実は科学とは何なのかということを知らないことがあります。平気でニセ科学を論じている人もいますし、自分もうっかりニセ科学を論じていることがあります。

では、なぜ、ニセ科学を口にしてしまうのでしょうか?

その一つの原因は、統計にだまされているということがあると思います。これについては、「もうダマされないための『科学』講義」という書籍の中で、統計物理学者の菊池誠さんがおもしろいことを述べています。

相関関係を利用されるとだまされやすい

日本女性の平均寿命は年々延びています。その理由はなんだと思いますか?

考えられるものをざっと列挙すると、医療の発展、栄養学の進歩、運動量、住環境の改善、交通事故死の減少などでしょうか。他にも思いつくものはあると思います。でも、いま列挙したものよりも、女性の平均寿命の延びときれいに正の相関を示す事象があります。

それは、テレビの保有台数の増加です。

だから、女性の平均寿命の延びは、テレビが普及したことが理由なのです。きっと、テレビを見ることで、女性の体の中にある寿命を延ばす遺伝子とか細胞が活発に働くのでしょう。だから、長生きしたければ、テレビをよく見た方がいいんですね。

こう言われて信じる人は、あまりいないでしょう。おそらくテレビの保有台数の増加と平均寿命との間に因果関係はないと思います。

こういう怪しいグラフは、その気になればいくらでも作れます。ですから、こういうグラフから深い意味を読もうとしてはいけないわけです。テレビの保有台数が増えるのも平均寿命が延びるのも、経済的な発展や技術の進歩で社会が豊かになっていることの「表れ」くらいの関係であって、二つの間に因果関係があることを示すグラフではありません。(18ページ)

ところが、世の中には紛らわしいものを使って平均寿命との因果関係があるように言ったり、病気との因果関係があるように言ったりする人がいます。その代表と言えるのが、肉を食べるとガンになりやすいという俗説です。

戦後、日本人の食生活が欧米化したことで、肉を食べる機会が増えました。そして、肉を良く食べるようになってからガンで死亡する人の数も増えました。両者の間には正の相関関係があると言えます。だから、肉を食べるとガンになると主張するわけです。

最近も、あるテレビ番組で肉を食べるとガンになると主張している医師の方がいました。その番組では、肉の消費量とガンの死亡者数とのグラフを示し、両者が正の相関関係にあることを紹介していました。これを見せられると、多くの人が肉を食べるとガンになると思い込んでしまうでしょう。

医師が言うのですから、騙されて当然です。

ガンの死亡率は増えているが年齢調整すると減っている

前掲書には、国立がん研究センターが2010年に公表した10万人当たりのガンによる死亡者数の推移のグラフが掲載されています。

これを見ると、1950年代は10万人中100人未満だったガンの死亡者数が、2000年以降は250人程度まで増えています。グラフはきれいな右肩上がりとなっているので、ガンに悩まされている現代人の数は増えていると言えます。

しかし、このグラフは、単純に10万人当たりのガン死亡者数を示したものでしかありません。これでは不十分なので、年齢調整をする必要があります。そのグラフも同書には掲載されています。

女性のガン死亡者数は、1950年代が10万人当たり130人程度だったのが、2000年以降は100人未満となっており、年々、緩やかに減っています。男性の場合は、1950年代が160人ほどで、その後、緩やかな右肩上がりとなり1990年代は220人ほどまで増えています。しかし、2000年以降は減少し始め、2005年あたりで200人未満になっています。

これは何を意味しているのでしょうか?

がんの死亡率が上がっている一番の原因は高齢化だということがはっきりと示されているわけです。日本人が長生きになって、がんになるまで生きている人が多くなったということです。医学が発達して助かる病気が多くなったから、結果としてがんで亡くなる人が増えたのですね。(23ページ)

ということです。

同じようなことは医師の近藤誠さんも以前に紹介した成人病の真実の中で述べています。また、肉食と平均寿命との相関関係を示したグラフは、以下のサイトに掲載されています。

統計は状況証拠にすぎない

ここまで読めば大体わかると思いますが、統計は状況証拠にすぎないので、真実を知る手掛かりにはなっても、真実を解明できないということです。

肉を食べるとガンになりやすいのか、肉を食べると長生きできるのか、そういったことを確かめようと思うのなら、肉が体内に入った時にどういう反応をするのかを突き止めなければならないでしょう。肉に含まれている栄養のうち何がガンを引き起こす原因となるのか、または、寿命を延ばす要因となるのか、そんなことは統計からでは答えを導き出せません。

ところが、メディア、特にテレビ番組では、統計から導き出した仮説だけしか紹介しないことが多いですよね。しかも、番組の構成から、あたかも何らかの研究によって、事実が判明したかのような言い回しになっていたりします。

もしも、これが医療や健康に関する誤った情報だったら大変なことになります。荻上チキさんは、「もうダマされないための『科学』講義」の中で以下のように述べています。

ニセ科学が批判される理由は、単にそれが間違っているからではない。ニセ科学を選択すること自体が、さまざまな社会的損失を招くためだ。たとえばまったく治療効果が見込めない代替医療を例にとればわかりやすい。「ダメな治療法」を選択することで、患者が「効果的な治療法」を受ける機会を妨げた場合、それが善意で施されたものであったとしても、結果的にはその患者の命を奪うことに加担してしまう。(16ページ)

本物の科学なのかニセ科学なのかを見抜くのは、一般人では難しいことです。でも、統計だけで結論を導き出しているようなものについては、疑ってかかった方がいいでしょう。平均寿命とテレビの保有台数のようにわかりやすい、見せかけ相関なら簡単におかしいと見抜けます。しかし、「アルカリイオン水をよく飲む人は長生きする傾向にある」みたいな健康に良さそうなものと平均寿命との関係を示された時には、ついつい信じてしまう場合があります。これだって、見せかけ相関の可能性が十分にある例ですね。

とにかく、統計だけで導き出された結論は、まだ事実かどうかわからないという姿勢で情報を受け入れた方がいいでしょう。

もうダマされないための「科学」講義 (光文社新書)

もうダマされないための「科学」講義 (光文社新書)

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