ウェブ1丁目図書館

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牛乳を飲んでお腹がゴロゴロしたり下痢をするのは哺乳類なら当然のこと

牛乳を飲むと、お腹が緩くなってゴロゴロいいだし、すぐにトイレに駆け込みたくなる。

そういう経験をお持ちの方がいらっしゃると思います。日本人は、牛乳を飲むとお腹が緩みやすい傾向があるとされています。

その理由は乳糖不耐症の人が多いからだとか。乳糖(ラクトース)はミルクに含まれている炭水化物で、ラクターゼという酵素がなければ消化できません。このラクターゼを持っていない、あるいはラクターゼの量が少ないと、牛乳を飲んだ後にトイレに直行したくなるのです。

子供の食べ物を運搬可能にしたミルク

人間は哺乳類です。

哺乳類は、子供が成長するためにミルクを与えます。だから、生まれたばかりの赤ちゃんはミルクから栄養を補給することになります。しかし、日本人は牛乳を飲むとお腹が緩くなりやすいので、日本人の赤ちゃんが母乳から栄養を補給するのは難しいのではないかという疑問が生まれます。

その疑問を解決する前に、なぜ哺乳類がミルクで子供を育てるのかを知っておきましょう。動物育種繁殖学を専門とする酒井仙吉さんの著書「哺乳類誕生 乳の獲得と進化の謎」によれば、哺乳類がミルクを使って子供に栄養を与えるのは、子供を確実に成長させるためだとのこと。

ミルクには、炭水化物(乳糖)、タンパク質、脂質の三大栄養素の他にビタミンやミネラルも含まれているので、栄養価が非常に高いといった特徴があります。しかも、不溶性の脂肪や脂溶性ビタミンであっても水溶性になっているので、歯のない赤ちゃんにとっては液体状のミルクを飲むことで容易に消化できる利点があります。

加えて、母親が赤ちゃんと常に行動を共にしていればいつでも母乳を与えられるので、赤ちゃんの空腹を容易に満たすことが可能です。すなわち、ミルクを母親の体内で生産貯蔵できる体制を整えた哺乳類は、母親が子供を置いたまま遠くに食糧を探し求める必要がないので、新生児が外敵に襲われる危険性が低いのです。

そう、ミルクを獲得したことが哺乳類の進化の基礎となったと推測できるのです。

赤ちゃんはラクターゼを持っている

しかし、どんなに栄養が豊富なミルクであっても、それを飲んだら下痢をするというのでは赤ちゃんに必要な栄養を与えることができません。

では、哺乳類はどのようにして、赤ちゃんが下痢をしないようにしているのでしょうか?

その答えはラクターゼです。哺乳類の赤ちゃんは、何らかの障害がなければ、ラクターゼを持っています。ミルクを飲んだ赤ちゃんのお腹の中でラクターゼが分泌され、乳糖(ラクトース)をブドウ糖グルコース)と脳糖(ガラクトース)に分解できるのです。

タンパク質と脂質は消化されやすいが、問題は炭水化物にあった。ブドウ糖では母親の血中濃度以上にすることが困難であり。グリコーゲンでは乳中に分泌できない。デンプンは論外である。これらを解決したのが乳糖であった。量を自由に変えることができ、消化にはラクターゼ(小腸)で十分だ。そのうえ乳糖の一部が消化されないことが新生児の健康と関係した。
(177ページ)

ミルクに含める炭水化物をわざわざ乳糖にしなくてもブドウ糖にすれば、ラクターゼなしで赤ちゃんは吸収できそうですが、もしも母乳にブドウ糖を混ぜてしまうと母親の体に不都合が生じます。それは、血中のブドウ糖濃度が高くなること、つまり高血糖になってしまうことです。高血糖が続く状態は糖尿病です。だから、母乳にブドウ糖を含ませるようなことをすると、母親は赤ちゃんが乳離れするまで血糖値が高い状態が続きます。糖尿病の合併症を発症するかもしれません。

だから、ミルクにはブドウ糖をそのまま混ぜるのではなく、ブドウ糖と脳糖を結合させた乳糖にしたのです。

全ての細胞は乳糖を全く利用できず、高濃度でも「無糖状態」に等しいのだ。ブドウ糖であれば人乳でも〇・一四パーセントを超えられないが、乳糖は無毒であるから濃度上で制約を受けない。さらに甘さは蔗糖(砂糖)の約六分の一であり、高濃度でも甘味は弱い。高いブドウ糖の需要に応えるため無毒な乳糖にしたのだが、これも進化の足跡としてよいだろう。
(184ページ)

母体に負担をかけず、乳児に必要な量のブドウ糖を与える。

その2つの目的を達成するために哺乳類は、ミルクに乳糖を混ぜる工夫をしているのですね。

乳離れすればラクターゼは不要

哺乳類の赤ちゃんも、大きくなれば自分で捕食できるようになりますから、やがてミルクを飲まなくても生きていけるようになります。乳離れですね。

乳離れした大人にとって、乳糖を分解するためのラクターゼは不要です。だから離乳するとラクターゼが少なくなり、最後には分泌されなくなります。これは哺乳類に共通していることで、大人になればミルクを飲まないのが哺乳類本来の姿なのです。

ここまで説明すれば、もうわかるでしょう。

牛乳を飲んだ後にお腹が緩くなりトイレに駆け込みたくなるのは、大人になったことでラクターゼの分泌量が減ったり、分泌されなくなったりするからです。これが乳糖不耐症です。

原因は乳糖を消化できない(乳糖不耐症)からである。ラクターゼをなくした成人が牛乳を口にすると乳糖の全てが大腸に達する。浸透圧が高くなることによって便は水分を多く含み、さらに栄養源となって腸内細菌を活発にさせて二酸化炭素と低分子有機酸を発生させる。いずれも下痢と不快感、腹痛の原因となることである。むしろこれが本来の姿で、医学的検査を受けると日本人の大半が乳糖不耐症と診断される。
(191~192ページ)

牛乳を飲んだらお腹が緩くなるのは、単に大人になっただけなのです。乳糖不耐症という言葉には、病気のような印象を受けますが何の問題もないということですね。

ただ、かつての遊牧民には乳糖耐性者が多くいます。これは、牛乳を主たる栄養源とすることで、大人になってもラクターゼが無くならなかった人々が生き残り子孫を残したからだと推測されます。

工夫すれば牛乳から栄養補給できる

牛乳は栄養価が高いので、普段の食生活に採り入れたい飲み物です。しかし、乳糖不耐症の方だと牛乳からの栄養補給が難しいです。

なので、乳糖不耐症の方が牛乳から栄養を補給するには、工夫が要ります。工夫すると言っても特に難しいことではありません。バターやチーズといった加工された乳製品を食べれば良いのです。

バターにもチーズにも、乳糖はごく少量しか含まれていません。チーズだと100グラムあたりで炭水化物が2グラム程度です。乳酸菌で作るヨーグルトの場合は、牛乳と比較して乳糖含有量が3割から4割程度少なくなります。水切りヨーグルトにして食べれば、もっと乳糖を減らせますね。

牛乳に対してアレルギーはないけども、牛乳を飲むとお腹が緩くなるという方は、乳糖を減らした乳製品を食べることをおすすめします。