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ウェブ1丁目図書館

読書で得ること感じること。ここはウェブ1丁目にある小さな図書館です。本の魅力をブログ形式でお伝えしています。

世の中に男性が存在するのは遺伝子の絶滅を回避するためのリスク分散が理由か?

生物

一つのバスケットにたくさんの卵を盛るな。

これは、投資の世界でよく聞く格言です。例えば、株式に投資する場合に1銘柄に全財産をつぎこむと、その銘柄が暴落した時に取り返しのつかない巨額の損失が発生します。5銘柄なり10銘柄なり複数銘柄に分けて投資すれば、1銘柄の時価が暴落しても全財産を失うことはありません。

また、複数銘柄に投資するとリスクを打ち消し合う効果が期待できます。雨の日に売上が伸びる企業と晴れの日に売上が伸びる企業のそれぞれの株式に投資しておけば、天候による収益や利益の増減が相殺され、2銘柄を合計すると株価も安定します。

アリマキはメスがいれば子孫が残る

さて、人間に限らず生物の多くの種に男女がいます。ご存知のように人間は女性が子を産みますが、男性もいなければ子孫を残せません。しかし、本来、女性だけがいれば子孫を残すことは可能でした。それなのに男性が誕生したのはなぜなのでしょうか?

分子生物学を専門とする福岡伸一さんが、著書の「できそこないの男たち」の中で、アリマキという小さな虫の繁殖について解説しています。アリマキはとても繁殖力が高いのですが、それは福岡さんによると、アリマキの世界が基本的にメスだけで成立しているのが理由なのだそうです。

メスのアリマキは誰の助けも借りずに子どもを産む。子どもはすべてメスであり、やがて成長し、まだ誰の助けも借りずに娘を産む。こうしてアリマキはメスだけで世代を紡ぐ。しかも彼女たちは卵ではなく、子どもを子どもとして産む。
(173~174ページ)

アリマキが、メスだけで繁殖できるのも驚きですが、彼女たちの子が母の胎内にいる間にも子を宿せる点はさらに驚愕です。つまり、アリマキは、マトリョーシカのような「入れ子」状態になっているのです。人間は、男女が出会わないと繁殖できません。アリマキが母の胎内にいる間も自らの体の中に子を宿せるのは、メスだけで繁殖が可能だからなのでしょうか。

カスタマイズされたメス

アリマキの世界は基本的にメスだけで成り立っていますが、オスが全くいないわけではありません。

冬が近づき気温が下がってくると、アリマキのメスはこれまでと違ったやり方で子を生みます。この違ったやり方で生まれてきたアリマキが、オスなのです。では、どのようにしてアリマキはオスを生むのでしょうか?

アリマキのオスは、メスを作り変えてできます。つまり、オスも基本仕様はメスと同じなのです。しかし、オスはメスと違って不完全な状態で生まれます。アリマキのメスの染色体がXX型なのに対して、オスの染色体は1ヶ所だけX染色体が1本少ないX型(XO型)となっています。この部分的にX染色体が欠落しているアリマキがオスなのです。

冬が近づいた時にだけ登場するオスのアリマキは、メスのアリマキと交わります。そして、メスのアリマキは子を生むのですが、生まれてくる子は全てメスです。メスのアリマキだけで生んだ子と姿形は同じです。オスのアリマキがいようといまいと、生まれてくる子に変化がないのですから、オスの存在価値はないと言えそうです。

メスだけでは1銘柄への集中投資になってしまう

アリマキは、メスだけで繁殖した方が効率的です。わざわざオスのアリマキと出会う手間がかからないのですから。アリマキのメスだって、人間の女性と同じように経済力のある異性や容姿端麗な異性と結婚したいと考えていれば、なお両性の出会いは厳しいものとなるはずです。

ここで、もう一度、株式投資を思い出しましょう。雨の日に売上が伸びる企業と晴れの日に売上が伸びる企業の両方に投資すれば、雨が降ろうが晴れようが運用益が安定しやすくなります。でも、高い収益性を追求するのであれば、1銘柄に集中的に投資すべきです。この先数ヶ月間、全く雨が降らないと予測できれば、晴れの日に売上が伸びる企業の株式だけを買った方が多くの運用益を得られます。

しかし、いつ雨が降るかわからないから、運用益が少々減ったとしても安全性を重視して、雨が降ると売上が伸びる企業の株式にも投資しておくのです。

投資家が全財産を失わないように分散投資するのと同じようにアリマキも自分の遺伝子が途絶えないようにオスを作り出しているのかもしれません。

例えば、アリマキには以下の4つの特徴を持つ個体が存在していたとします。

  1. 暑さに弱いアリマキ
  2. 寒さに弱いアリマキ
  3. 乾燥に弱いアリマキ
  4. 湿気に弱いアリマキ


1番目のアリマキは猛暑が到来すると全滅してしまいます。反対に2番目のアリマキは寒波の到来で全滅します。また、寒波と同時に空気の乾燥も激しくなれば3番目のアリマキも全滅するでしょう。梅雨が長引きジメジメとした日が例年よりも多くなれば、4番目のアリマキだって死に絶えるかもしれません。

もしも、暑さに弱いアリマキが寒さには強く、寒さに弱いアリマキが暑さに強かったらどうでしょうか。この場合、お互いの利点を交換できれば、猛暑がやってきても寒波がやってきても生き延びることができます。

先ほど、アリマキは冬が近づくとオスを生むと述べました。そして、メスのアリマキはオスのアリマキと出会い子を生むとも述べました。暑さに弱く寒さに強いアリマキのメスが、寒さに弱く暑さに強いアリマキのオスと出会い子を生むと、その子は両親から暑さにも寒さにも強い特徴を受け継ぐ可能性があります。もちろん、その逆もあり得ます。

オスが存在しない世界では、メスは自分の特徴をそのまま子に渡します。その子もまた同じ特徴を子に渡します。暑さに弱い特徴はずっと引き継がれていきますから、いつか猛暑が到来した時に全滅するでしょう。ところが、暑さに強いメスから生まれたオスが、寒さに弱いメスと出会えば、その子はオスの親から暑さに強い特徴を受け継ぐことができ猛暑になっても生き残れます。

メスだけでやっていける世界にオスを作り出す利点は、リスク分散、すなわち絶滅の回避にあると言えるでしょう。


しかし、このようになぜを問い続け結論を出すことには慎重でなければなりません。福岡さんは、「生物学は、生命現象のふるまい方(HOW)については語れても、生命現象のなぜ(WHY)は語れない」と述べています。

人間が食事をする理由、人間が2足歩行する理由、人間が寝る理由など、生命現象のなぜ(WHY)についていろいろと語られますが、それらは仮説でしかありません。ある仮説を権威者が唱えれば、多くの人が、それを真実だと思うようになります。その仮説が常識として定着した後に新事実がわかっても、先の仮説が間違いだったと社会が認めるまでには長い時間がかかります。

HOWを知ることは事実を知ることになります。でも、WHYを問い続けても事実にたどり着けるとは限りません。強引に理由付けするくらいなら、事実だけを知って「なぜ」を問わない方が、後々大きな誤りを犯さなくて済みそうです。

できそこないの男たち (光文社新書)

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