ウェブ1丁目図書館

読書で得ること感じること。ここはウェブ1丁目にある小さな図書館です。本の魅力をブログ形式でお伝えしています。

半歩先を進んでスペシャリストからゼネラリストを意識したケーキ屋さん

スペシャリスト。

この言葉には、特定の分野について深い知識、技術、経験を持っている人というイメージがあります。医師、弁護士、建築家、大工、ソムリエ、板前、漁師などなどスペシャリストと呼ばれる職業はたくさんありますね。

お菓子やケーキを作るパティシエなんかもスペシャリストといえます。

スペシャリストは、その分野で素晴らしい能力を持っていることは事実です。でも、スペシャリストだからと言って、その分野で商売をしたり経営に関わったりしても、必ずしもうまく行くとは限りません。その理由は、いろいろとありますが、多くの場合で共通しているのは、スペシャリストでありすぎてゼネラリストになることを避けていることではないでしょうか。

「いいケーキ」とは何か?

三重県を中心にピネードというケーキ屋さんを数店舗運営する松林久雄さんは、著書の「ここが違う!半歩先を行くケーキ屋。」の中で、「パティシエというスペシャリストの延長線上にケーキ屋というビジネスはない」と語っています。

なぜ?と思いますよね。

パティシエの世界で一流の技術を身に付けて、おいしいケーキを作れるようになれば、お店は繁昌するように思います。さらにグルメ雑誌などで、紹介されれば、さらに売上が増えるに違いないと思います。

でも、腕がいいからケーキ屋さんとして成功するとは限りません。


松林さんは、職場で使わない言葉があるそうです。

その言葉は、「いいケーキ」と「がんばる」です。

「頑張っていいケーキを作る」ことが、ケーキ屋さんの仕事なのに、それを否定しては、お店が繁昌するわけはないと思います。でも、この言葉の背景には、実は、「誰にとって」という言葉を付け加える必要があります。


松林さんは、倒産の危機を経験したことがあります。

その時も、当然、いいケーキを作っていたのですが、「誰にとって」という視点が欠けていました。苦労して習ったケーキを自分の作品展みたいにただ並べていただけだったのです。つまり、当時の松林さんにとって「いいケーキ」というのは、自分にとって「都合のいいケーキ」でしかなかったのです。

また、「がんばる」というのも、ただ体を動かして、毎日くたくたになるまで働き、それに満足感を得ていただけだったのです。

結局、倒産する危機にあった頃の松林さんは、「いいケーキ」も「がんばる」も自分の都合でしかなかったんですね。

ケーキはハッピーな時に食べるもの

ケーキを食べるのは、ケーキを買ったお客さんやそのお客さんからプレゼントされた人です。そして、多くの場合、ケーキを食べる時というのは、お祝い事だとか自分へのご褒美だったりします。それは、一言でいうと、「ハッピー」な時といえます。

それなら、作るべきケーキは、ハッピーな時に食べるものということになりますよね。

  • 誕生日パーティー
  • 自分へのご褒美
  • ウェディングケーキ
  • 食後のデザート


などは、すべてハッピーな時であり、そこには笑顔があります。だから、ピネードでは、お客さんに「笑顔」になってもらうためにケーキを作ってお店に並べて提案するようにしたのです。


また、お客さんがハッピーになるということは、ケーキを食べて豊かさに満足することでもあります。だから、お客さんにハッピーになってもらうためには、売る側が「豊かさ」を持っている方がいいわけです。ハッピーになりたくてケーキを買おうと思っているのに、お店から「豊かさ」が伝わってこなければ、購買意欲が下がってしまいます。

「心が豊か」「感受性が豊か」「表情が豊か」「発想が豊か」「経験が豊か」「知識が豊か」「経済的に豊か」など、豊かさにはいろいろとあります。

豊かさというのは、人から教わるものではありません。それは、日常生活の中で、自分が意識的に豊かにしていこうとしない限り、身に付きません。では、どうやって豊かさを身に付ければよいのでしょうか?

それは、様々な体験をすることです。

①いろんなことに興味を持つ。
②興味を持ったことにはできる限りの情報を集める。
③体験するための、自分の置かれている状況を判断する。
④体験する。
(26ページ)

何かを体験しようと思ったら、どんなに小さなことにでも興味を持たなければ始まりません。また、興味を持っても、それを体験するにはどうすれば良いかといった情報を入手しなければ何もできません。

「興味を持ち情報も入手したら、さあ体験するぞ」となりますが、そこで、自分の置かれている状況を判断する必要があります。体験するために自分本位で仕事を休むと、職場に迷惑をかけますよね。なので、体験する準備ができても、自分の周りの状況に気を配る必要があります。そして、障害が全て取り除かれたところで、いよいよ体験となります。

お店を持つためにはゼネラリストになる

ケーキ屋にとって最も大切なものは何か?

