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ウェブ1丁目図書館

読書で得ること感じること。ここはウェブ1丁目にある小さな図書館です。本の魅力をブログ形式でお伝えしています。

観客動員数を減らさないためにスターシステムを採用しない

映画、ドラマ、演劇など、お客さんにお芝居を見せる商売があります。

こういったお芝居を見ていると、ある共通点に気づきます。それは、人気のある役者さんが主役になっていることです。当然と言えば当然なのですが、こういう起用の仕方をしていると、そのお芝居は、人気の役者さんが降板したと同時に見る人が一気に減ってしまいます。

だから、何年も続くドラマの場合は、役者を変えずに主役として起用し続けます。例え、主役の設定年齢とかけ離れた年齢になっていても、主役を演じる役者を変えずにドラマは続いていきます。でも、これってちょっと違和感がありますよね。やっぱり、設定年齢と同じくらいの年齢の役者さんを使う方が、物語自体を楽しむことができると思います。

こういった人気の役者さんを主役に起用することをスターシステムといいますが、これを採用していない劇団があります。それは、キャラメルボックスです。

世代交錯で次々と変わる主役

キャラメルボックス加藤昌史さんの著書「拍手という花束のために」によると、同劇団はスターシステムを選択せず、世代交錯で、主役を演じる役者さんをその時によって変えているとのこと。

スターシステムを選択しなかった理由は、劇団設立当初、演劇経験者が4人しかいなかったという理由がありました。他にも紆余曲折があって、公演のたびに次々と主役を演じる役者さんを変えていくことになるのですが、それが功を奏して、中堅や若手が着々と育っていきます。

そうやって育っていったのが、上川隆也さんでした。


上川さんが、ドラマ「大地の子」への出演が決定すると、その穴を埋める役者さんを起用する必要がありましたが、この時、キャラメルボックスでは、経験の浅い役者さんを主役に選ぶことにしたのです。

普通なら、経験のあるベテランの役者さんを選ぶはずですが、そのようにしなかったのには理由があります。それは、他の劇団がスターと呼ばれる役者さんが抜けるごとに動員を減らしていく姿を見ていたからです。加藤さんが、「劇団として一生やっていくためには」ということを考え続け、そして、たどり着いたのが世代交錯だったのです。

普通だと「世代交代」が行われていくのが、劇団という生きもの。スターが歳を取っていくと、だんだん若手が主役をやるようになっていって、スターは脇に回ったりテレビにいっちゃったり。そうすると、昔から観ている人たちは離れていき、劇団の動員数は減っていく、という現象を生むわけです。(27ページ)

組織が長く続くためには、特定の構成員に依存していては難しいですよね。何より、特定の構成員にばかり大きな仕事をさせていては、他の構成員が育たなくなってしまいます。

組織という大きな視点で見ると、スターシステムの選択は、その存続に大きなリスクを負っていると言えるでしょう。

史上初のハーフタイムシアター

僕は、演劇を見に行ったことがありません。

小学生や中学生の頃に学校に劇団がやってきて、観覧したことはありますが、自分でお金を払って見に行ったことはありません。なので、演劇のことは詳しく知りませんが、数少ない経験の中では、上演時間は2時間程度だったと思います。

どの演劇の上演時間も大体2時間程度なのですが、キャラメルボックスは、上演時間が45分という史上初のハーフタイムシアターを企画しています。

事の発端は、劇場側から「劇場が1週間空いちゃったから使ってくれない?」という依頼からでした。

期間が短いのでお客さんを収容しきれない分、1日1ステージしかやらないところ2回やればいいのではないかという発想から、それなら上演時間を半分にしたらどうなるかということを思いついたそうです。それまで、ハーフタイムシアターなんて、どこもやっていなかったので、演劇界からは「上演時間を区切ることに何の意味があるのか」「”企画で”キャクを呼ぼうとするなんて言語道断」などとケチョンケチョンに言われました。


でも、そんなことにはへこたれず、加藤さんたちキャラメルボックスはハーフタイムシアターをするために準備を進めていきます。

なんだかわかりませんが、誰もやっていないことに挑戦しようとしているということと、「45分」という時間が、例えばサッカーのハーフタイム、例えば高校の授業時間、例えばテレビドラマのCMを抜いた時間、などなど、いろんなものと符合していることがわかってくるにつれて、いまだ体験したことがない領域に足を踏み入れた興奮いっぱいだったからなのかもしれません。(123ページ)

このハーフタイムシアターは、上演時間が半分で、チケット代も半額ということもあり、気軽に演劇を見ることができるということで、今まで演劇を見たことがない人たちが、劇場に足を運ぶようになりました。

そして、観客動員数は2,703人とまずまずの成功をおさめます。さらに次の公演では3,437人、次の次は3,900人と観客動員数が増え、1年後には6,015人と、当初の2倍にまで増加したのです。

何事も、やってみなければ結果はわからないという良い事例ですね。

上演中は携帯電話の音が鳴らない

ハーフタイムシアターの例でもわかるようにキャラメルボックスは、お客さんが興味を持ったり楽しんだりするような企画を実行しています。

その中のひとつが、「携帯電話チェックタイムのテーマ」です。


映画館などに行くと、必ずと言っていいほど、上演中に携帯電話の音が鳴りますよね。鑑賞中のマナーとして携帯電話の電源は切っておくものですが、うっかり電源を切り忘れる人もいるので、なかなかこういったことはなくなりません。でも、キャラメルボックスの演劇中は、4万人を動員するというのにツアー全体で1回鳴るかどうかだそうです。

携帯電話が普及し始めた時は、割とマナーを気にして電源を切っていたのですが、完全に普及しきった現代では、うっかり電源を切り忘れる人の数が多くなっています。映画館などでも、上演前に電源を切るようにアナウンスされますが、それでも、上演中に1回は携帯電話が鳴っているのではないでしょうか?

そこで、加藤さんは、携帯電話の電源を切ってもらう良い方法はないかと考え、「携帯電話チェックタイムのテーマ」を完成させました。歌詞の内容は、上演中は携帯電話をやめるようにといった単純なものだったのですが、これを上演前に流したところ、効果が抜群で、以来、数ステージに1回しか携帯電話が鳴らなくなったそうです。


これが他の劇団にも伝わり、どこでも携帯電話について、ユニークな注意をするようになったということです。

どこでも使っている録音された決まり文句を毎回、上演前に流すだけでは、お客さんも聞き飽きているので効果がありません。こういった小さなことでも、自分たちで工夫してオリジナルのものを作れば、既製品を使うよりも良い成果を上げることができるんですね。


ハーフタイムシアターにしろ携帯電話チェックタイムのテーマにしろ、特定の人に頼るスターシステムを採用していないから思いつくのではないでしょうか?

スターがいれば、それだけで観客を動員できますからね。他の劇団員もスターがいた方が楽でしょう。でも、それだとスター以外に魅力のない組織になってしまいます。

組織全体の存続を考えるなら、加藤さんが言う世代交錯、すなわち、組織の構成員が様々な仕事を経験する仕組みを作っておくほうが良いでしょうね。

拍手という花束のために

拍手という花束のために

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