ウェブ1丁目図書館

読書で得ること感じること。ここはウェブ1丁目にある小さな図書館です。本の魅力をブログ形式でお伝えしています。

日本のマンガやゲームが世界中で親しまれることは90年代前半からわかっていた

90年代初頭にバブル経済が崩壊し、当時、これからの日本経済はどうなるのだろうかといったことをテーマにした本が出版されたり、テレビ番組が放送されたりしました。その時は、いろんな人がいろんなことを言ってましたが、今から振り返ると、ハズレばかりだったように思いますね。

そんな予測が当たらない識者ばかりだった90年代だったのですが、今、振り返ってみると、予測の大部分が当たっているという人がいました。それは、日下公人(くさかきみんど)さんです。

2000年以降の社会を見てきたかのような予測

日下さんの著書「人事破壊」が出版されたのは1994年のこと。この本の中では、これから日本企業に押し寄せてくる人事破壊の波について説明されています。

日下さんは、人事破壊の波は、これから滅びていく人事権、正社員、会社人間とこれから生まれてくるデフレ時代、真の人本主義の5つがあると提示。そして、日本社会と日本経済は、今後、どのように変わっていくのかをひとつずつ予測していきます。

これらの予測が、2000年以降の日本社会をまるで見てきたかのように的中しているんですよね。

日本的経営は中進国の特徴だった

バブル経済以前は、日本的経営、つまり和の経営が日本企業の強みだとされていました。日本的経営の特徴は、企業内組合、年功序列、終身雇用の3つ。日本的経営の三種の神器なんて言われたこともありました。

日本的経営の三種の神器は、大雑把にいうと、従業員が長期的に会社に対して忠誠をつくし、その見返りに企業が生活を保証するといったもの。だから、一度入社したら、定年までやめることなく働き、組織内の和を乱さないことが重要とされました。

和の経営は優れたもので、これが日本企業が強い理由だとよく言われていたものですが、今では、真逆になっていますよね。企業が正社員を大量に雇い、年功序列と終身雇用で、長期的に面倒をみるという構造が、将来の費用負担を増やすことになっています。また、社内の部署を渡り歩くような人事異動が行われることで、社内のことは詳しいが、専門能力がないといった従業員ばかりになるという問題も出てきています。

でも、もともと和の経営というのは優れた経営システムではなく、やむを得ず採用したものでしかなかったので、こういった欠陥が出てくるのも仕方がないことです。

資本主義というのは、巨万の富を持った資本家がお金を出して産業を発展させる仕組みです。典型的なのが18世紀や19世紀のイギリスです。イギリスの資本家は植民地支配から得た富を使って産業を発展させていきました。

それに対して日本は、江戸時代から明治時代になった時、とても貧乏でした。貧乏だからお金がないのも当たり前です。当然、イギリスのように巨額の資金を投じる資本家もいません。だから、従業員全員が安月給で働いて力を合わせる以外に産業を発展させる手段がなかったんですね。そして、産業が発達し、自分が働いている会社が儲かった時に今までの安月給を取り戻すかのように給料が上がり、退職金もたくさんもらえるという仕組みだったのです。

これが和の経営が中進国の特徴だという理由なのです。最初から資本家が会社を興していたのなら、従業員の働きに応じて給料を支給できるのですが、それだけの資金がないから、やむを得ず和の経営を採用したということだったんですね。

滅びゆく人事権、正社員、会社人間

和の経営が中進国の特徴だとすると、先進国に移行するためには、その過程で日本的経営の三種の神器を捨てる必要が出てきます。企業が生き残るためには、捨てたくなくても捨てざるを得ないというのが実情なのでしょう。

年功序列や終身雇用は、従業員の能力とは関係なく出世し定年まで働くことができる仕組みです。

そのため、企業内にどんなに立派な人事制度があっても、能力のない従業員を出世させるために温情的な人事が行われることがあります。逆に優れた能力を持っていて結果も出している従業員がいても、慣習が重視されて、すぐには出世することができないという不条理もありました。

しかし、経済が停滞すると、このような温情主義的人事をしたくてもできなくなります。だから、競争力が無くなると、企業は、リストラの名のもとに従業員をクビにしたり、派遣社員を増やして、一部の正社員の雇用を守るということをするんですね。

これらの企業の行動というのは、中進国から先進国への脱皮なのでしょう。そのためには、古い皮と一緒に温情主義的な人事、正社員、会社人間も捨ててしまわなければならないのです。

