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ウェブ1丁目図書館

読書で得ること感じること。ここはウェブ1丁目にある小さな図書館です。本の魅力をブログ形式でお伝えしています。

進学校出身の調教師が持つビジネス感覚

2012年の日本ダービーを制したディープブリランテを管理していたのは、開成高校という進学校出身の矢作芳人調教師です。

矢作厩舎というと、競馬ファンの間では、穴馬を激走させるイメージが強いですね。

穴馬になるということは、弱い馬ばかりを矢作さんが管理しているということになり、事実、2005年の開業から数年間は、血統の良くない馬ばかりでした。でも、最近では、良血の馬が多くなり、矢作厩舎所属の馬がレースに出走すると、新聞には重たい印が並ぶようになっています。

1銭でも多くぶんどる

「とにかく一銭でも多くぶんどってこい。僕は、一銭でも多くぶんどるような厩舎経営をするから」

矢作さんの著書「開成調教師」によると、厩舎を開業して最初のミーティングで矢作さんが宣言したのが、この言葉でした。

この言葉だけ聞くと、何かがめつい印象を受けます。でも、調教師も、仕事なのですから、お金を多く稼ぐ必要がありますし、調教師の下で働く調教助手や厩務員といったスタッフにも給料を払わなければいけません。そういったお金は、競走馬をレースに出走させて獲得した賞金から払われるわけですから、矢作さんが、最初のミーティングで宣言したことは、ごく当たり前のことなのです。


しかし、競馬の世界というのは、他の業界とは違っており、特に中央競馬JRAという組織に守られているので、外部との競争がない世界です。なので、ビジネス感覚が欠けている調教師が多いようです。

矢作さんによると、調教師は中小企業の社長と同じとのこと。

調教師は経営者である。僕もまた、従業員10数名の「矢作厩舎」という中小企業の社長なのだ。だから従業員の福利厚生を考えるのは当たり前のことだし、利益をあげるために設備投資を計画したり、コストの削減を図るのもまた当たり前である。(中略)
馬主になる方は、当然のことながらみなさんお金持ちばかりである。それを良いことにして、多くの調教師が、掛かった経費は請求書を出してなんでも支払ってもらうという、コスト意識の欠如した行為を続けてきた。(96~97ページ)

馬主は株主と同じ

調教師は、馬主から預かった競走馬をレースに出走させて、そこで獲得した賞金の一部を得ます。

賞金の配分は、馬主80%、調教師10%、騎手と厩務員が5%ずつです。馬主が、競走馬の購入代金も、維持費も負担するので、その取り分が最も多くなります。矢作さんが、「一銭でも多くぶんどる」と宣言したのは、馬主に多くの利益を還元するためです。企業に例えれば、馬主は株主と同じなので、矢作さんの考え方は、一般のビジネス感覚と同じと言えますね。

しかし、全ての競走馬を黒字にすることは、ほとんど不可能です。むしろ、赤字で終わる競走馬の方が多いのが実情です。

だからと言って、馬主が損しても仕方がないと思うはずはありません。たとえ赤字になったとしても、それをできるだけ少なくしたいと思っているはずです。

しかし、残念なことにすべての馬が黒字になるわけではない。そうである以上、赤字になった場合でも「いかに赤字を減らしてあげるか?」を考える必要がある。
馬主さんとの付き合いは、一頭だけで終わるものではない。また次の馬を買ってもらうときのために、100万円でも50万円でも多く馬主さんに戻せるように努力しなければならない。たとえその馬が赤字に終わっても、少しでも負けを少なくすることで、次の機会へとつながっていくのだ。(106ページ)

馬主を少しでも儲けさせるためにどうすべきか

競馬の賞金は、レースに勝たなくても8着以内に入れば得ることができます。また、レースに出走するだけでも、わずかながら特別出走手当が支払われます。

だから、調教師は、管理している競走馬をできるだけ多くのレースに出すことで馬主の投下資本の回収に貢献することができますし、できるだけ上の着順に入れるようにレース選択をすることで馬主の利益を増やすことができます。

ただ、必ずしも自分が管理している競走馬を出走させたいレースに使えるとは限りません。現在では、1レースの出走頭数は18頭までとなっているので、19頭以上がレースに出たいと希望した場合、除外になる馬が出てきます。だから、除外にならないために事前に各厩舎の馬がどのレースに出走を希望しているかの情報を入手し、確実に出走できるレースを選ばなければなりません。

また、レースに出走できたとしても、強い馬ばかりが出走してくると着順が悪くなります。なので、できるだけ強い馬が出走してこないレースを選択することも大切です。


経費の節約に関しては、北海道の牧場で休養させている馬を滋賀県栗東トレーニングセンターまで移動させると運送費が発生しますが、いったん、函館競馬場か札幌競馬場でレースに出走させると、「レースを使ってトレセンに帰厩する」という名目ができるので、費用はJRA負担となります。

出張の際にも、金券ショップで株主優待券を安くで購入して飛行機に乗れば、経費の節約になります。


このように矢作さんは、できるだけ多くの賞金を稼ぐ努力をするとともに経費をできるだけ抑えるという、一般企業と同じようなビジネス感覚を磨くことで、馬主により多くの利益を還元できるようにしています。

馬の状態を見極める赤白バンテージ

少しでも多くの賞金を獲得するためには、レース選択も大切ですが、何より競走馬を良好な状態に保つ必要があります。

そこで、矢作厩舎では、飼料、つまり競走馬のエサをオリジナルなものにして全馬統一しています。馬ごとにばらばらの飼料を与えていたのでは、無駄な手間と費用もかかります。経費削減という意味でも、オリジナル飼料は有効なのです。


さらに競走馬の状態を見極めるために矢作厩舎では、馬の足首に赤色と白色のバンテージを交差させるように巻いています。右前と左後には白色、左前と右後には赤色といったように。

馬は、走るとき、左前脚を前に出すと同時に右後脚も前に出ます。同じように右前を出すと左後も同時に出ます。だから、4本の足首にバンテージを交差させるように巻くことで、調教中は、赤と白が交互に前に出ているかどうかが一目でわかり、歩様に異常があったときには、すぐに気付くことができます。

赤白バンテージは、他の厩舎もすぐに真似できるのですが、同じようにバンテージの色を使い分けている厩舎を見たことがないですね。私が知らないだけで採用している厩舎があるのかもしれません。でも、矢作厩舎以外で見たことがないことから、赤白バンテージを採用している厩舎は非常に少ないのでしょうね。


お金が飛び交う競馬の世界だからこそ、より研ぎ澄まされたビジネス感覚が必要になるのではないでしょうか?

結果を残している調教師の方の仕事術は、一般企業で働いているビジネスパーソンにとっても参考になると思いますよ。

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