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ウェブ1丁目図書館

読書で得ること感じること。ここはウェブ1丁目にある小さな図書館です。本の魅力をブログ形式でお伝えしています。

家計消費が経済を支えている。しかし、家計所得の増加だけが幸福をもたらすのではない。

経済

日本経済が低成長時代に突入してから長い年月が経過しています。

経済の低成長は悪だと言われていますが、低成長は高度に経済が発展した後に必ず訪れるのですから、現在の日本は他の国々と比較して暮らしやすい国になっているとも考えられます。しかし、それでも経済発展し続けることを望むのであれば、家計消費を拡大しなければなりません。

日本の国内総支出の50%以上が民間最終消費支出で構成されていること、国民可処分所得の使用では60%以上が民間最終消費支出で構成されていること、この2つの観点から見れば日本経済に大きな影響を与えているのは家計消費だと簡単にわかります。

どん底から這い上がる時が最も経済成長する

経済が最も成長するのは貧しい時代です。第二次世界大戦後の焼け野原からの復興時期の経済成長率が極めて高かったことからも、それがわかります。

戦後は、人間が生きていくために最低限必要な衣食住でさえ困る国民が多かったので、生存のためにどうしても必要な商製品を供給するだけで消費の拡大を促せました。その後の高度経済成長期には、生活を楽にする洗濯機や冷蔵庫がよく売れました。さらに生活が楽になってくると、テレビ、自動車、クーラーなど生活に直接必要ではない製品を多くの国民が購入するようになりました。

このように経済が成長する時期は家計消費が伸びる時期なので、経済政策においては家計消費を増やすことが重要だと考えられます。しかし、京都大学大学院経済学科研究教授の橘木俊詔さんは、著書の「家計からみた日本経済」で、日本では家計消費を増やすための政策が軽視されてきた旨を述べています。

確かに日本の経済政策と言えば、金融政策に重点が置かれることが多いように感じます。また、消費拡大策と言っても、地域振興券や現金を国民に支給することがたまに行われるだけです。橘木さんは、家計消費の総量は家計所得の増加関数であると述べていますから、地域振興券や現金の支給は一時的な消費の拡大でしかなく、家計所得の増加にはつながりません。

配偶者控除は共働き家計にこそ必要

家計所得を増加させるためには、賃金給与を増やさなければならないことはすぐにわかります。最低賃金の引き上げは、家計所得の増加に有効な政策と言えるでしょう。

また、家計所得を増やすためには、収入を増やすだけでなく、国民の税負担を軽減することも有効です。税率の引き下げはもちろんのこと、各種の所得控除や税額控除も国民の税負担を減らせます。

所得控除で議論される機会が増えてきているのが配偶者控除です。配偶者控除は、夫婦の一方の所得が一定額以下の場合には、もう一方の所得を減額させる所得控除です。日本の一般的な家庭では、夫が正社員として働き、妻がパートやアルバイト、もしくは専業主婦ということが多いです。

妻が、パート、アルバイト、専業主婦の場合は所得が少ないので、夫が配偶者控除を受けて税額を減らせます。しかし、共働き家庭では、夫婦ともにそれなりの所得となることから配偶者控除を受けれません。

共働き家庭の場合、所得が多いので配偶者控除を認めるのはおかしいという意見があります。しかし、共働き家庭が豊かだったのは高度経済成長期からバブル期までの短い期間であり、本来、夫の収入では生活できないから妻も働かざるを得ないという時代の方が長かったのです。橘木さんは、戦前は女性も働いていたことを指摘しています。

戦前の日本での主要産業は農業と零細の商工業であった。こういう産業に従事している場合、既婚女性も労働力として期待される程度が高い。農作業や小売・町工場といった仕事を想像すれば明らかである。現代でもこのような業種では、家族ぐるみで従事している場合が多いことによってもわかる。したがって、戦前の日本では既婚女性が労働している場合が圧倒的に多く、専業主婦は一部の経済的に余裕のある家庭に限られていた。
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このように共働き家庭の方が貧しかったのですから、配偶者控除は共働き家庭にこそ認めるべき所得控除なのです。しかし、共働き家庭は、景気が良くなった時に専業主婦家庭よりも所得が増えますから、必ずしも共働き家庭にだけ配偶者控除を認めるべきとは言い切れません。

