ウェブ1丁目図書館

読書で得ること感じること。ここはウェブ1丁目にある小さな図書館です。本の魅力をブログ形式でお伝えしています。

立ち上がった人類に待っていたのは冷え症

夏に冷房の中に長期間入っていると、冷え症になることがあります。特に女性に冷え症は多いですね。

冷え症の対策については、家庭医学書の類を読めば書いてあります。しかし、それらはどれも対症療法でしかありません。なぜなら、冷え症が起こる仕組みは、人間が二足歩行を開始したことが理由なのですから。

体内にできたナイアガラの滝

多くの動物が四足歩行で移動します。人間もかつては四足歩行だったのですが、ある時立ち上がって二足歩行に進化しました。もしも、人間が四足歩行を続けていれば、もしかしたら、冷え症で悩む女性の数は今ほど多くならずに済んだかもしれません。

獣医学博士で獣医師の遠藤秀紀さんは、著書の「人体 失敗の進化史」で、人間の心臓や血管といった循環系をナイアガラの滝に例えています。

そもそも四足動物の場合は、背中とお腹が地面に対して水平なので、心臓から吐き出された血液も上下動せずに水平に流れます。ところが人間は立ち上がったことで、背中とお腹が地面に対して垂直になってしまい、血液も上下に流れなければならなくなりました。心臓から吐き出された血液は、まるでナイアガラの滝のように足の先に向かって落下していきます。そして、足の先まで落ちた血液をか弱いポンプで再び心臓まで戻さなければなりません。

脳は常に貧血状態

本来、人間の循環系は四足歩行で機能するようになっており、二足歩行に切り替えた後も循環系の設計変更が行われていません。そのため、人間が直立している時、最も高い位置にある頭への血液の供給が難しい状況になっています。

実をいうと、ヒトの心臓付近での血圧を一〇〇mmHgとすれば、脳の入り口では五〇mmHg近くにまで下がってしまう。前半身を垂直に立ててしまったということは、血液をかなりの圧で打ち上げたとしても、身体のてっぺんに位置する放蕩息子を、ぎりぎり満足させているというのが実態だ。それでは重力に対抗して限りなく血圧を上げればいいかというと、困ったことに、すでにはるかに下の足の末端では、血圧は一八〇mmHgにまで上がっている。これ以上心臓の圧力を増大させて脳を守ったら、滝のような血流をもろに受けてしまう身体の低い部位では、逆にかなり対処の難しい高血圧に見舞われることになるだろう。
(201ページ)

人間は、立っている状態では貧血に近い状態にあるのです。その状態でなければ、他の組織が高血圧でダメージを受けてしまうので、脳への血液供給は常に余裕がない状況となっています。小学生が運動場での朝礼の時に貧血で倒れるのは、やむを得ないことなのかもしれません。

仮に人間が貧血を起こさないように脳への血液の供給量を増やした場合、不都合が起こります。人間は常に二足歩行で歩いているわけではありません。時には、頭を下げることもあります。朝礼で校長先生があいさつするときなんかは、全校生徒が一斉にお辞儀をします。もしも、脳に余裕をもって血液を送れるようにしていたら、小学生がお辞儀をした瞬間に脳に多くの血液が急速に送り込まれ、とてつもない高血圧がかかる可能性があります。そうすると、校長先生のあいさつのたびにバタバタと児童たちが倒れていくことになりかねません。

つまり、設計上重要なのは、血液を脳に向けて打ち上げる力任せのポンプではなく、どんな姿勢でも身体中に血液を打倒に確保する、心臓と血管全体のシステムなのだ。だから、ヒトはこれ以上無闇に心臓を大きくすることはないだろう。そんなことより、ヒトの多様な姿勢や運動に対しても、いつでも血流を調整可能な状態に保ち、適切な血液供給を継続することが、進化史に課せられた設計変更の命題だったのである。二足歩行に伴う、脳への血液供給は、貧血と並行して、血流調整という難題を抱えたといえる。
(203~204ページ)

重力に抗って血液を心臓に戻す難しさ

さて、冒頭で冷え症は人間が二足歩行を開始したことが原因だと述べました。二足歩行の開始で体内にナイアガラの滝ができると、今度は、一番下から心臓に血液を戻すのが難しくなります。手足では、どうしても末端で血液に淀みができてしまい、冷え症やむくみにつながるのです。それは、二足歩行の代償と言えなくもありません。

寒いときに手足にやってきた血液は、すみやかに回収しなければ、身体の中心から離れているためにどんどん熱を奪われて、温度が下がっていくことだろう。冷え性とは、こうしたメカニズムに起因する困った症状である。一方、淀んだ血液が溜まり勝ちになることで、いわゆるむくみを起こす。よく家庭医学書の本に浮腫と書かれているトラブルである。二足歩行の結果、重力に逆らって血液を心臓に返す負担が増し、結果的に血を戻せなくなってしまった手足の皮下で、組織が水浸しになってしまった状態だ。
(204~205ページ)

人体は、様々な進化を遂げて現在の姿になりました。これからも少しずつ進化し続け、数十万年先や数百万年先には、もっと違った姿に人体は変わっているかもしれません。

しかし、全ての進化が人体に都合が良いわけではなく、新たな能力を獲得すると、別のところに思いもよらなかった不具合が発生することもあります。肩こり、椎間板ヘルニア、鼠径ヘルニア(脱腸)なども、二足歩行の代償と考えられます。

結局、進化とは何かを得ることで何かを失うことなのかもしれません。例えば、100ある能力のうちこれまでは10を脳に使い残り90を別の組織に使っていたのが、進化により20を脳に使い残り80を別の組織で利用することになったような感じで。

100の能力は100のままであり、その内訳を変更することが進化と考えれば、人間も、犬も、クジラも、カラスも、みんな持っている能力は同じと言えそうです。

人体 失敗の進化史 (光文社新書)

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