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ウェブ1丁目図書館

読書で得ること感じること。ここはウェブ1丁目にある小さな図書館です。本の魅力をブログ形式でお伝えしています。

美味しいとは適しているかどうか。7割引きで成功した飲食店。

経営者

テレビ東京系列で放送されているカンブリア宮殿は、作家の村上龍さんとゲストの経営者の方が対談する番組です。

僕はこの番組が好きで毎週見ています。作られたドラマよりも、経営者の方の実体験の方が、ハラハラするというのか、驚くことがたくさんあります。

イタリアンレストランをチェーン展開するサイゼリヤの会長の正垣泰彦さんは、大学時代に論理物理学を学んでいた理系の経営者です。正垣さんと龍さんのトークを聞いていると、さすがに理系の経営者の方は、発想が違うなと思いましたね。

美味しいとは何なのか?

正垣さんが出演された時の内容は、「カンブリア宮殿 村上龍×経済人 人が活きる会社」に収録されています。


食事をした時、美味しかったとか、まずかったとか、料理の感想を述べることがあるでしょう。

ところで、美味しいとはどういうことなのでしょうか?

これって、考えてみるとなかなか難しいんですよね。カレーライスが好きな人は、食後に美味しかったというでしょう。でも、カレーライスが嫌いな人の場合なら、食後、美味しくなかったというはずです。また、カレーライスが好きな人でも、全てのカレーライスを美味しいということはないですよね。野菜を嫌いな人が、夏野菜カレーを食べたらまずかったというでしょうから、カレー好きだからと言って、全てのカレーライスを好むわけではありません。

結局、料理が美味しいかどうかというのは、人によって違うということですし、好き嫌いにも左右されるので、一概においしい料理を定義することはできません。

でも、飲食店を経営していくなら、この「美味しい」という概念を定義しなければなりません。美味しい料理を提供して、初めて売上が上がるのですから。

では、サイゼリヤでは、美味しいをどう定義しているのでしょうか?

それに対する正垣さんの答えが、まさに仮説を立てて検証するという論理物理学の立場に立ったものなんですよね。

美味しいというのはどういう意味なのか。自分たちはビジネスをやっていますから、美味しいというのはお客さんが増えることなんです。昔と今でサイゼリヤの味は変わったじゃないかと言われて、美味しくなりましたと言えるのは、客数が増えているからです。(中略)ですからお客さんが増えるのが美味しいということだと定義しているんです。(308~309ページ)

これは、仮説を立てて検証を繰り返してきたから出せた結論なのでしょう。

メディアで美味しいといわれているお店なのにお客さんが少ない、あるいは、まずいと言われながらもお客さんがたくさん入っている、そんなことはよくあることです。そうすると、何が美味しくて何がまずいのか、わからなくなりますよね。人の味覚なんて十人十色なのですから、それだったら、お客さんが増えることを「美味しい」と定義した方が、飲食店を経営しやすくなるのではないでしょうか?

状況に応じて美味しさは変わる

「美味しい」をお客さんが増えることと定義しました。

でも、高級レストランでの食事も低価格のサイゼリヤでの食事も、どちらも「美味しい」という人がいます。客数からいうと、高級レストランよりもサイゼリヤの方が多いでしょう。だからと言って、サイゼリヤの方が「美味しい」という結論にはならないはずです。

正垣さんによると、「美味しい」というのは適しているかどうかということになります。そのときに適しているのが美味しいということであって、決して普遍的なものではありません。

食べ物も自分が適している食べ方をするのが一番豊かなんですよ。(中略)フランス料理は美味しい。だけどそれは何かイベントがあってお友達と行くときに美味しい。毎日、日常食で食べるには重たい、となるじゃないですか。日常食にはこっちのほうが適しているから美味しい。それを混同しちゃうと、ブランドみたいになっちゃって、これが絶対いいんだとなってしまう。(310ページ)

三ツ星レストランになることが、必ずしも良いことではありません。お客さんが、どのような場面で利用するお店なのかということを理解して、料理を提供することが大切なんですね。

