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ウェブ1丁目図書館

読書で得ること感じること。ここはウェブ1丁目にある小さな図書館です。本の魅力をブログ形式でお伝えしています。

リスクとは不確実性であり、リターンとは期待される利益である

金融財務

投資の世界にハイリスクハイリターンという言葉があります。

よく使われている言葉なので、投資に興味がない方でも聞いたことがあるでしょう。成功すれば投資額が2倍になって戻って来るけども、失敗すれば投資額全額が無くなってしまうといった使われ方をすることが多いですね。そして、ほとんどの人がこの表現に何の違和感も持っていません。

しかし、こういう意味でハイリスクハイリターンという言葉を使っている人は、その意味を勘違いしています。

どっちに転ぶかわからないことがリスク

リスクとは、簡単に言うと将来の不確実性です。右に転ぶのか左に転ぶのか予測しがたい状況、それがリスクです。

ファイナンスに詳しい吉本佳生さんの著書「金融広告を読め」にリスクについてわかりやすい説明があるので引用します。

一番代表的な”リスク”の定義は「予想される結果(利益)のバラツキ」です。将来起こりうる結果が複数考えられて、それぞれの結果の間に大きなちがい(バラツキ)があることがリスクである、とみなすのです。
(196ページ)

右に転ぶのか左に転ぶのか、予想される結果がそれだけだと大きなバラツキはないと考えられます。しかし、前にも後ろにも転ぶ可能性があり、さらに斜めにも転ぶ可能性があるといった状況だと、いったいどの方向に転ぶのか予想するのが困難です。

このように将来予想される結果が複数あり、どの結果に落ち着きそうか事前に見極めるのが困難な状況をリスクが高いと表現するのが、正しい言葉の使い方です。

リターンは予想される利益の期待値

次にリターンの意味を考えましょう。

リターンは簡単に言うと、その投資によってどれだけの利益が得られるかということです。ただ、リターンについても、一般的な使われ方は、本来の意味から少し外れています。もっと厳密にリターンを説明すると、平均的に予想される利益、つまり予想される利益の期待値ということになります。


例えば、100万円を投資して150万円になって戻ってくる確率が50%、70万円になって戻ってくる確率が50%としましょう。この場合、50%の確率で50万円の利益を得られますが、50%の確率で30万円損する危険もあります。さて、この投資のリターンはいくらになるでしょうか?


答えは10万円です。

どうしてリターンが10万円になるのでしょうか?その理由は、もう一度リターンの意味を考えると理解できます。

リターンとは、「予想される利益の期待値」でしたよね。だから、投資のリターンを計算する場合、起こりうる事象ごとにその事象が起こる確率を加味して得られる利益を予測します。

  • 成功時=50万円×50%=25万円
  • 失敗時=-30万円×50%=-15万円
  • 予想される利益=25万円-15万円=10万円

ここまで説明すれば、ハイリスクハイリターンの意味が分かったでしょう。

ハイリスクとは起こりうる事象複数ある状況、ハイリターンとは投資から得られるであろう利益の期待値が高い場合のことです。決して、右に転べば大儲け、左に転べば大損という意味ではありません。

万が一、事故が起こった場合のことをどう捉えるか

リスクとリターンの意味が分かりました。株式投資だけでなく、企業が新規事業を始める際にも、リスクとリターンをこのように理解して投資の判断を行います。

例えば、製薬会社がエボラ出血熱の特効薬を2種類開発したとしましょう。どちらも効果は同じであり、どちらの利益も100億円だったとします。ただ、どちらも一定の確率で副作用が出るので、その賠償金を払わなければなりません。仮に新薬をA薬、B薬と呼ぶことにします。

  • A薬は、1万人に100人の確率で風邪と似た症状が出るが死の危険なし。賠償金は1人につき1千万円。
  • B薬は、1万人に1人の確率で重い副作用が出て確実に死ぬ。賠償金は8千万円。

A薬の賠償金は合計で10億円です。一方のB薬の賠償金は8千万円です。利益はともに100億円なので、A薬は賠償金支払い後に90億円、B薬は賠償金支払い後に99億2千万円の利益を得られます。

あなたが、プロジェクトの決定権を持っていたら、A薬とB薬のどちらを販売しますか?

多くの利益を得られるのはB薬です。だから、利益を追求するのであればB薬です。でも、その選択でいいのでしょうか?

もしも、B薬を販売し副作用で死者が出ることがわかっていても世間から何の批判もなく、その後の会社の売上や利益に全く影響がなかったとしましょう。それなら、B薬を販売しても問題ないと考える人は多くないはずです。僕なら、利益は減ってもA薬を販売すべきだと決断します。人は死んだら生き返りません。こういう後戻りできない不可逆的なことは、避けれるのであれば避けなくてはならないと思うから、B薬は販売すべきではないと考えます。

原発はどうか

上と似たような事例が原発を今後も利用し続けるかどうかの判断です。

福島原発の事故が起こった一帯が、元の環境に戻るには長い年月がかかります。そこに住んでいた人々は、もう戻れないかもしれません。また、今後、健康被害で苦しむ人が出てくるかもしれません。

住む場所は他にもあるので、別の場所で新たな生活をできます。しかし、健康被害が後から発生し、それが原因で亡くなる人が何人も出てきた場合、命を取り戻すことはできません。


企業が投資意思決定をする場合、利益が多くなるプロジェクトを選択するのは当たり前のことです。リスクとリターンを予測して合理的に行動しているので、その判断は正しいのかもしれません。

電力会社が、原発を今後も使い続けるという意思決定をするのは、火力や太陽光よりも、多くの利益を生み出すことができるからでしょう。リスクを見積もった時、福島原発のような事故が起こる確率は極めて低いはずです。そして、事故が起こった時に巨額の賠償金を払わなければならないと予測されても、生起確率を加味した場合、微々たる損失にしかならないのかもしれません。

しかし、どんなに低い確率でも、一度、原発事故が起これば後戻りできない不可逆的な事態に発展する場合があります。

果たして、企業の投資意思決定は、リスクとリターンだけで判断しても良いのでしょうか?

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