ウェブ1丁目図書館

読書で得ること感じること。ここはウェブ1丁目にある小さな図書館です。本の魅力をブログ形式でお伝えしています。

抗生物質は使ってない状態が最強。とりあえず処方されると危険。

体調を崩して病院に行き、その原因が細菌感染だとわかると抗生物質が処方されることがあります。

昔は感染症で命を落とす人が多かったのですが、抗生物質の発明で感染症による死者数は激減しました。日本が世界一の長寿国となったのは、感染症による死者数が減ったことも一因と言われていますね。

結核にかかれば死を宣告されるようなものだったのですが、抗生物質の登場以来、もはや結核は不治の病ではなくなりました。まさに抗生物質は魔法の薬だったのです。

しかし、抗生物質が魔法の薬であることから、やがて魔法が解けて効かなくなることも知っておく必要があるでしょう。

風邪に抗生物質を使う理由があるのか?

感染症を専門としている医師の岩田健太郎さんは、多くの国で抗生物質が間違った使われ方をしていると、著書の「99.9%が誤用の抗生物質」で警鐘を鳴らしています。

例えば風邪。

風邪はウィルス感染だから細菌をやっつける抗生物質は不要とする医師もいれば、風邪でも細菌感染が原因のこともあるから抗生物質を使うべきだとする医師もいます。

どちらの見解が正しいか考える時、岩田さんは対象とすべきが「モノ」ではなく「コト」でなければならないと述べています。上記の例では、どちらの医師もウィルスや細菌といった「モノ」を前提に治療を行おうしていますが、「現象」、つまり、「コト」である病気が良くなることを目標として治療するのが、医師の本来の役割です。

2005年に、イギリスのコクランセンターが、かぜに対する臨床研究を集めてまとめています。大人においても子どもにおいても、かぜに抗生物質を出した群と、出さない群を比較したとき、症状の改善には差が見られませんでした。
(36ページ)

風邪が仮に細菌感染によって引き起こされたとしても、抗生物質を投与した場合としなかった場合で症状の改善に差がなければ、処方する必要はないでしょう。無駄な費用、副作用の危険性まで考慮すれば、風邪に抗生物質を使う意味はなくなります。そして、岩田さんも、風邪に抗生物質を使わないとのこと。

演繹法よりも帰納法

抗生物質に限らず薬を使用する場合、その薬が症状の改善に役立つかどうかが最も重要です。

しかし、日本では長らく薬が本当に効くかが実証されないまま投与されてきた歴史があります。その理由の一つに日本の医学がドイツ医学の流れを受けていることが考えられます。

岩田さんによると、ドイツ医学の流れは伝統的にドイツ観念論の影響を受けているのではないかということです。つまり、徹底的に考えて考えて考え抜く演繹法によって答えを導き出すという考え方が背景にあるから、本当に薬が効いたのかどうかが明らかにされてこなかったのではないかと。

これに対して、イギリスやアメリカはどちらかというと帰納法によって結論を導き出す傾向にあります。まず現実世界を観察する。そして、そこから立ち返って理論や法則を見出すというのが帰納法です。

よく数学は、途中の式が答えよりも重要だと言われます。おそらく、多くの方が中学校でそう習ってきたのではないでしょうか?

しかし、この考え方に強く縛られていると、結果を観察することがおろそかになります。考えて考えて考え抜いて導き出した結論であれば、例え良い結果が出なくても仕方がないとして、現実に起こっていることを無視していては意味のない薬の処方が後を絶たないでしょう。

実証は、治療した群と治療しない群を比較した臨床試験によって行われるのですが、長く日本では、このような比較試験を「非倫理的」として認めてきませんでした。
その理由は、そこに治療薬があるのに、それを使われない群が設定されるのは、倫理にもとる、というわけです。その治療薬が効くかどうか分からないのに、患者さんに使うほうがよほど非倫理的だとぼくは思いますが。
(180~181ページ)

風邪や気管支炎は、何もしなくてもそのうち治ります。

しかし、患者が病院に行き医師に処方された抗生物質を飲んで、3日程度で治ってしまうと、あたかも薬が効いたと患者は思います。そして、医師もそう信じます。だから、風邪や気管支炎に抗生物質が本当に効いたのかどうかが明らかにされないまま、次から次と抗生物質が処方されるようになったのです。

副作用ではなく不必要な人へ薬が投与されることが問題だ

どの薬にも副作用があるものです。

それは仕方のないことです。だからと言って、副作用を無視していいわけではありません。例えば、アジスロマイシンという薬は1万回出すと1人が心臓が原因で死んでしまいます。1万分の1の副作用なら大したことないと言えるかもしれません。むしろ99.99%の患者に効果があるのなら、アジスロマイシンを使った方が有益です。

問題なのは、抗生物質が風邪や気管支炎のように何の利益も得られない症状に対して投与されることです。薬に症状を改善する効果が全くない、あってもほんの少しだけといった病気に対して、不必要に薬が使われると副作用で死に至る危険性が高くなります。

風邪のようだからと言って、とりあえず処方された抗生物質を服用することはリスクテイクにしかならないことを理解すべきです。そして、病院に行ったら必ず薬を出してもらうという考え方は捨てるべきです。

抗生物質は使えば使うほど効きにくくなります。その理由は、細菌が抗生物質に耐性を持つからです。安易に抗生物質が投与され続けると、やがて、耐性菌だらけとなってしまうでしょう。もし、そうなったら抗生物質が発明される以前のように感染症で命を落とす危険性がきわめて高くなります。

居合の達人は刀を鞘に収めている状態が最も隙がなく強いと言われています。一度、刀を抜けば隙ができ、そこを狙われると居合の達人でも防ぐことができないと。

抗生物質も居合と同じで、使われていない状態が細菌に対して最も効果があるのではないでしょうか?

古い抗生物質ほど副作用に対応しやすい

薬は新薬の方が効果があると思ってしまいます。おそらく、古い薬よりも症状を改善する効果は高くなっているでしょう。

しかし、副作用に関してはデータがきわめて少ないので新薬の方が古い薬よりも危険だと言えます。

岩田さんは、そういった理由からペニシリンのような古い抗生物質を使うようにしているそうです。歴史のある抗生物質であれば、多くの副作用のデータが集まっていますから、今後、新しい副作用が見つかる可能性が低いです。また、副作用が出ても、その対処法がわかっていますから不測の事態が発生する危険性も低いです。

したがって、副作用の観点からは古い薬がベターの選択となり得るのです。


製薬会社は利益を上げなければならないので、新薬を開発して売らなければなりません。古い薬を売ることもできますが、薬価が改定されて安くなっていきますから、どうしても新薬を売ろうという動機が強く働きます。

医師が製薬会社の営業マンに言われるまま新薬を処方し、患者がそれを有り難がっていると、薬の消費量がどんどんと増え、それにしたがって副作用で苦しむ人が増えていきます。耐性菌の増加も懸念されます。

このような悪循環を断ち切るためには、病院で風邪と診断された患者が、安易に薬の処方を求めないことが大切なのではないでしょうか?

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