ウェブ1丁目図書館

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日本左衛門を召し取った徳山五兵衛秀栄を描いた短編時代小説

延享3年(1746年)9月9日に大盗の日本左衛門逮捕の命が、徳山五兵衛秀栄(とくのやまごへえひでいえ)に下ったことから始まる池波正太郎さんの短編小説「秘図」。

この作品は、「賊将」という本の中に収録されています。

始まりが、このような感じだから、五兵衛と日本左衛門との間に繰り広げられる大捕物を想像しながら読んでいたのですが、この部分については、それほど深くは描かれていませんでした。

長い回想場面

五兵衛が日本左衛門逮捕の命を受けた時は、57歳で、この年の5月に火付盗賊改に就任したばかりでした。

日本左衛門は、義賊と称していましたが、実際には大百姓大町人へ押入り、しかも必ず押入先の婦女子を辱めるという三河遠江一帯に30人以上の部下とともに跳梁跋扈(ちょうりょうばっこ)する大悪党。

このまま放置しておけない状況となったので、盗賊改が動き出したわけです。


ここから、どのように日本左衛門を召し取るのか?

ハラハラしながら読み進めていったのですが、作品の大部分は、五兵衛の生い立ちやら、盗賊改配属までの回想場面ばかり。

そして、ページ数も残り少なくなったところで、再び日本左衛門逮捕の場面に戻ってきます。


五兵衛がすくい上げるような抜き打ちを日本左衛門に食らわせます。それをどこかに受けた日本左衛門は、裏手の竹林の闇へ逃げていきます。

それから約4ヶ月後。

日本左衛門は、京の町奉行永井丹波守の役宅へ自首し、その後、江戸へ送られ、市中引き回しの上、獄門となりました。

趣味の絵画

この作品の題名となっている「秘図」は、徳山五兵衛の趣味と関係があります。

五兵衛は、絵画が趣味だったのですが、それは、あまり人には見られたくないような作品でした。

年をとった五兵衛は、書き終わった絵を丸め込んで懐中にしまい厠に行ったとき、それを廊下に落としてしまいます。そして、あろうことか、孫に見られてしまいます。


恥ずかしい思いをした五兵衛は、「もう描くまい」と決心しましたが、30年以上もの習慣となっていたので、惰性で描いてしまいます。

そんな五兵衛も68歳で臨終を迎えます。息を引き取る前に彼は、妻に手文庫の中の書類を燃やしてしまうように言います。今まで描いてきた絵を死後に見られないようにするためです。

妻には、公儀の秘密書類が手文庫に入っていると嘘を言っていました。


五兵衛の死後からまもなくして、妻にも死期がやってきます。

彼女もまた、息子に対して、五兵衛から預かった公議の秘密書類が入っている手文庫を燃やすように言います。さらに息子もまた、亡くなる間際になって、長男に手文庫を焼き捨てるように命じます。

その後、長男が手文庫から中身を抜き出したかどうかは定かではありません。


外ではどんなに立派に振る舞っている人でも、家に帰れば、人に知られたくない趣味の一つや二つはもっているのかもしれませんね。

賊将 (新潮文庫)

賊将 (新潮文庫)