ウェブ1丁目図書館

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貿易赤字は海外から優れたものを謙虚に学ぶチャンス

1月27日に財務省が、2013年の貿易統計の速報を公表しました。

それによると、輸出額は69兆7,877億円、輸入額は81兆2,622億円で、貿易収支は-11兆4,745億円となったそうです。速報なので確定した金額ではないのですが、貿易赤字が約11兆円になることは間違いなさそうですね。

さて、貿易赤字という言葉を聞くと、何か、日本が11兆円損したように思ってしまいますが、これを企業の赤字と同じように考えるのは、ちょっと変ですよね。確かに11兆円もお金が海外に出て行ってますが、商売で損したというのとは意味が違います。

むしろ、輸入額約81兆円というのは、それだけ多くのことを海外から学んでいるのだと捉えるべきです。

貿易とは優位性を交換すること

日本人にとって貿易というのは、日本製品を海外に売ってお金を稼ぐことというイメージが強いです。

でも、竹中平蔵さんの著書「みんなの経済学」では、貿易というのは、国と国がそれぞれの優位性を交換することだと述べられています。

海外から物を買うということに対して、自分たちが損をしているような気がする人がいるかもしれませんが、それは明らかに幻想です。それぞれの国がつくるものには、「それぞれの優位性」があります。その優位性を交換することによって、われわれの生活は豊かになれるのです。(152ページ)

具体例も示されているので、簡単に紹介しておきます。

農作物しかとれない貧しい国がありました。その国のある人が、「農作物を工場に持ってきてくれれば車に交換しましょう」と言い、そのとおり、農家の人が農作物を工場に持っていくと、車に交換してもらえました。

どういう仕組みになっているのか不思議に思った人が工場をのぞいてみると、1本の桟橋と船がありました。つまり、その工場では、農作物を対岸の国に運んで、車に交換して持ち帰っていたのです。一方、対岸の国では車を造ることはできましたが、農作物を作ることができませんでした。だから、車と交換に農作物を手に入れる必要があったんですね。

これが、貿易の本質であり、竹中さんが言う「それぞれの優位性」の交換なのです。

絶対的優位性ではなく相対的優位性が重要

貿易とは、それぞれの優位性を交換することだと述べました。そうすると、ある国が、他の国と比べて、すべての品目で優位性を持っていた場合、貿易をする必要はないと考えられます。

自動車も電化製品も食品も何もかもが、ある国よりも日本製の方が品質が優れていたとしましょう。この場合、日本は輸出だけをし、一切輸入しない方が得だと思いますよね。だって、日本製の方が優れているのですから。こういった優位性のことを絶対的優位性といいます。

でも、品質は日本製のものが優れていたとしても、費用面では圧倒的に貿易相手国が作るものの方が安かったとしたらどうでしょうか?

例えば、国産牛肉が100g当たり500円で、外国産牛肉が100g当たり100円だったとしましょう。この場合、国産牛肉の方が外国産牛肉よりも2倍美味しかったとしても、外国産牛肉の価格が国産牛肉の5分の1なのですから、外国産牛肉を買った方が得だと考えることもできます。

それなら、牛肉は外国から輸入して、日本は、他の国が真似できない高品質の自動車を造って輸出した方が、比較優位という観点からはメリットがあると言えます。

アメリカよりも日本のほうがよい物をつくれる、アジアよりも日本がよい物がつくれる。だからすべて日本が輸出する、という考え方は間違っているということです。
絶対的に優位ではなく、相対的な優位性の考え方が貿易の基礎になります。日本の経済が非常に強いときに、「日本には輸入をする製品は何もない」といった声が上がりました。仮に絶対的に見ればそうだとしても、比較優位で見たときに優位ではないのであれば、外国のものを買うことが自分も相手も最大のメリットを享受することになるはずです。(154ページ)

相対的優位性の具体例は、町のあちこちにあります。例えば、100円ショップです。ボールペン、輪ゴム、クリアファイルといったものは、日本でつくることができますし、日本製の方が品質が良いでしょう。でも、外国でも、使うのに不自由しないものを造れ、それを安く仕入れて売れるのなら、日本でつくる必要はありませんよね。

それよりも、日本の技術でしかつくれないものに力を入れる方が、日本にとっても貿易相手国にとっても、メリットのあることだと言えます。

貿易黒字は企業を傲慢にする

以下は、財務省の貿易統計の輸出額と輸入額の推移をグラフにしたものです。

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このグラフを見ると、輸出額も輸入額も概ね右肩上がりになっています。貿易収支は、大きな波があります。最も黒字が大きかったのは、80年代後半と90年代前半ですね。

これらの時代は、急速に円高が進んだ時代です。特に80年代後半はバブル景気真っただ中で、日本中が浮かれていた頃です。本当なら、この頃から円高が進んでいるのですから、物価が安くなっていかなければならなかったのですが、日本企業は販売価格を下げずに円高差益を消費者に還元しませんでした。

今までと同じものを海外から安く輸入し、国内で高く販売できたので、日本企業は売る努力はもちろんのこと、画期的な製品開発も怠っていたと言えるでしょう。これは、今だから気付くことで、当時は、そんなことに気付いている人は少なかったのではないでしょうか?

90年代前半も同様に1ドル80円程度まで円高が進んだにも関わらず、小売価格は高いままでしたね。

輸入する時はできるだけ安く、国内で売ったり輸出したりする時はできるだけ高く売ってやろうという傲慢さが、今日の景気低迷につながっているような気がします。


90年代後半になって、ユニクロなどが、安くで製品を販売し始めました。この時は、価格破壊という言葉をよく耳にしましたが、今にして思えば、適正利潤を原価に上乗せして販売していただけだったのではないでしょうか?だから、今でも、ユニクロは元気なのだと思います。

今も業績が思わしくない日本企業というのは、80年代後半と90年代前半に傲慢だったのかもしれません。

輸入は他人から学ぶ姿勢の表れ

竹中さんは、「みんなの経済学」の中で、明治維新以降、経済を発展させたのは人材だったと述べています。

日本は、国土も狭いし自然資源もない国です。このような国は、人間以外に資源と呼べるものはありません。だから、教育を見直して人材を育てる努力をしなければなりません。

そして、人材を育てるためには、他人から優れたものを採り入れる謙虚な姿勢がなければなりません。

明治時代を思い起こせばわかりますが、日本は、蒸気機関車だって、電気だって、大砲だって、軍艦だって、ありとあらゆるものを外国から輸入し、そして、それらを造る技術を学んで国産化に成功してきたのです。それに対して、日本から海外に売るものなんてそんなに多くはなかったはずです。つまり、当時は、貿易赤字だったのです。

このように海外からの輸入が多い時ほど、その国の人々は、様々なことを海外から学ぶチャンスがあるのです。

われわれは明治以降、海外の優れたものを謙虚に取り入れてきたということです。日本に馴染まないなどと言う前に、取り入れられるものを謙虚に取り入れてきました。その意欲と謙虚な姿勢が、日本の発展につながったのは間違いありません。(169ページ)


ただ、現在の日本の輸入の仕方は、明治時代とは違っています。単に日本よりも人件費が安いという理由だけで輸入しているものが多いのが現状です。そこから学ぼうという姿勢が見られません。

先ほど述べた相対的優位性という観点からは、それでもいいのかもしれません。でも、輸出よりも輸入が多い時ほど、海外から学ぶチャンスがあるのですから、今この時こそ、日本人は外国から教えを乞う謙虚な姿勢を持つ必要があるのではないでしょうか?