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ウェブ1丁目図書館

読書で得ること感じること。ここはウェブ1丁目にある小さな図書館です。本の魅力をブログ形式でお伝えしています。

もしも昔の人が科学的という言葉にとりつかれていたら発酵食品は生まれなかっただろう

食文化

僕は、発酵食品が好きで毎日食べています。

納豆は昼と夜に食べていますし、チーズは朝に、ヨーグルトは夕食後に食べています。他にも鰹節、キムチ、漬物も食べます。味噌や醤油も口にする機会が多いので、もはや、僕の食生活から発酵食品を抜いてしまうことはできません。

おそらく僕だけでなく日本人、いや世界中の人々が発酵食品の恩恵を受けているはずです。

小泉武夫さんの著書「発酵食品礼賛」によると、乳を発酵させた食品を人類が口にしたのは、今から6千年ほど前だそうです。そんな昔から発酵食品があったことに驚くとともに、僕の頭の中には、もしも現代人が発酵という現象を目の当たりにしても、発酵食品は生まれなかったのではないかという疑問が浮かび上がってきました。

乳の発酵は偶然に

ところで発酵とはどういうことなのでしょうか?

これについては、小泉さんがわかりやすく説明しています。

微生物、またはそれらの酵素が、人間にとって有益な物質を造りだしたり有効な手段となったりする事(9ページ)

微生物によって何かしらの物質が作られるという点で、発酵は腐敗と同じです。でも、人間にとって有益なものを発酵ということから、同じような現象が起こっても、それが人間に不利益を与える場合は腐敗となります。


最初に乳の発酵食品を口にしたのは、中央アジアの草原の遊牧民だったと考えられています。

彼らは、ヤギやヒツジといった偶蹄反芻動物を飼いならし、家畜として飼育するようになりました。後に牛や馬も家畜化していきます。

遊牧民たちは、偶蹄反芻動物の大きな乳房に注目し、そこに大量のミルクが保存されていることを知ります。そして、そこからミルクを絞り出し、飲むようになったんですね。

彼らが、最初にミルクを飲んでから発酵を知るまでにそう長い月日は必要ありませんでした。絞り出したミルクが、しばらくするとドロドロとしたヨーグルトのような状態に変化したからです。

もちろん、この時は、発酵はおろか微生物の存在も知られていません。つまり、彼らは、偶然、発酵したミルクを口の中に入れたわけです。

ヨーグルトからチーズへ

ところで、なぜ、ミルクが発酵したのでしょうか?

それは、家畜の乳房の周りに発酵に欠かせない乳酸菌が付着していることが理由です。ミルクを絞り出す時、どうしても乳酸菌が、その中に入ってしまいます。乳酸菌が入った状態で、しばらく放置していれば、ミルクがやがてブヨブヨし始めます。これが発酵ですね。

おそらく、ミルクを絞って1日も経たずに発酵していたのではないでしょうか?

もしも、同じようなことを日本でやってたとしても、ミルクは発酵しなかったでしょう。なぜなら、日本の風土は湿度が高いからです。中央アジアのような湿度が低い砂漠気候的風土だったからこそ、発酵できたのです。


特定の微生物が増殖するためには、他の種類の微生物に邪魔されてはいけません。微生物間の優位性は、いかに早く増殖するかで決まります。一定の広さの中で、先に多く増殖した方が勝つのが微生物界の掟。

日本の風土と比較して、中央アジアは大気中の乳酸菌の数が多いので、他の微生物に邪魔されにくい環境が整っており、ミルクの発酵が何の努力もなく起こったんですね。


さらに最初にできたヨーグルトのようなものを食べていると、2~3日後には、固体と液体に分離し始めました。棒のようなものでグルグルとかき混ぜてみると、ますます固体と液体に分離します。そして、固体の部分だけを食べてみると、これが、とてもおいしかったんですね。この時にできたのがバターです。

そして、発酵したミルクに彼らは塩を加えて食べ始めます。そう、これが、チーズの原型になったのです。

理屈がわからないことに手を出すだろうか?

さて、冒頭で述べたように、もしも、現在まで発酵食品というものが、この世になかった場合に、誰かが発酵したミルクを見た時、果たして、それを食べたでしょうか?

僕は、食べないと思うんですよね。また、食べたとしても、すぐに危険だという人が現れて食べるのを中止すると思います。


なぜ、そう思うのかというと、現代人は、「科学的」という言葉にとりつかれているからです。

発酵という現象が解明されていない状況で、理論的に食べても安全かどうかを説明しろと言われても、そんなことは無理です。そして、理屈を説明できないものは、おかしなものと考える傾向が強い現代人は、そういったものを敬遠します。


特に専門家と呼ばれる人たちにこの傾向は強いでしょう。

発酵食品を長期間食べて体に何の悪影響も出ていない人がいたとしても、自分たちがわからないことは危険なことなんだと言って権威を守ろうとするかもしれません。そして、「今は健康被害が出ていなくても、長期的予後は保証できません」なんてことを言いだすかもしれません。

また、こういうことを主張する専門家に限って、昔から慣習として根付いていることに関しては、科学的に間違っていたとしても、何の疑問も持たずに受け入れてるんですよね。


理屈よりも目の前で起こっている事実を直視することが重要なことなのに、「科学的」という言葉が広まるにつれて、事実よりも理屈の方が重視されるようになっているのが、現代の日本や先進国のような気がします。

例え、理屈は分かっていなくても飛行機は空を飛んでいるという事実は否定することはできません。

発酵により栄養補給が容易に

話しは変わります。

人類は発酵によって多大な恩恵を受けています。特に栄養補給という面で、我々人類は微生物の力に頼るところが大きいですね。

原料乳に比べチーズは消化吸収が著しくよくなっている。原材料がキモシンで凝固されているからタンパク質や脂肪成分が濃縮された形で摂取でき、さらに発酵によってそれが非常に消化吸収のよい形に変化しているので栄養効率は理想的なほど高くなっている。(38ページ)

また、チーズだけでなく日本の発酵食品を代表する糸引き納豆も、煮たり炒ったりした大豆よりも格段に栄養の吸収が良くなっています。

糸引き納豆の栄養価としての最大の特徴は、豊富なタンパク質にある。全体の約十七%がタンパク質で、遊離のアミノ酸(ほとんどが必須アミノ酸)も発酵前の大豆に比べて比較にならないほど増加しているので、栄養価が極めて高いことになる。(65ページ)

現代人は、微生物のことを雑菌とか、ばい菌という言葉を使って毛嫌いしていますが、こうやって見ると、良い奴らが多いんですよね。

人間が引き起こした環境汚染も微生物が浄化してくれているのですから、もっと、彼らをかわいがってあげる必要があります。

発酵食品礼讃 (文春新書 (076))

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