ウェブ1丁目図書館

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汚職は社会に内戦と同じだけの打撃を与える

汚職

国内でも、政治家や公務員による公金横領や特定の企業を優遇する不公正が起こることがあります。海外では大統領までもが汚職に積極的に関わっていることもありますね。

大統領や総理大臣による汚職は、国家に大きな打撃を与えることは容易に想像できます。でも、小さな汚職でも、社会に与える影響は意外と大きいのかもしれません。

汚職が少なかった明治時代

時代劇を見ていると、お奉行さまと越後屋が悪だくみをしている場面がたびたび出てきます。越後屋じゃなくても三河屋でも何でも構わないのですが、奉行と商人がつるんで米相場を吊り上げたり、ライバル店をつぶしたりしますよね。この時、商人から奉行に賄賂が贈られることもありますし、奉行が商人のために公金を勝手に使うこともあります。

奉行と特定の商人が結託すると、それ以外の商人たちの商売が脅かされます。賄賂を贈ってる商人に有利になる政策ばかりが行われれば、ライバル店は不利になりますから当然です。

奉行と商人が結託して悪いことをするのは江戸時代以前の話。明治時代になると、汚職が姿を消したのですから明治維新はやっぱりすばらしかったとなりそうです。

ところが、明治初期にはお奉行さまと越後屋の悪だくみでは済まないような二大汚職事件が起こっています。一つは明治4年井上馨が関わった汚職事件で、もう一つは山県有朋が関与した山城屋和助事件です。

正義感が強かった江藤新平西郷隆盛

作家の司馬遼太郎さんが、著書の「この国のかたち(2)」で上記二大汚職事件について簡単に解説しています。

井上馨が関わった汚職は、旧南部藩の藩営であった尾去沢鉱山を私的に取り上げて親戚の岡田平蔵に指名落札させたものです。それまで鉱山の採掘権を有していた村井茂兵衛が、司法卿の江藤新平に訴え出たことで事件が明るみになりました。

山城屋和助事件は、山県有朋の部下であった山城屋和助に公金を自由に使わせた結果、生糸相場で回復不能な損害を発生させた事件です。政府歳入の12%が失われたというのですから、とんでもない大損害です。

このような二大汚職事件の発生に失望した江藤新平は明治政府を去り、故郷に戻って佐賀の乱を起こしました。

また、西郷隆盛も当時の明治政府の腐敗を嘆き故郷鹿児島に帰ります。そして、明治政府に不満を持つ士族たちに担がれて7ヶ月に及ぶ西南戦争を起こしたのです。

ともかくも、江藤も西郷も、史上まれにみるほどに正義がありすぎた。しかもその正義のためにかれらはほろび、あまつさえ賊名を着せられた。それに、皮肉なことに西郷を討った政府軍の総司令官は山県有朋だった。またその軍費の工面をしたのは、井上馨だった。こういう言い方は子供っぽいかと思われるが、かれらはのちに公爵あるいは侯爵になる。
(170ページ)

西南戦争は、我が国最後の内戦です。そして、この内戦以降、明治時代が終わるまで、ほとんど汚職事件が起こりませんでした。

汚職は国民の労働意欲を失わせる

西南戦争のような内戦が起これば、さすがに政府も「これはいかん」となって汚職の対策をするでしょう。特に上記の二大汚職事件は、日本史上まれにみる政財界の癒着ですから、政府もかなり厳しい目を持って監視していたでしょうし、政府で働く人々も汚職はダメだと強く意識するようになったはずです。

汚職事件は、マスコミも大きく報道しますから政府も以後の対策をしっかり行います。でも、小さな汚職であれば、現在の仕組みを変えるような対策は行われず、現場に注意する程度で済ますこともあるはずです。しかし、この小さな汚職が社会に大きな影響を与えるのではないでしょうか?

政治家・官吏、あるいは教育者たちの汚職ほど社会に元気をうしなわせるものはないのである。むろん物質的にも損害をあたえる。
(中略)
また入学や資格試験の合否にカネが動くとすれば、国民は自己が属する社会に対する敬意をうしなってしまう。よき国家はそのような億兆の敬意の上に成りたっている。汚職が悪だというのは、国民の士気(道徳的緊張)をうしなわせるものだというのである。
(159~160ページ)

汚職事件が報道されるほど、国民は自分の努力が報われないような失望感を味わいます。働いて稼いだお金の一部を税金として納めているのに、その税金が一部の人を肥え太らすために使われていると思うと労働意欲も減退するでしょう。

小さな汚職でも、発覚するたびに国民の労働意欲がちょっとずつ失われていけば、国に大きな打撃を与えるはずです。汚職事件が起こるたびに国民の労働意欲が0.01%失われたとしたら、1万2千人分の労働力が消失することになります。これは西南戦争での戦死者数とほぼ同数です。


どんなに小さな汚職でも、それが国民の労働意欲減退につながり内戦が起こったのと同じ損害が出る。

そう考えると、汚職を防ぐ仕組み作りがいかに大切なことかに気づくでしょう。

この国のかたち 二 (文春文庫)

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