そう聞かれたら、多くの人は腕とか技術が最も大切だと答えるでしょう。確かに腕や技術は大切ですが、それだけでケーキ屋を運営することはできません。その他の能力も必要になります。

ケーキを作る(技術力)
ケーキを売る(接客力)
ケーキ、パッケージなどを企画する(企画力)
売上や仕入れなどの数字を読む(分析力)
新しいものを生み出していく(クリエイティブ力)
ケーキ、パッケージ、お店の内装、ディスプレー、BGMなどを整える(プロデュース力)
人の上に立ってまとめる(統率力)
ものごとを決める(決断力)
あとは時代感覚や美的センスなどなども・・・・・
(29ページ)

これらすべてのことができなければ、ケーキ屋さんを経営していくことはできないんですね。

でも、多くの人が技術力を磨くことばかりに力を入れています。ピネードでも、以前に腕のいいパティシエをシェフに迎えたことがあったのですが、こういった視点が欠けていたそうです。

彼に「売上を上げれるケーキを考えて」って言うとめちゃくちゃ手の込んだ「彼にとって都合のいいケーキ」をプレゼンしてきます。
当然経費がかかる割には一向に売上が上がらない。
しつこく売上を上げろと言うと、まるで「金のもう者かっ!お前」って目で僕を見る。
手の込んだ「自分にとって都合のいいケーキ」を作っていくと原価と人件費が上がってくるので、「製造原価を考えて」と言うと、材料のクオリティーを下げてくる。
だから「それじゃお客さまを裏切ることになるよ」って言うと業者さんをたたく。
これって良くある話じゃないですか?
僕はこういう知恵を使わないで弱い立場の人を泣かせるのは大嫌いなのでそのシェフは辞めてもらいました。
ここで言いたいのは、
今まで技術を身につけることだけを「目的」としていたので、先に言った技術力以外の力が必要だと言うことに気付いていない。
気付いていてもないがしろにする人が多い。(30~31ページ)

この部分を読めばわかりますが、どんなに技術があっても、お客さんが何を求めているのか、どれくらいの予算で買ってもらいたいのかといった視点がなければ、売上が上がらないのです。

ピネードがターゲットとしている客さんはどういった人なのか?そして、そのターゲットの人たちが喜ぶケーキとは何なのか?

そういったことがわかるようになるためには、自分の豊かさを磨くこと、つまり、様々な体験が必要になるということです。それは、言葉を変えれば、ゼネラリストを目指すということになります。


最近では、スペシャリストが優れていて、ゼネラリストはダメだという意見が強くなっています。昔ながらの日本企業が、苦戦していることがその背景にあるのでしょう。

でも、組織がどういう方向に進めばよいのかを判断するためには、組織全体のことを万遍なく知っておかないと難しいでしょう。それは、大きな企業でも町の小さなケーキ屋さんでも同じです。


松林さんは著書の中でこんなおもしろいことを述べています。

スペシャリストとゼネラリストが合い交えるのって難しいんですよね。
職人気質が邪魔をしてしまうんですよ。
未だに僕もそういうがあります。
そんな時はこんなことを自問自答します。
マクドナルドよりもおいしいハンバーガーは作れるか?」
もちろん「YES!」ですよね。
それじゃあ「マクドナルドと同じようなビジネスが出来るか?」
「ん~・・・・・NO」です。(174ページ)

この質問、なかなか奥が深いですよね。

「自分は、うまく行ってるお店よりも優れたモノを作れる。でも、売上やお店の規模では、圧倒的に負けている。」


チェーン店の居酒屋より美味しい料理を作るお店はたくさんあります。
ファミレスのパスタよりも美味しいパスタを作るお店はたくさんあります。
牛丼チェーンよりも美味しい牛丼を作れるお店はたくさんあります。


でも、これらの多くのお店が、売上や規模では、自分よりも料理の質で劣っている有名店に負けていますよね。

その差は、スペシャリストから半歩進んでゼネラリストへの転換ができたかどうかということなのではないでしょうか?


もちろん、僕は、スペシャリストであり続けることを否定するつもりはありません。