配偶者控除は、時代によって豊かな人を優遇する制度になりやすい傾向にあります。したがって、配偶者控除は全家庭に認めるか、廃止するかのどちらかが望ましいでしょう。

社会保障は一律

橘木さんは、現在の社会保障制度も見直すべきだと述べています。

社会保障には、共同体主義と普遍主義の2つの考え方があります。

共同体主義は、個人の属しているコミュニティの構成員の中だけで、リスクをシェアしたりセーフティネット制度を用意したりする社会保障の考え方です。一方の普遍主義は、個人が属しているコミュニティに関係なく、全ての人に同一レベルの福祉ないしセーフティネットを提供する社会保障の考え方です。

現在の日本の社会保障制度は、共同体主義の考え方を採用しています。年金の場合だと、会社員が加入する厚生年金、公務員が加入する共済年金、個人事業主が加入する国民年金と、国民の働き方や職場ごとに年金制度が設計されています。さらに健康保険の場合だと、業種や会社ごとに健康保険組合が存在していますし、自営業者や高齢者は国民健康保険に加入しています。

このような共同体主義による社会保障では、自分が属しているコミュニティが崩壊した時に保障を受けれなくなります。また、特定の健康保険組合の財政が悪化した場合も、他の健康保険組合よりもサービスが悪くなるという欠点があります。

大手IT企業のように若い従業員が多く病気になる確率が低い構成員ばかりの健康保険組合だと、カフェテリアプランがあり、無料で人間ドックを受けれたりします。

ところが、多くの人が定年退職後に加入する国民健康保険だと、構成員に占める高齢者の割合が高くなるので、医療費の負担が大きくなります。年金暮らしの高齢者からは、多くの保険料を徴収することもできませんから、財政は厳しいものとならざるを得ません。

現在の社会保障の不都合を解消するなら、普遍主義に変えなければなりません。普遍主義であれば、日本国民全員が、一つの年金制度、一つの健康保険制度に加入します。受けれるサービスは全員同じです。世代間の不公平も生まれません。

また、橘木さんは、年金を税方式にすべきだとも述べています。その理由を端的にまとめると以下の通りです。

  1. 税と社会保険料を同時に徴収すればコストダウンになる。
  2. 年金未払いを防止できる。
  3. 保険料方式は支払う保険料と受給できる年金額を誰もがわかるので損得論議が発生しやすい。ところが、税方式だと納税額のいくらが年金に充てられているかわからないので、損得を計算できない。
  4. 税で徴収すれば、社会保障に対する国民の不安を払拭できる。
  5. 税方式は経済成長率への貢献度がより高い。


共同体主義のもとで保険料を徴収し、年金制度を維持しようとすると経済合理性に逆らうことがあります。

例えば、公務員の共済年金だと、公務員になる人が年々増加していき、共済年金の加入者の構成がピラミッド型になっていた方が年金制度が安定します。1人の高齢者を多くの若い世代で支えられるからです。しかし、税収が伸び悩み、行政の予算を削らなければならない事態になると、公務員の新規採用を減らさなければ財政が破綻してしまいます。つまり、高齢化と不景気が同時にやってきたとき、公務員を増やして高齢者を支えなければならないという求めと、税収減に対応するために公務員を減らさなければならないという求めが同時に湧き上がるのです。

このような相反する求めに対応しようとするなら、共同体主義と保険料の徴収による年金制度では厳しいでしょう。普遍主義かつ税方式の年金制度にし、受給額を全員一定にすれば、制度を維持しやすいはずです。


また、橘木さんは、経済の成長ばかりを追い求める社会に対しても疑問を投げかけています。経済が成熟している現代では、高い経済成長率を達成するのは困難です。低成長下でも豊かに生きていこうと思うなら、優越感を得るための華美な生活ばかりを追い求めるのは慎んだ方が良いでしょう。

経済は家計消費に支えられる部分が大きいです。家計消費を増やすためには家計所得も増やさなければなりません。しかし、経済が成熟した現代では家計所得を増やすのは簡単ではありません。経済が成熟した現代では、家計所得の増加以外のところで幸福を感じることが大切です。また、家計所得の再配分も重要になってくるでしょう。