新たにやって来たデフレの波

バブル経済が崩壊した後も、多くの人が物価は上がっていくものだという幻想を抱いていました。だから、マイホームを購入する場合、多くの人が将来のインフレを期待して長期のローンを組むんですね。今でも、当然のようにローンを組んでますが、これは、明らかに物価が上がり続けることを無意識のうちに期待している行動なのです。

とは言え、デフレを本当に理解している人は、ローンを組んで家を買うことはしません。日下さんは、これからは借家時代になると述べていますが、本当にそのようになりつつありますね。

借家にしようという発想は、無駄な資産を持たないということ。最近の若者は、車に興味を持たないと言われていますが、このようなライフスタイルは、まさにデフレ社会に順応したものと言えます。車を持てば、将来の支出が増えます。デフレ下で、将来の支出額を固定することにはリスクがあります。給料が絶対に減らないという保証がない以上は、固定費を抑えたいと思うのは当然ですよね。

真の人本主義で生き残る

日下さんは、最後に真の人本主義が訪れると述べていますが、それが、2000年以降顕著になっています。

もはや生産主導の経済では、難しい状況となっています。これについては、多くの学者やコメンテーターの方が指摘しているので、よく耳にしますね。そして、消費者のニーズが大事だということもよく耳にします。

でも、具体的に消費者のニーズってどういうことかと聞かれて答えられる人は少ないように思います。

これに対して日下さんは、日本製品の品質がとても優れていることを逆から考えて、これからの日本企業の進むべき方向を示しています。確かに日本企業が造る製品の品質は高いのですが、どれもアイディアを他から輸入してきたものばかりです。これは、創造性が不足している、本社が二流である、人間的魅力に欠けているということだと日下さんは指摘しています。そして、これからの日本企業は、独創的な発明をして、高額のロイヤリティを取らなければ日本経済を維持していけないと述べています。

そのためには、周辺国が憧れて自分から買いに来るような文化産業を開発して売るしかない。それが先端国家の役目である。その時に何が起きるだろうか?(174ページ)

日本人が初めてコーラを飲んだ時は、まるで薬のような味だと思ったものですが、アメリカ文化への憧れがあったことから、いつの間にかコーラは大衆的な飲料にまで育ちました。だから、日本企業も日本に憧れを持つ周辺国に文化を広めていくべきだと指摘し、きっと日本がアメリカに憧れたようにアジア諸国も日本に憧れを持ち、日本文化を採り入れていくはずだと主張します。

そういうサービス産業や文化産業は、「人間の魅力」を中心としてできあがっている。どれだけ資本を積んでみても、どれだけ立派なオフィスを建ててみても、最新鋭のハイテクを導入してみても、問題はその中にいる人間のセンスであり、アイディアであり、能力である。だからこれらの最先端企業というのは「人本主義」になる。(175ページ)

従来の和の経営も人本主義と言えますが、これからの人本主義は安月給で我慢し一致団結することではなく、発想力が必要となる真の人本主義です。そして、日下さんは、日本のマンガがこれからは世界各国で広まっていくと予測していたのです。この予測が90年代前半だったのですが、当時は、まだまだマンガというのは一段下に見られていたところがあり、日本の産業をけん引するような代物ではないと思われていました。

それが今はどうでしょうか?

日下さんが予測したように世界各国で日本の漫画が大ブームになっています。マンガが人気になれば、アニメも人気になります。そして、ゲームも海外での受けがいいですよね。

マンガが魅力ある産業になるという理由には、低コストといった面もあります。もちろんアイディアが重要ですが、一度できあがったマンガというのは、複製にそれほど費用がかかりません。しかも、コンピュータ・ゲームや映像にいちばん展開しやすいといった利点もあります。そして、超低コストで作られたマンガが、アニメ、ゲーム、音楽、キャラクター・グッズに複製されていく過程で多額のお金が増殖していきます。

しかしその一番モトをつくる人は、四畳半のアパートで一人でやっていてもいいというところが、これからの先端開発企業のあり方を豊かに連想させてくれる。つまり先端産業というのは、本当にアイディア次第、想像力次第なのである。(179ページ)

いやはや、日下さんの先見性には感服します。

また、日下さんは、これからのデフレ時代は、打率が下がる時代だとも述べています。とにかく下手な鉄砲を数撃たなければ、ヒット作が生まれない時代になるから、数を撃った人から成功していきます。そうすると成功する人ほど打率が低くなるといった現象が起こるのです。

これも、ここ最近、よく耳にする言葉ですね。これをまだバブルの余韻が残っている時代に主張している人がいたのです。きっと、今も日本経済が低迷しているのは、当時、日下さんの考えに耳を傾ける人が少なかったからなのかもしれませんね。