7割引きまで価格を下げる

今でこそ、サイゼリヤは全国にたくさんのお店をチェーン展開していますが、最初の頃は、全然お客さんが入らなかったそうです。

そこで、正垣さんは、どうすればお客さんが来るんだろうと考えました。そして、お客さんは、お金よりも値打ちがあれば来てくれるのだから、料理の質は変えずに値段だけを下げ続ける実験をしました。

この辺りに論理物理学を勉強していた経歴が現れていますよね。

正垣さんによると、5割まで値段を下げても大したことはないそうです。でも、7割引きにすると、明らかに安すぎるからお客さんがびっくりするそうです。

上海のお店では、1日の客数が120人ほどだったのですが、潰れてもいいから7割引きにするようにと指示したところ、その日から2,000人もお客さんが来るようになりました。これにびっくりした店員が、おっかなくなって辞めてしまったそうです。

そもそもお客さんが来なければ、どの料理が人気なのかを把握することはできません。だから、まずは、お客さんがお値打ちと感じるところまで値段を下げる実験をするわけですね。

でも、サイゼリヤでは、すべての料理が当初の7割引きとなっているわけではありません。お客さんは、必ずしも安い物だけを食べるのではなく、それ以外の物も食べるから、すべてを7割引きにする必要はないということです。


ある日、突然、たくさんのお客さんが来店するようになると、スタッフ不足になって、お店を回すことができなくなります。無理して働かせると、スタッフが辞めてしまうので、そういうこともできません。

このような時、普通なら、従業員を雇うとか、7割引きにしていた料理をいくらか値上げして客数を減らすといった選択をするのではないでしょうか?値上げして客数が減っても、売上高を維持できれば、わざわざ安売りして、しんどい思いをしなくてもいいですから、それが合理的な選択に思えます。

でも、サイゼリヤは値上げを一切考えないそうです。

既存店が手一杯となった時は、近くに新店舗を開くというのがサイゼリヤの戦略です。つまり、2店舗、3店舗と近くに出店することで、既存店のお客さんを分散させるんですね。通常なら、新店舗は、ある程度離れたところに出店するものです。既存店とお客さんを取り合いにならないようにするためです。


先ほども述べましたが、サイゼリヤでは値上げをしません。正垣さんは、50年間一度も値上げを考えたことがないそうです。

値段を下げることが自分たちの社会貢献。どんどん下げる。下げ方と言うのが一つだけあって、それは原価を下げることでもなんでもなくて、自分たちの働き方の無駄をなくす。これが一番正しい値段の下げ方です。(322ページ)

料理の質は下げず、値段を下げるためには、無駄を省くしかありません。そのためにお店で出す料理は、あらかじめ工場で調理したものを使って、質を下げずに値段を下げているのだそうです。工場で調理するより手作りの方が美味しいと思ってしまいますが、手作りだと3割から4割バラつきが出るので、それだったら、工場で調理した方が品質が良いことが分かったとのこと。

ファミリーレストランでは、セントラルキッチンで、まとめて調理することが当たり前となっています。これを消費者は、手抜きだと決めつける風潮がありますが、実は、低価格で美味しい料理を作るのに適した仕組みなんですね。正垣さん風に言うと、「お値打ち」と言うことになるのでしょう。

また、正垣さんは、移動の際、新幹線は自由席、飛行機はエコノミーだそうです。

ファーストクラスに乗っていてもつまらないの。寝るならどこで寝ても同じ。自分は仕事をやっているのだから、自分たちが無駄を出さないでお客さんに少しでも安くて、美味しいものを提供する。それが一番楽しいじゃないですか。(323ページ)

このように言える経営者の方がどれほどいるでしょうか?

コストカットを理由に人件費を下げたり、原価を下げたりしても、お客さんへのサービスの質が下がるだけではないでしょうか。それよりも、仕事の中の無駄を見つけて省いていく努力をした方が、お客さんも喜び、客数も伸びるように思えるのですが。

カンブリア宮殿 村上龍×経済人―人が活きる会社

カンブリア宮殿 村上龍×経済人―人が活きる会社

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