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合計特殊出生率って何だ?計算の仕組みを簡単に解説してみる。

わが国の少子化が進行していると言われ始めて随分と長い期間が経っていますね。

何をもって少子化というのかは、いろいろとあるでしょうが、最も有名なのが出生率の低下です。近年、出生率がジワジワと低下しているので、日本の人口は数十年後には今の○分の1になるとか何とか言われていますね。

ところで、出生率がどのように計算されているのかご存知でしょうか?

ただ、厚生労働省が発表している数字だけを見て、女性が出産する子供の数が減っているんだと、鵜呑みにするのではなく、どのような計算過程で出生率が算出されているのかを知っておくのは、有意義なことだと思います。

ということで、厚生労働省が公表している2012年の人口動態統計の資料を基に出生率を計算してみましょう。

手始めに普通出生率を計算してみる

出生率の計算にあたっては、清水誠さんの著書「データ分析 はじめの一歩」を参考にします。

出生率で最も簡単に計算できるのが、普通出生率です。普通出生率は、ある年に誕生した赤ちゃんの数(出生数)を日本の全人口で割って計算できます。2012年の出生数は1,037千人、日本の人口は125,957千人なので、普通出生率の計算は以下のようになります。

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2012年の我が国の普通出生率は、0.01人です。


普通出生率の計算式の分母は我が国の総人口なので、男性も含まれています。出産は女性がするものなので、普通出生率を計算しても、それほど意味のあることではありません。なので、分母には、女性だけを持ってきた方が良いですね。

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女性だけを対象にした出生率は、0.02人となりました。しかし、これでもまだデータとしてはイマイチです。なぜなら、子供や高齢者は出産しないのに計算式から除外されていないからです。だから、女性の全人口から子供と高齢者を除いた15歳から49歳の女性の人口を分母に持ってきた方が、現実に即した出生率になるといえます。

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この計算結果から、2012年の出産可能な女性世代を対象とした出生率は0.04人となりました。

ある年だけを対象に出生率を計算しても意味はない

上の計算で2012年の出生率が0.04人となりましたが、この数字は、あまり役に立ちそうにないですよね。

なぜなら、女性は2012年にだけ出産するわけではないからです。もしかしたら、計算の対象となった女性の中には、2013年以降にも出産する人がいるかもしれませんし、2011年以前にも出産していたかもしれません。


出生率を計算する重要な目的は、将来の我が国の人口がどのように推移するのかを予測することにあります。2012年に生まれた赤ちゃんの数を15歳から49歳の女性の数で割っただけでは、そのような予測は困難です。将来の人口がどのように推移するかを予測しようと思うなら、一人の女性が一生の間に何人の子供を出産するかといった情報が得られなければ意味がありません。

そのような情報を提供するのが、厚生労働省が発表している合計特殊出生率です。

期間合計特殊出生率を計算してみよう

合計特殊出生率は、「一人の女性が一生の間に生む子どもの数」のことです。

厚生労働省が公表している合計特殊出生率は、期間合計特殊出生率と呼ばれているものです。期間合計特殊出生率は、まず、15歳から49歳までの女性を5歳間隔でグループ分けし、グループごとにある年に何人の赤ちゃんを出産したかを計算します。そして、計算されたグループごとの出生率を合計して、一人の女性が一生の間に産む子供の数とするものです。

以下は、厚生労働省が公表している2012年の世代別の女性の人口と出生数です。

世代別の女性の人口(単位:千人)

  • 15~19歳=2,913
  • 20~24歳=2,960
  • 25~29歳=3,354
  • 30~34歳=3,756
  • 35~39歳=4,556
  • 40~44歳=4,591
  • 45~49歳=4,005

世代別の出生数(単位:千人)

  • 15~19歳=13
  • 20~24歳=96
  • 25~29歳=292
  • 30~34歳=368
  • 35~39歳=225
  • 40~44歳=42
  • 45~49歳=1


上のデータを基に計算した5歳階級別の出生率は以下のようになります。

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上記の計算は、各グループ5歳刻みで行っているので、さらに各数値を5倍する必要があります。そして、その数値を合計すると、期間合計特殊出生率となります。

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計算結果は、1.40人です。厚生労働省の公表値が1.41人なので、ほぼ一致していますね。厳密には、上記の計算結果は1.404人で、厚生労働省の公表値は1.405人ですから、ほとんど変わりません。

一人の女性が一生の間に産む子供の数と言えるか

上記の期間合計特殊出生率の結果が、一人の女性が一生の間に産む子供の数ということになります。

簡単に説明すると、15歳~19歳の間に0.022人、20~24歳の間に0.162人、25~29歳の間に0.436人、30~34歳の間に0.490人、35~39歳の間に0.247人、40~44歳の間に0.046人、45~49歳の間に0.001人の子供を産んでいき、平均すると一生の間に1.404人の子供を産むということです。


期間合計特殊出生率は、15歳から49歳の全女性を一人の女性と仮定しています。すなわち、それぞれの年代になった時に産む子供の数を合計して、一生の出生数としているのです。

でも、この考え方は、ちょっと変ですよね?


期間合計特殊出生率の計算に用いる出生数は、ある年の出生数なので、過去や未来の出生数を無視しています。また、時代の風潮によって早く出産したり、遅く出産したりということがありますが、そういった傾向も無視しています。2012年の25~29歳の出生数が0.436人となっていますが、数年後にベビーブームが到来して2倍の0.872人になるかもしれません。でも、そういった可能性も無視しています。

コーホート合計特殊出生率が正確な出生率

合計特殊出生率には、期間合計特殊出生率の他にコーホート合計特殊出生率もあります。

コーホート合計特殊出生率は、厚生労働省の人口動態統計によると、「ある世代の出生状況に着目したもので、同一世代生まれ(コーホート)の女性の各年齢(15~49 歳)の出生率を過去から積み上げたもの」ということになります。

例えば、1950年生まれの女性が50歳になった時に何人の子供を生んだのかを平均したものがコーホート合計特殊出生率です。1951年生まれ、1952年生まれと各世代ごとに50歳に達した時、出生率を出すので、正確な数値といえます。

なお、厚生労働省が公表した2012年の45~49歳世代のコーホート合計特殊出生率は1.62人です。この世代の女性が50歳以降に出産しなければ、確定した出生率になりますね。


このように正しい合計特殊出生率を知ろうと思うなら、コーホート合計特殊出生率を用いるしかありません。

しかし、コーホート合計特殊出生率がわかったとしても、それは国の政策には、あまり役立たないでしょう。なぜなら、少子化対策をすすめようとするのであれば、出産可能な年齢の女性に積極的に子供を産んでもらうためには、どうすれば良いかということを考えなければならないからです。

コーホート合計特殊出生率がわかったところで、計算の対象となった世代の女性たちは出産可能年齢を過ぎているので、出産をお願いすることは無理ですよね。だから、現実的に国が少子化対策なり経済対策なりの参考とするためには、期間合計特殊出生率を用いるしかないわけです。


僕が初めて期間合計特殊出生率の計算方法を知った時は、「こんなの嘘っぱちの出生率じゃないか」と思ったものです。でも、出生率を何のために利用するのかといった視点で見れば、期間合計特殊出生率も合理的な指標となり得ることを最近になってわかりました。


統計の情報というのは、その情報の正確性よりも、利用目的の方が重要になるのかもしれませんね。


なお、この記事の最初に紹介した「データ分析 はじめの一歩」は、その名のとおり、統計の入門書です。高校1年生程度の数学の知識が必要になりますが、計算式を無視して読み進めていっても、概要は理解できるようになっていますよ。