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ウェブ1丁目図書館

読書で得ること感じること。ここはウェブ1丁目にある小さな図書館です。本の魅力をブログ形式でお伝えしています。

ゾンビのように蘇り続けるコレステロール悪玉説

2015年2月にアメリカ政府が、食事から摂取するコレステロールと血中コレステロールに因果関係がないことを発表しました。そして、2ヶ月後の4月には、日本の厚生労働省も同様の趣旨の発表を行い、日本人の食事摂取基準2015年版からコレステロールの目標量を削除しています。

日本の厚労省の発表によると、目標量を設定することに十分な科学的根拠が得られなかったということです。

科学的根拠が得られてなかったのにコレステロールの摂取量を制限すべきだと言っていたことに驚いた人もいるでしょうが、食事でたくさんコレステロールを摂取しても血中コレステロールの値が変わらないことは何十年も前からわかっていたんですよね。それなのになぜコレステロール悪玉説が唱えられ、今もなお生き続けているのでしょうか?

コレステロールを薬で下げる必要があるのか?

健康診断でコレステロールの値が高いと診断されて、それを下げる薬を服用するようになったという方がいらっしゃるでしょう。

現在、コレステロール値を下げる薬として処方されているものにスタチンがあります。日本脂質栄養学会の理事長をつとめたことがある脂質栄養学を専門とする浜崎智仁さんの著書「コレステロール値が高いほうがずっと長生きできる」によると、日本ではスタチンが2,500億円も使用されており、全世界だと3兆円にも上るそうです。

スタチンを処方された方ならご存知でしょうが、一度処方されれば継続的に服用しなければなりません。病院や製薬会社にしてみると、一度処方すれば継続的に安定して売上が上がるので、非常にありがたい薬です。それは、携帯電話の2年縛りの契約と同じです。むしろ、いつまでといった期限なく処方するスタチンは、無期限に会費を徴収し続ける会員制ビジネスのようなものですね。

もちろんコレステロール値が高いことが健康に何らかの問題を引き起こすというのならスタチンを処方する必要はあるでしょう。しかし、浜崎さんは、コレステロール値が低いよりも高い方が長生きをするのだから、スタチンでコレステロールを下げることは健康な人を不健康にさせる行為だと述べています。


前掲書を読むと、男性の場合、血中の総コレステロール値が1デシリットルあたり160mg(160mg/dl)未満の人は、160~199mg/dlの人と比較すると死亡率が6割高くなることが示されています。また、総コレステロール値が200~239mg/dlになると死亡率が低くなり、総コレステロール値が低いよりも高い方が長生きだとされています。

このようなデータがあるのにスタチンを使ってまでコレステロール値を下げる理由はどこにあるのでしょうか?

コレステロール悪玉説の始まり

コレステロール悪玉説は、20世紀初頭に行われたロシアの実験から始まりました。

この実験では高コレステロール食を与えられたウサギが、大動脈に動脈硬化を生じたというもので、実験にはいろいろと問題があります。草食動物のウサギに人間でも食べない量の卵を食べさせて、血中コレステロール値が上がったと結論付けたのです。

しかし、冒頭でも述べたように2015年にアメリカと日本で、血中コレステロール値と食事から摂取するコレステロールに因果関係はないと発表されていますから、この実験は人間には当てはまらないということです。


ウサギを使った実験結果をゾンビのように蘇らせたのは、アメリカの栄養学者アンセル・キーズでした。彼が、「コレステロールは動脈を詰まらせる」「血中コレステロールを上げるのは動物性脂肪の摂り過ぎが原因である」と主張したことで、コレステロール悪玉説が定着し、今日に至っています。

その間にコレステロール悪玉説が間違っている証拠を提示する生物学者や医師もいたのですが、不思議と今日まで生き続けています。

中身が同じでも善玉と悪玉に分ける

コレステロール値が高い方が長生きするというデータが提示されても、コレステロール悪玉説が生き残っているのには、新説を作り出してきたという理由があります。

コレステロール悪玉説派は、コレステロールをHDL-コレステロールとLDL-コレステロールがあることを見つけだし、前者を善玉コレステロール、後者を悪玉コレステロールと呼ぶようになりました。そして、悪玉コレステロールの値が高いと異常、善玉コレステロールの値が低くても異常としたのです。

HDLもLDLもコレステロールを運搬するリポタンパクのことです。比重の高いリポタンパクに「H」、比重の低いリポタンパクに「L」を冠したものであり、どちらも運搬するコレステロールに違いはありません。LDLはコレステロールを肝臓から体の隅々に運び、HDLは体の各部で余ったコレステロールを回収し肝臓に戻す役割をしています。


わかりやすく例えると、新幹線の上り列車がHDL、下り列車がLDLということです。どちらも同じ新幹線なのに新大阪から東京に向かう新幹線が正義の味方で、東京から新大阪に向かう新幹線が悪の手下と分けているのと同じです。

こんなことを大阪の人の前で言おうものなら、


「東京出張から帰ってきた大阪人は、みんな犯罪者っちゅうんか!」


と大声で怒鳴られますよ。

コレステロールは細胞膜を作るために欠かせない

そもそもコレステロールは、細胞膜の構成成分となっている重要な物質です。

細胞膜は、細胞の内外を隔てるために重要です。さらに栄養素を細胞の中に届けたり、細胞内から分泌物を外に出したりといった働きをしています。人間だけでなく生物が健康でいられるために細胞膜は非常に大切な役割を果たしているのですから、コレステロールも健康維持にとって欠かすことはできません。

コレステロールは危険なものではなく、ほかの物質と反応することの少ない、極めて安全な物質である。その安全な性質のために、細胞膜の主要構成成分となっている。もしもコレステロールが危険で反応性が高いものなら、細胞は存在できない。
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コレステロール悪玉説派の中には、コレステロールが血液の粘度を高めて血流を悪くすると言っている人もいますが、細胞膜の働きを見ればそのようなことはないとわかるでしょう。もしもコレステロールが粘度の高い物質であれば、様々な物質とくっついて細胞膜の透過性が損なわれてしまいます。

科学は多数決で負けることがある

さて、コレステロールが健康に悪影響を与えないことは明らかですが、それでもコレステロール悪玉説は生き続けています。そして、これからも生き続けるかもしれませんし、いったん消滅したかに見えても再び蘇るかもしれません。

科学的にコレステロールが問題のない物質だと明らかになれば、コレステロール悪玉説は消えると思うでしょうが、時として科学は多数決に負けることがあります。

浜崎さんは、一般の研究者達に学会などでコレステロール悪玉説の問題点を指摘しています。そして、その場の多くの医師や研究者がまじめに聞いてくれるそうです。

しかし、コレステロール悪玉説が生き続けているのは、発信される情報量に差があるからだと、浜崎さんは述べています。

テレビをつければ、健康番組などで「コレステロールを控えましょう」と言っていたり、コレステロールゼロの植物油のCMが流れてたりしますから、一般人がコレステロール悪玉説を信じてしまうのも仕方ありません。

科学的に正しいことでも、多数決が優先されている良い事例です。

しかも、健康や美容に関する多数決は、1人1票ではなく、資金力が物をいう世界のように感じます。選挙が1人1票ではなく、納めた税金が多ければ多いほどたくさんの票を投じられる仕組みになっているようなものですね。

コレステロール値が高いほうがずっと長生きできる (講談社+α新書)

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