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ウェブ1丁目図書館

読書で得ること感じること。ここはウェブ1丁目にある小さな図書館です。本の魅力をブログ形式でお伝えしています。

先物取引でのリスクヘッジはスペキュレーターを利用することで成立している

金融財務

先物取引について、どのような印象をお持ちでしょうか?

多くの方が、ギャンブル的要素の強い取引、楽して大金を手にできる取引、失敗すると人生が破たんしてしまう取引という印象を持っていることでしょう。だから、そう思っている方は、先物取引をする人は投機家(スペキュレーター)だと決めつけているかもしれません。

ところが、先物取引をするのはスペキュレーターだけではありません。むしろ、石橋をたたいて渡るような慎重な性格の人の方が先物取引に興味を持っているのです。

長期契約を望むのは安定志向から

誰だって、現在、何不自由ない生活をしていれば、将来もこのままの生活が持続して欲しいと思うでしょう。このように思うのは、安定を望むからであり、特に日本人にその傾向が強いと言われています。

このような日本人の性格から、江戸時代に日本で米の先物取引が行われるようになったのかもしれません。

大蔵省での勤務歴がある、金融工学に詳しい野口悠紀雄さんの著書「金融工学、こんなに面白い」では、先物引の仕組みが比較的わかりやすく解説されています。野口さんによると、先物取引は将来の約束とのこと。

普段、誰だって約束することはありますから、普通に日常生活を送っているだけでも、先物取引をしているのと同じ状況にあると言えます。例えば、日本の雇用契約は長期の雇用契約であることが多く、見方によっては先物取引と言えます。

労働の需給や市場賃金は将来変化するかもしれないが、長期にわたる雇用契約を結べば、そうした変動の影響を受けなくてすむ。雇用者の側から見ても労働者の側からみても、その時々の状況にあわせて契約を更改するよりは、あらかじめ決めておくほうが望ましい場合が多い。また、製造業の大企業は、下請け企業や販売店との関係を系列化して固定化することが多い。
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今している仕事の成果をすぐに給料に反映させるなら、成果報酬が最も望ましいでしょう。また、プロスポーツ選手のように1年に1回契約更改し年俸を決めるのも、仕事の成果と報酬が時間的に一致しやすいと言えます。

しかし、仕事の成果には波があります。良い時もあれば悪い時もあります。将来のことはわかりませんから、労働者の立場からは長期間働くことの対価として安定的に給料をもらいたいと思います。また、雇用する側にしても、個々の労働者に支払う給料が毎年大きく変動すると経営計画を立てにくいので、入社から定年退職まで、あらかじめ定めた給与規定に則って支給する方が都合が良いです。

このように将来の不確実性を無視して事前の約束に従い行動することは、先物取引と本質的に似ています。

先物取引リスクヘッジ

標準化された先物取引が市場で行われるようになったのは19世紀以降で、特に重要とされるのがシカゴ取引所です。

シカゴは、トウモロコシや小麦の集散地として発達していたが、売手、買手の双方が、価格変動を避ける手段として編み出したのが、先渡契約(先物取引)である。農民は事前に売契約することで安心して作付けでき、買手も計画的な生産が行えるようになった。こうした先渡契約をシカゴの穀物商人が集まって制度化したのが、一八四八年に設立されたシカゴ商品取引所である。
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現在でも、スーパーが農家と個別契約し、収穫した農作物を形や大きさに関係なく全量買い取ることを実施していることがあります。スーパーは不揃いの農作物を買う不都合はありますが、確実に売り場に並べる必要量を確保できます。一方の農家は、均整のとれた形と大きさの農作物がたくさん収穫できた場合には、他に高くで売れる利点を捨てることになりますが、不揃いの農作物も買い取ってくれるので作り損が起こりません。

このような先渡契約は、両者にとって不利益な面はありますが、将来の不確実性を排除できる、すなわち、リスクヘッジできるという点で大きな利点があるのです。

ここで先渡取引と先物取引の違いを簡単に説明しておきます。先渡取引は相対取引であり契約当事者で条件をいろいろと設定できます。一方の先物取引は市場取引であり、あらかじめ取引条件が決められています。

先渡取引は、相対取引なので契約当事者のどちらかが不利な結果となった時に契約を履行しない可能性があります。でも、先物取引は事前に一定額の証拠金を用意する必要があり、その証拠金をもって決済が行われるので、契約不履行になる危険がありません。

輸出事業者だらけだと為替予約は成立しない?

将来の不確実性を回避するために開発されたのが先物取引であることは先に述べました。

しかし、自分が、将来のリスクヘッジのために先物取引をしようと思った時に取引相手が見つかるかという疑問があります。

例えば、輸出事業者であれば、アメリカに商品を売った代金はドルで受け取ります。代金の受取が1ヶ月後だと、その間に円高になってドルを受け取った時には商品を引き渡した時よりも少ない円としか交換できないことがあるでしょう。商品引渡時は1ドル=100円だったのが、1ヶ月後のドル受取時には1ドル=95円になっていたら、1ドルにつき5円の損失です。

だから、商品引渡時に誰かと先物取引、この場合は為替予約をして、1ヶ月後のドル受取時に1ドル=100円や1ドル=101円でドルと円を交換する約束をしておくわけです。この為替予約によって、1ヶ月後の為替相場が1ドル=90円や1ドル=80円になっていても損失は発生しません。1ドル=100円や1ドル=101円でドルと円を交換できるからです。

ところで、日本には輸出事業者しかいなかったら、このような為替予約が成立するでしょうか?

どの会社もアメリカにモノを売っているのですから、代金の受取はドルです。したがって、将来、円高になると誰もが損をする状況なのです。それなのに現在よりも円安になった時に自分が得する為替予約を契約するでしょうか?

現在、1ドル=100円だとすると、1ヶ月後に1ドル=100円よりも円安になっていれば、契約相手から1ドルを100円で買い、それを市場で101円や102円で売れば儲かります。しかし、日本のすべての企業が輸出事業者だと、彼ら全員が、将来、円安になると予測していれば為替予約をすることはありません。

したがって、国内の事業者がすべて輸出事業者であれば、為替予約は成立しないのです。

スペキュレーターがいるから市場は成立する

しかし、国内の事業者がすべて輸出事業者であっても、為替予約が成立することがあります。

それは、投機目的で為替予約をするスペキュレーターがいるからです。

ヘッジ目的で先物取引を利用している場合には、取引が成立しないことがあります。しかし、先物市場にたくさんのスペキュレーターがいて、一獲千金を狙っている状況なら、彼らと取引をしてリスクヘッジすることが可能です。

先物市場には、このような実需にもとづくヘッジャーの他に、投機目的で取引に参加する「スペキュレーター」もいる。投棄者の物語はしばしば非常にドラマチックであるため、注意を引く。このため、先物市場は投機市場だと考えている人も多い。現実にそうした側面があることは否定できないが、しかし、先物市場の本来の機能は、リスク回避である。そして、投機者の存在が、リスク回避のための取引を成立させるために役に立っているのである。
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最近では、外国為替証拠金取引(FX)が個人の間で人気です。

外貨建取引を行っていないのにFXに手を出すのは、まさに投機です。しかし、そういった一攫千金を狙うスペキュレーターがいるおかけで、海外と取引をしている事業者は、リスクヘッジのためにFXを利用できるわけです。

FXで簡単に大金を手にした人を見ると、ねたましく思ってしまいます。

でも、彼らがリスクを負ってくれるからこそ、普通に働いている人が将来の不確実性を排除し安定した生活をできるのですから、世の中はなんとも不思議なものです。

金融工学、こんなに面白い (文春新書)

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