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ウェブ1丁目図書館

読書で得ること感じること。ここはウェブ1丁目にある小さな図書館です。本の魅力をブログ形式でお伝えしています。

ヤマト運輸のクロネコメール便廃止は筋の通らないことを許さない小倉昌男的経営学に合致するのか?

経営者

2015年1月22日にヤマト運輸株式会社がニュースリリースで、クロネコメール便の廃止を発表しました。

その理由は、信書(手紙)をメール便で送ることが認められていないことを荷主が知らずにメール便で送り、ヤマト運輸だけでなく荷主まで罰せられてしまう危険があるからです。

それなら、信書にあたるかどうかをヤマト運輸側で事前にチェックして信書にあたらない物だけをメール便で送ればいいではないかと思うのですが、事はそう簡単ではないようですね。

昔から信書の問題は指摘されていた。

ヤマト運輸は、昔から信書の配達に関して国といろいろと揉めていました。同社の2代目社長であった小倉昌男さんは、この件に関して国の対応にかなり怒っていたことが著書の「経営はロマンだ!」を読むとわかります。

同社に対して郵政省(現・総務省)が圧力をかけ始めたのは1984年のことでした。

一九八四年(昭和五九年)六月、三重県津市にある当社の営業所に、東海郵政監察局から警告書が届いた。郵政監察局とは、郵便にかかわる犯罪を捜査する組織である。当社は三重県庁の依頼を受け、ポスターを東海郵政局に配達していた。荷物の中には、ポスターを貼り出す場所を指定した文書が入っていた。郵政監察局はこの文書が「郵便法で配達が禁じられている”信書”に当たる」と言いだしたのである。社長の私が始末書を書かされた。
(150~151ページ)

ポスターを貼り出す場所の指定がどのようなものであったのかはわかりませんが、おそらく「どこどこの壁に何枚貼ってください」といった程度の内容だったのではないでしょうか?たったこれだけの文章が信書に当たるのなら、多くの宅配便に信書が入っており、荷主は法律で罰せられなければならないでしょう。

小倉さんは、これに対しては田舎のおばあさんが東京の孫にミカンを宅急便で送る時、「食べ過ぎないようにね」と一筆書いただけで郵便法違反になってしまうと指摘しています。

さすがに郵政省もこれは問題だと思ったのでしょうね。後日、「荷物の添え状は構わない」と方針を変えたそうです。

クレジットカードは信書に当たるのか?

そもそも、どういったものが信書に当たるのか具体的に示されていないことが問題です。

1994年(平成6年)7月にも、同社の子会社が九州郵政監察局から警告を受けています。その内容は、子会社が始めたクレジットカードの配達業務が郵便法違反だというものでした。

当時、郵政省が根拠としたのは、「信書とは特定の人に対し自己の意思を表示し、あるいは事実を通知する文書」とした1952年の大阪地裁判決でした。クレジットカードには、会員名と有効期間が表示されているので信書に当たると主張したのです。

これだと、名前が記載されていればなんでも信書になってしまうのではないでしょうか?

これに対して小倉さんは、クレジットカードは消費者が買い物をするための道具にすぎないと主張。行政法の教授に依頼した鑑定の結果でもクレジットカードは「貨物と見るのが妥当」という鑑定意見を出してもらい、マスコミに対して郵政省と最高裁まで徹底して争うとコメントしています。

法廷で争う自信がなかったのだろう。郵政省は立件しなかった。にもかかわらず、商品券や地域振興券、ダイレクトメールなども信書だとして、次々と荷主に圧力をかけてきた。郵便法違反には三年以下の懲役、または百万円以下の罰金という重い罰則規定がある。しかも当社のような運送業者だけでなく、荷主も同時に罰する規定だ。
(152ページ)

小倉さんは、この罰則規定に関しては不当だと考えており、「お客でなく、自分だけを訴えてくれ」と述べています。


この小倉さんの考え方は現在のヤマト運輸にも引き継がれているようで、前出のニュースリリースに以下の内容が記載されています。

お客さまがクロネコメール便信書に該当する文書を送り、罰せられてしまうことがないよう、荷受けを厳格化し、注意喚起をはかるとともに、2013年12月に、総務省 情報通信審議会 郵政政策部会において、内容物ではなく、誰もが見た目で判断できる「『外形基準』の導入による信書規制の改革」を提案し、信書を送ってしまっても、送ったお客さまではなく受け付けた運送事業者のみが罪に問われる基準にすべきであると訴えてきました。しかしながら、結局、当社の主張は受け入れられず、依然お客さまのリスクをふせぐことができない状態となっております。
ヤマト運輸株式会社の2015年1月22日のニュースリリースクロネコメール便の廃止について」より)

ちなみに小倉さんが経営から退いた後の1999年にも、郵政省が信書とは何かを恣意的に解釈し、ヤマト運輸のユーザーから選択の機会を奪うのは不当な妨害行為だとして郵政省を独占禁止法違反の被疑者として公正取引委員会に申告していますが、取り上げられなかったそうです。

郵便ポスト10万本設置しろ

2002年に郵政事業の民間開放が国会で審議されることとなり、信書便法案も国会に提出されました。

これで信書の定義が明確になり、民間の郵政事業への参入が可能になるかと期待されましたが、実際は民間が参入するには厳しい内容でした。

信書便法案には、総務省による様々な許認可項目が書かれている。全部従えば郵便法第五条の例外扱いにしてやる、という構図だ。一例を挙げるとポストを約十万本新設しろ、と言う。
(154ページ)

当時、郵便局は約18万本の郵便ポストを持っていました。民間企業にその約半分を新設しろというのは、厳しい要求です。民間の郵政事業参入を嫌っていたことが明らかです。


小倉さんは、宅急便を始めるときから国に様々な無理難題を負わされてきましたが、そのたびに問題を解決し、日本全国どこでも宅急便を届けられる体制を構築しました。そのおかげで、われわれ現代人は、手軽に荷物を送ることができるようになりました。ネット通販の普及にもヤマト運輸が貢献していることは言うまでもありません。

信書の解釈があいまいで、それがクロネコメール便廃止の理由となっています。でも、これまでも国の規制に立ち向かって消費者の利便性を追求してきたヤマト運輸のことですから、いずれ、クロネコメール便以上に便利なサービスを提供してくれることでしょう。

利益とは目的ではなく、収入から経費を引いた結果である。利益が出ることで事業が長続きする。利益の確保は事業を永続させるための手段でもある。目的と手段を取り違えてはいけない。
(190ページ)